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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
仕置きの章
33/91

空振り

リンカの店の前で彼女らの帰りを待ちながらサルサに事の経緯を話すラドル。それを聞いたサルサは顎が外れるほど大口を開けて驚きつつ、自分が手に入れた冒険者シンに関する情報をラドルに伝えた。


サルサの肌をザラザラとしたなにかが触れるようにラドルの周りの空気が変わる。


「……ってことで、シンが村人の死の要因であると言えますね」


「異世界人ってのはどいつもこいつも……」


「助けるんですか? それとも、いつも通りのお仕置きですか?」


「決まっている」


どっちに決まっているのやらと、サルサ肩をすくめた。


日が傾き、西日の強さも落ち着き始めた時刻。店の前で帰りを待つことが悪手だと感じたラドルは、サルサをここに残してもう一度ハイテール山に向かおうかと考えた。ちょうどそのタイミングで買い出しに出ていたらしいリンカの仲間の男が、両手に袋を下げて帰ってきた。


「またあんたらか」


「さきほどはどうも。おかげで一命は取り留めました」


すぐさまサルサがラドルの前に入って丁寧にお礼を言う。


「いや、こっちもいい商売になったし俺のふところも温まったから」


サルサはラドルの顔をチラッとだけ見る。


「ところで……」


サルサはもっと大量にポーションが欲しいことを話してシンとリンカがいつ帰ってくるかと探りをいれると、気分を良くしている彼は緩んだ警戒心のまま冗舌に語ってくれた。


「今夜は山の向こうにあるフモートンの街で一泊してからレフティーン王国に行くから数日は戻らないよ。そこで今後の魔王討伐に必要な特別なポーションを作るらしいんだ」


ということだった。


「急いだほうがいいですね」


「だな。最終段階に入ってそうだ」


ふたりは急ぎ馬車乗り場に向かった。


「高速馬車か?」


「そうです。フモートン直行便。もちろん依頼の一環なのでオイラが支払います」


「金がなくなって金のありがたみがわかったよ」


「溜めるつもりで溜めてるオイラと、なんとなく溜まっていたラドルさんの違いです。ご利用は計画的に、です」


指定価格よりも金額を積み、素早く受付を済ませて馬車を出させたサルサは、御者の尻を叩いて馬の尻を叩かせる。日が暮れる前にフモートンに到着してシンとリンカを探したいのだ。


幸いにも野生獣に襲われることもなく、小休憩を一度挟んだだけで目的の街に到着した。ちょうど日が暮れる時間だったため、彼らは街にいくつかある宿を順番に回り始めた。


「……というわけで、この依頼の解決のために協力して欲しいんです」


ギルドの正式依頼であると提示すればある程度対応してくれる。あくまでその人のサジ加減ではあるのだが。


「なにが知りたいんだい?」


「この呪われた村出身の少女が泊まっているかどうかです。呪いの調査をするためにどうしても彼女に会う必要があります」


依頼とは関係ないのだがサルサは軽々しく嘘をつく。噂に聞いた呪いの村の依頼だと聞いた店主は顔を引きつらせた。そんな少女が泊っているとなれば、自分たちにもその呪いが降りかかるのではないかという恐怖があったからだ。


「その子の名前は?」


「リンカという黒髪の少女です」


宿の店主はいそいそと台帳を開いた。


「うーん、今はそんな子は泊ってないね」


「では冒険者のシンという人は? 彼も黒髪で割とハンサムな剣士風の人です」


「……その名前もないね」


「そうですか。まだ来てないだけかもしれないので夜にまた来ます。オイラたちが来たことは内密に」


「暴れたりしないだろうね?」


「相手は女の子ですよ。話を聞くだけですからご心配なく」


ふたりはこんなやり取りを十件近くやったが全部空振りだった。


「早過ぎましたかね。どっかで食事をしているかもしれません。オイラたちも入りましょう」


ピタリと足を止めたラドルにサルサは振り向き言った。


「もちろんオイラのおごりです」


「いや、こいつで払う」


ラドルは手首に巻いている幸運を呼ぶお守りを見せた。


「あぁそいつの日給ですね。おごるって言ってるのに律儀だなぁ」


「無駄な借りは作らん」


わかりましたというジェスチャーを返してサルサは適当な店に入った。


食事を終えて出てきたふたりはもう一度宿屋を回る。すでに日は沈みそろそろ宿を取る冒険者や旅行者も増えたはずだと、二手に分かれた。


決めておいた待ち合わせ場所に戻ったサルサはラドルに状況を聞くがどこにも泊まってはいなかった。


「おかしいですねぇ。この時間だし普通ならハイテール山からとっくに下山して街にいるはずですがね。ここの情報屋にも聞いてみましたけど見つかりません」


悩むサルサにラドルは言った。


「普通じゃないのかもな」


「え? どういうことですか?」


「なにかの事情か状況が変わったか、すでにレフティーンに向かったのかもしれん」


「げっ、店番の言葉を真に受けてしまってましたよ」


「仕方ないさ。あいつだって詳しくは知らないんだろう。さてどうするか」


今夜は空に雲があって月どころか星すら出ていない。こんな夜に馬車でレフティーンに行くのは危険である。それは夜が獣の世界であるからだ。


昼間でも安全とは言い難い平原は、夜には完全に獣たちのテリトリーと化す。そのため、夜に街や城の外に出てはいけないというのは常識だ。それを見越してふたりはこの街を経由せずにレフティーンに向かったのかもとサルサは言う。その理由はラドルを警戒してのことだろうと。


「オレに邪魔されかねないと考えて目的の遂行を急いだか」


「そうなるとリンカさんが心配です」


「あいつの持つスキルがおまえの情報通りなら、あの女は……」


見知った人の危機を想像してサルサは思わずこう口にした。


「やはりここは危険を冒してでも、今から追いかけた方がいいかも……しれません。……彼女のことを思えばですけど」


後半になるほど言葉の勢いはしおれていく。


「個人的にはどう思う?」


上目遣いで意思確認をされたサルサは「絶対に行きたくありません!」と力強く言い切った。

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