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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
仕置きの章
38/91

フラグ

仲間だと信じていたシンに刃を向けられているリンカだが、彼女はそのことが信じられない。殺されるという自覚がまだないため、リンカは声を荒げながらシンにその意図を確認した。


「シンさんはわたしから精清水を作る力を奪う目的で誘ったっていうの?」


「精清水を作るだけの能力であれば奪う必要なんてなかったが、このソウルビットポーションが作れるとなればそうはいかない」


シンは床に置かれていた小瓶を拾い上げた。


「リンカがなにかの理由で俺の元を離れたり、これを作らなくなったり、ましてや誰かに殺されたりしたら困るからな」


「ですよぉぉぉぉねっ」


サルサはシンの足元に煙幕弾を投げつけた。瞬く間に白い煙が立ち上ってシンを包みこむ。


「リンカさん今のうちに出口へ」


「逃がすかっ」


振り向き出口へ行こうとするシンだったが、側面からサルサが現れシンの心臓へナイフを突き立てた。


再び紫の光とパシッと音が鳴るとサルサのナイフはそれ以上は進まず止まってしまう。


「リンカを出口に行かせたと思わせての不意打ちか」


サルサは後ろに跳び退るが、斬り上げたシンの剣が脇腹を斬り裂いた。ヨタヨタのして半分煙幕に入り、リンカの影の前で彼女を庇うようにシンと向かい合う。


「意識の外から急所を狙ったのは逆に悪手でした。クリティカルキャンセラーとはやっかいな加護ですね」


「言っておくがこれは俺のスキルじゃない。俺のように召喚された者はシステムによって即死攻撃から守られているのさ。もちろんダメージは受けるがあくまで数値が減るだけで心臓を刺されて即エンドってことにはならない」


シンは話し終えると「ステータス」という言葉を呟いた。視線を下に落として表示されたウィンドウを見ているが、サルサにはそれが見えない。


「おぉ、とは言ってもけっこうHPが減ってるな。クリティカルとは言え驚いたぜ。そのナイフは業物か?」


シンの言うとおりサルサのナイフはかなり高い等級の物だ。


脇腹の傷はサルサの服を真っ赤に染め、抑える手の指を伝って血液が床に滴っている。それを見ているシンは腰のポーチからポーションをひとつ取り出して飲み干した。


「低級ポーションは一気に回復しないのが難点だ。でもリンカが作った物は違う。これが質の差だな」


サルサには見えないがシンのステータスウィンドウではHPがグングンと回復していた。


「ではふたりまとめて斬らせてもらう」


「それをされちゃうとオイラがラドルさんにお仕置きされちゃうんですけどね」


「あの世に行けばお仕置きなんてされないだろ」


「あははは、うまいこと言いますね」


煙幕が少し晴れてくると、逆にシンの表情が曇った。その理由は、サルサの後ろに立っていたと思われた影はリンカではなく、背の高い燭台にバケツを被せ、リンカの着ていた上着を羽織らせた物だった。


燭台に気配すら感じて、それがリンカだと思っていたシン。その表情の変化にサルサは傷の痛みをこらえて笑って返した。


「気配をダブらせる技術です。異世界人的に言えばスキルでしょうか? でも誰かにもらったのではなく、ましてや奪ったモノでもなく、訓練で身に付けた技術です」


異世界人がシステムによって身に付けるスキルではないことを強調して挑発気味に話すサルサ。これもリンカから意識をそらすための話術だ。


「おしゃべりしているあいだに彼女はとっくに外ですよ」


シンはサルサに背を向けて外に飛び出し、薄暗い墓地を見回しリンカを探す。彼女のスキル取得の条件を満たすには、殺す必要があるために逃がすわけにはいかないのだ。


「隠れたか。それならこれでどうだ」


剣を水平に構えたシンは力を溜めて足を大きく踏み出した。


「断空!」


横に振るわれた剣から放たれた刃が無数の墓石を一気に両断する。


「サルサさん」


煙幕がまだ残る教会内で彼の名を小声で呼ぶのはリンカ。サルサの指示で教壇の裏に隠れていたのだ。


「今のうちに教会の裏へ逃げてください」


「でもこのままじゃサルサさんが」


涙目の彼女はポーチから小瓶を取り出してサルサの傷にかけた。


彼女の作った強力なポーションの効果で傷はどんどん塞がっていく。


「これは凄い効き目だ。ぜひオイラと一緒に商売してください」


「生き残ったら考えますから早く逃げましょう」


ふたりが裏口から外に出ようと扉を開けたそのとき、突如教会が爆発した。


一瞬意識が飛んでいたサルサが目を開けると、教会は倒壊しており、周辺の墓石も吹き飛んでいた。


「こんなところにいたのか。おかげで一日に一回しか使えないスキルを使っちまった」


熱波による火傷、瓦礫に撃たれた打撲、そして地面を転がった裂傷によりふたりは動けない。

「リンカさん」


サルサが伸ばした手をシンが踏みつけた。


「さぁここまでだリンカ。死んで俺の糧になれ」


今までの彼とはまったく違う冷たい視線の言葉だった。そんな彼にサルサは問いかける。


「本当にいいんですか、殺しちゃって?」


シンはギロリとサルサを見ながら言った。


「そのために俺は今日までやってきたんだ」


その言葉を聞いたサルサの背筋は凍り付くようだったのだが、痛みをこらえ、丹田に力を込めてシンに言い返した。


「その耳をかっぽじってよーーーーく聞いてください。もしあなたがその子を殺すとね……」


「どうなるって言うんだ?」


「さすがにあなたもラドルさんに殺されるかもしれませんよ」


サルサが墓地の方を指差すとシンがそちらに視線を向けた。


「ぐがっ」


その反対側から飛んできたラドルの蹴りが彼の背中に突き刺さり、ふたりは焼けた墓地の跡地に衝突して大きな土煙を巻き上げた。


「不意打ちかっ!」


背後からのラドルの飛び蹴りを受けても文句を言いながら立ち上がることから、シンの強さが常人の域を出ていることがうかがえる。


「ギリギリで飛び込んでくるなんて、物語の主人公っぽい登場です。さすがラドルさんだ。この戦いの勝利は決まったも同然ですね」


サルサはうつ伏したまま戦いの勝利と事態の収拾を確信して言葉に出した。


その言葉が耳に届いたシンはこう言い返す。


「そういうセリフは『フラグ』と言って、口に出した側に不幸な結末が待っているっていうのが定番なんだぜ」


「それがおまえの世界の法則ならオレには通じない」


半身の姿勢から肩越しにシンを睨み付けたラドルが冷たく低い声で否定した。

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