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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
仕置きの章
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曲がった根性

この戦いは魔道士トウヤとラドルの力任せの肉弾戦とは違い、高等な技術戦だった。さばき、崩し、回避、退避、侵入と、攻撃よりも防御に重きを置いた動きの中で、おのおのが必殺の一撃を放つ隙をうかがっている。


格闘の素人ではない暗殺者の専技(せんぎ)を持つサルサの目がふたりの戦いを追っていた。

この戦いは……ヤバいかも。これはラドルのダメージの深さに戦いの行く末を案じているサルサの思いだ。


互いに譲らぬ攻防で教会墓地一帯を走り回る常識外の強さを持つふたり。


どちらが優位かと言えば夜王デンジラ戦で手ひどいダメージを負いながらも地力の勝っているラドルの方だ。ただし、リンカとサルサを守ることに意識と動きを割いている分、互角の戦いとなっている。


互いにクリーンヒットは無い。だが、ガードの上から叩き付け合うことで蓄積するダメージがどちらが上かと言えば一目瞭然だった。


焼けた地面の泥と(すす)にまみれるふたりの攻防に変化が起こる。


シンの上段回し蹴りがガードするラドルの頭部をわずかに揺らした。ガードされたことで不安定な態勢のシンが後ろに跳び下がる。それを好機と見たラドルが追撃しようと踏み出したとき、彼の膝がほんの少しだけ落ちた。


「ギガン・ブラスト」


シンはその隙を見落とさない。左手を突き出して魔法を放った。


これは魔道士トウヤが最初にラドルに向かって放った魔法の上位版だ。


魔力弾は着弾すると爆発して広範囲を焼き尽くすため、この距離でラドルに当たれば術者のシンも巻き込まれてしまう。


ニヤっと笑うシンの表情があやしい意図を感じさせる。


照度の低いこの場で突き出したシンの手が眩く光り、ニヤッと笑うシンの表情が一瞬見えた。


シンの魔法を体を捩って交わす中で、その表情の怪しい意図を感じとったラドル。だが、それに気付いたとしても対処のしようはなかった。


後方から伝わる熱波はギガン・ブラストの光球がサルサとリンカがいた場所に着弾したことを伝える。


魔法発動の閃光を目くらましにし、仲間とリンカが攻撃されたことでのラドルの動揺を利用して、シンは足元に落ちている剣を拾いラドルに接近。


「魔王両断剣」


白く輝く魔滅の力を纏った刃を振り上げた。


一瞬遅れたラドルのクロスアームブロックをすり抜けて、頭蓋に接触したであろう鈍い金属音が響く。シンの剣が下段まで一気に通過すると、その後方でギガン・ブラストの熱波が収束して光と熱が引いていく。


ほんの一瞬ではあるが時間が凍り付いたようにふたりは動きを止めていた。


「嘘だ……」


「いや、俺は嘘が嫌いだ」


弾けるように跳び下がるシン。彼が間合いを取るのと同じ速さでラドルは距離を詰める。


「寄るな!」


それを嫌がるシンが振り回す剣の刀身は半ばから折れていた。その剣をなんなくかわすラドルの左フックがシンの顔面を捉えると、たたらを踏むシンが倒れる間を与えず、返す右フックも彼の頬を打ち抜いた。


「ぶはっ」


体を二回転させて人形のように地面に倒れて天をあおぐシンに、ラドルは告げる。


「残念だがオレは魔王じゃない」


「ぐっ、そういう問題じゃ……ない」


シンは大の字のまま動けない。


「あの状況で……、剣を叩き折ったのか」


ラドルはクロスアームブロックをしたのではなく、両手のひらで挟み込んで剣を叩き折っていたのだった。


「来るとわかっていればできないことはない。オレと同格以下ならな」


「来ると……、わかっていた? お前の仲間とリンカが狙われたあの状況で待ち構えていただと?」

ラドルは振り向かず親指で後ろを指差した。


首だけを持ち上げその方向を見たシンは理解する。彼らが倒れているその周りには青くキラキラとした物が舞っており、サルサとリンカは無傷だった。


「ラドルさん。これは料金をいただきますからね」


それは非常に強い効果を持った魔法障壁系統の魔道具だ。サルサであっても使うことが躊躇われるほど高価なうえに一回こっきりの使い捨て。職業柄命を狙われることもあるサルサが、緊急用に常に持ち歩いていることをラドルは知っていたのだ。


