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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
仕置きの章
39/91

実力

ラドルとシンのあいだで牽制し合う闘気が渦巻いている。これは以前リンカの店の前でもおこなわれた。しかし、今回はふたりだけにしかわからないやり取りではなく、くっきりと目に見えるわけではないが、戦いの素人でも空気が歪んでいるように感じるほど。


このやり取りはどちらかと言えばラドルが優勢だ。それは不意打ちを受けてシンが剣を落としてしまっていたことで、彼の戦術の幅が狭まったからだ。


「拾えよ。それが無いと借り物の力すら発揮できないんだろ?」


借り物の力という言葉にシンの怒りゲージがグンと伸びる。


「たしかに剣が無ければお前に勝つのは難しいだろう。逆に言えば剣を手にした俺にお前は勝てないと言うことだ」


「だったら拾えよ。その考えが間違いだってことを教えてやる」


自分の優位を捨てる提案で、剣を拾うことを容赦するラドル。その真意はシンだけでなく相棒のサルサにもわからない。


足元で燃える残り火が闇の中にたたずむふたりの輪郭を浮き上がらせている。


ラドルへの意識と剣への意識を分けながらシンは出方をうかがっていた。


ラドルがその言葉のとおりに剣を拾うことへの警戒をしないのは余裕なのか。それともその意識を隠す技術か。シンも剣への意識を隠しながら間合いを計る。


「フレアボムズ」


無拍子。このスキルは予備動作なく中級以下の別スキルを発動させる。すでに突き出されていた手のひらから複数の光球がラドルに向かって撃ち出された。炸裂した光球は爆発して高熱を発し、熱波と土煙がラドルを覆う。


「拾え」というラドルの言葉を真に受けず、罠と解釈したシンはしっかりと視界をさえぎった。


それを見ていたサルサは虚を突かれる。きっとこの戦いを見ている者がいたのなら大半の者はそうだったであろう。なぜなら、シンがフレアボムズを使ったのは剣を拾うためにではなく、サルサの横に倒れるリンカにトドメを刺すためだったからだ。


『戦いの勝利なんてリンカの命を絶ってからでいい』


これがシンが考えていたことだ。


いかにも一騎打ちが始まりそうな雰囲気に持っていきながら、シンはリンカを狙うという意識を隠してラドルと向き合っていた。こういった駆け引きは魔道士トウヤにはなかったモノ。つまりシンは闘士として魔道士トウヤよりも上である。


闘気を纏わせた拳を振り上げたシンはすでにリンカの目前。サルサが声を上げる間もない。


一撃で確実に殺しうる威力の技には、ひと欠片の迷いもなかった。


視界を奪われた上に予想外の行動を取られてしまえば、ラドルと言えど対応できるはずもない。


歓喜と狂気の目でリンカを襲うシンだったが、その背後に人影が追いすがる。それに気付いた彼は体を捻って両腕を盾にした。


背後に迫ったラドルの拳がその腕に叩きつけられる。


「ラドルさん!」


シンは標的のリンカを飛び越えて地面に何度か弾かれながら隣の墓地まで吹っ飛んでいった。


「罰が当たりますよ」


「あいつを止めるためなら甘んじて受ける」


「そこは『リンカを守るためなら』って言ったほうがカッコいいのに」


ラドルは返答せずにとなりの墓地に向かって歩いて行く。そして、倒れるシンにこう言った。


「墓に入るにはちょっと早いぞ」


半分土に埋まっているシンに贈った言葉に、彼の怒りゲージはさらに高く伸びていく。


「ゆるさん!」


言葉と一緒に発した闘気が周りの土を吹き飛ばした。


怒りの形相をあらわにしながら立ち上がったシンは、仰々しいほどの大きな構えを取る。それは漫画やアニメの主人公が取りそうな一見して隙だらけの構えだった。


「剣は使わなくていいのか?」


「無くても問題ない。俺は【剣聖】のスキルだけじゃなく【拳聖】のスキルも持っている」


「意味がわからん」


この世界の住人であるラドルに対して文字にしないと伝わらない説明をしたシンが「こぉぉぉぉぉ」というそれっぽい呼吸法を使うと、その闘気が一気に高まり体の周りに風の渦が昇った。


「疾風突き」


ラドルの制空圏へと踏み込んだシンの突進速度は、その構えからは物理的にあり得ない。これは拳聖のスキルがもたらした力だ。


その勢いが乗った彼の正拳突きがラドルの心臓へ向けて撃ち出された。アームブロックで急所を守ったラドルだが、隣の墓地から再びサルサのいる教会のそばへと押し戻されてしまう。


「ラドルさん!」


しびれる腕を見て拳を握りなおし、再び構えを取るラドルの表情は見えない。その心情はいかなるものかとサルサは不安を抱いていた。


今シンが見せた力がラドルの脅威になるのなら、この戦いは凄惨な結果になるのではないかという危機感がサルサを襲う。今の一撃が本気なのか、さらに上の力があるのかで、この戦いの行き着く先(・・・・・・・・・・)が変わるかもしれないと肝を冷やしていた。


十メートル程度離れたところまで歩いてきたシンも再び大きな構えを取った。


「よく見たらお前はひどいダメージを負ってるじゃないか」


暗闇に目が慣れてきたことと落ち着きを取り戻したことで、シンはようやく状況と対戦相手の状態を確認する。


「これなら本気を出す必要もなさそうだ」


ひどいダメージと大きな消耗のあるラドルの姿に気が付いたシンが、異世界人にありがちな言葉を口にしたため、ラドルは鼻で笑った。


その態度を不快に感じたシンだったが、ラドルの消耗具合を知ったことでの心のゆとりが、すぐに精神を安定させる。


「お前たちとリンカを殺る前にひとつ聞いておきたい。なぜお前はさっき俺が剣を拾いに行かずにリンカを狙うことがわかったんだ? 完全に虚を突いたと思っていたんだけどな」


それはサルサも知りたいところだった。あれはわかっていなければ絶対に防げない。


その問いに対するラドルの返答は実に明確なモノだった。


「おまえがどんなことを企て、どんな行動を取ろうとも、オレはサルサの倒れたこの場所に行くつもりだった。そのためにおまえの意識を剣を取りに行くように誘導した」


「さすがです。でもそこはリンカを守るつもりだったと言った方がカッコいいですよ」


だが、またしてもサルサの言葉に対する返答はしない。


「なるほど。やりにくい奴だ。そんなお前を倒すにはやはり力でひねり潰すしかなさそうだ」


「ラドルさん、こんなこと言ってますけどそいつは嘘つきです。『剣が無ければおまえに勝つのは不可能だろう』とか言っておきながら、たいそうな体術を使うし、絶対今もリンカさんを狙ってるはずです」


「さっきからうるさい。いちいち突っ込むな。しゃべる余裕があるなら立ち上がってここを離れろ」


「それができないからこうして倒れているんです」


ふたりのやり取りを見ていたシンの気勢がグンと増す。それが生み出した一陣の風がラドルの前髪を跳ねあげた。


「別れの挨拶がそれでいいのか?」


「あぁこれでいい。おまえを倒したあとで、また再会して挨拶する」


そう言葉を交わしたふたりは互いの制空圏へと大きく踏み込んだ。

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