「奴らを守るそぶりを見せつつ実質気にせず戦っていやがったのか」


「力でひねり潰すとか言ったおまえが姑息な手段を取ったのと似たようなもんだ。オレは口には出してないから嘘ではないがな」


「お前はいったい何者だ……?」


手負いのラドルに拳聖と剣聖の力も使い、リンカたちを囮にしたにもかかわらず、倒せないどころか逆に倒された。そのことに脅威を感じてシンは思わずそう言った。


「俺が何者かって? 『なんでも屋』兼、『冒険者』兼、『仕置き人』だ」


力の入らない両腕をプルプルさせながら上体を起こしたシンの形相は怒りに満ちていた。


「おまえ()はもらいモノの力を自分の力と勘違いして振り回す。自分の力ではないからその力の制御も、力を使う心の制御もできずにやたらと暴れたがる。おまえの場合はもらいモノではなく奪ったモノらしいがな」


「そうさ、俺のスキルは奴らから奪ったモノ……。俺を蔑み追い出した奴らのモノだ!」


輝かしい戦闘職やいわゆるチートスキルを持つ者が多い中、シンは盗賊職だということで陰でバカにされていた。


職業による装備限定が華のある剣や槍といった武器を扱うことを許さない。このこともシンのプライドを傷つけて大きな被害妄想すら持つようになる。


結果、仲間たちとのあいだに大きな亀裂を作り、精神的にも肉体的にも攻撃し合うほどの関係となってしまった。


「だから全員見つけだして奪ってやるんだ。俺のチートスキルであるスキルスナッチでな」


「またチートか」


それはもともと盗賊スキルのひとつである【スキルコピー】で、コピー元のスキルには及ばないまでも一定数のスキルをコピーして所持することができるもの。仲間と共に力を合わせればかなりチートな能力だったのだが、彼は仲違いしてしまったことで、その能力をフルに発揮できずに宝の持ち腐れとなってしまう。そのスキルがシンの心の力に作用して変質したのが【スキルスナッチ】だ。


「このスキルで優越感に浸っていた奴らのスキルを根こそぎ奪ってやったのさ。そのスキルを使って俺は勇者になる」


「勇者になる? 勇者はなるモノじゃない。冠されるモノだ。だが、そんなモノを冠されたって特別いいことなんてないぜ。強くなるわけでもないしな」


「なんとでも言え。リンカのスキルさえ手に入れば俺は最強になれる」


「最強……。自分が最強と言う奴に今まで何人も会ってきた。この世界にはいったい何人最強がいるんだ? トウヤって奴も最強だと言っていた。最強、最強っておまえらみたいな小僧が最強なわけがないだろ?」


ラドルは呆れ顔で首を横に振った。


「トウヤか。噂を聞いてアーキンドムに来たんだが、その頃から名前を聞かなくなったな。そいつのスキルも奪ってやるつもりだったのによ」


「もうそれはできない」


「ん? まさかお前がそいつを……?」


「気にするな。どの道おまえはここで終わる」


「俺が終るって?」


ラドルと会話しながらも、どうにか立ちあがるのだが、その足は生まれたての仔鹿のように震えて居た。


そんなシンは薄く笑いを浮かべつつ、ポーチからなにかを取り出した。


「お前は強い。この世界で俺が会った奴の中で三指には入るかもな。お前を倒せば俺はそいつらと肩を並べることは間違いない」


暗がりでよく見えないが、彼の手に握られているのはその手のひらに収まるほどの大きさの物だ。シンは親指でなにかを弾き、それを口に持っていく。


「あれは!」


叫んだのはサルサ。同時にシンはそれを一気に飲み干した。


「お前の余裕ぶった態度が気に入らない。上から冷静に見下す態度が気に入らない。それが許されるのはチートスキルで最強になった俺だ!」


シンの体からダメージが消えていく。破れた服の下の筋肉が隆起し、発する闘気と魔力が今までよりも格段に強くなった。


「どうだ、これがリンカのスキルを欲する理由だ」


彼が飲んだのは教会でリンカに作らせた特別なポーションだ。


「これはソウルビットポーション。飲んだ者のレベルを上げるうえに、一時的に上昇したレベルよりもさらに能力を高めることができる」


「バカが。そんなもん飲みやがって。へたすりゃ死ぬぞ」


「かもな。だが俺は耐えてみせる。そして、最強の勇者になる!」


力を手に入れるために常人の善性を失っているシンではあったが、その目から感じる力はある意味純粋だった。


「曲がってはいてもたいした根性だ。だがな、オレにはそれを真っ直ぐにしてやることはできない。へし折るだけだ」


「ぬかせっ!」


第二ラウンドのゴングがふたりの心に鳴り響く。

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