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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
仕置きの章
29/91

魔力侵食

「おい、ヤルキー」


「ヤルキーさん?!」


シズラが駆け寄り声をかけるが返事はない。


「ヤルキーさん!」


ヤルキーは全身の力が抜けており、完全に意識を失っていた。


「誰かぁ、白魔術が使える方はいませんかっ!」


その声掛けにひとりの白魔術士の男が立ち上がった。彼はすぐにヤルキーの状態を確認する。


「魔力酔いが酷い。こんなになる前に処置してなかったんですか?」


「いえ、三時間くらい前に他の白魔術士の方に魔力消去をかけてもらってまう。多少は改善したって本人も言っていたんですけど、急に症状が悪化してしまったんです」


「ならもう一度魔力消去の術をかけてみる」


魔力消去は敵から受けた魔術のデバフを消す、主に白魔術士が使う魔術だ。


「深く潜り我が友を乱す不純なる魔の力よ、我が魔の波紋によって静寂なる力に還さん。マジカレドピュアラ」


術士が手をかざして術式を組み上げると、ヤルキーの体の上に陣が展開される。しかし、その陣は一瞬で粉々になって消えてしまった。


「ダメだ。魔力が大き過ぎて俺の魔術ではあっというまに消去許容を満たしてしまう」


「そんなっ」


「それなら、魔力開放を使ってみよう」


この魔術は相手の魔力を強制的に放出させて魔法や魔術の威力を低減させる効果がある。


再度ヤルキーに手をかざして魔力開放の術式を組み上げるのだが。


「やめろ!」


ヤルキーの状態から危険な行為だと察したラドルが叫んだときには、すでに魔術陣が形成されてしまっていた。


「え?」


次の瞬間、噴き出した魔力の渦によって魔術陣は消滅し、ギルドの室内に魔力の渦が広がった。一瞬ではあったが激しい魔力の衝撃を受けた者たちの半数がその場に倒れてしまう。


「ヤルキーの状態は魔力酔いを超えた魔力浸食の域。それもかなり深い」


ラドルの言う魔力侵食という言葉に白魔術士の男は両手を上げた。


「これはもう神官や白魔道士クラスの大規模な儀式じゃないとどうにもならない」


ヤルキーは異世界人のトウヤの魔力とそれを打ち負かしたラドルの魔力を受けたことで、非常に重い魔力酔いになっていた。とうぜんあの場にいた護衛団や行商たちの何人かもかなり苦しんでいるのだが、ゆっくりなれどその症状は回復していくものだ。


ヤルキーがこれほど酷い状態になったのはラドルと複数回に渡って接触したからに他ならない。本来であればその魔力を刻んだ者に接触すればなにかしらの違和を感じるのだが、あのときラドルが認識阻害の仮面をしていたために、ギルドで再会してもそうとは感じることができなかった。これが今のような状態に至ってしまった要因だ。


「ともかく教会に連れて行きましょう。担架をお願いします。急いでください」


担架に乗せられて教会に運ばれていくヤルキーに手を貸したいラドルではあったが、悪化させる原因が自分であるため近付くこともできない。


大勢の者たちがヤルキーを心配して教会へと向かう中、彼はそれを見ていることしかできなかった。


ギルドに残ったラドルは机に額を付けてどうにかならないかと考えていた。思いつくのは白魔術士がおこなった魔力消去と魔力開放だが、生半可な魔術では先ほどのように陣が魔力によって消滅してしまう。


教会という場で高位の神官が術式をおこなうからといっても安心できない。それほどにトウヤの魔力とラドルの魔力は桁が違う。ヤルキーほどの実力者が魔力酔いになったのは、ふたりの魔力があまりに異質だったためだ。


「ちくしょう!」


彼が額を机に打ち付けたところにサルサがやってきた。


「ラドルさん?」


「サルサか。悪いが今はおまえと話す気分じゃないし時間もない」


顔も上げないラドルに、サルサは簡潔に話した。


「そうですか。ラドルさんに言われて調べた冒険者のシンについての報告だったんですけどね。いやぁ、あいつけっこうな黒ですよ」


「サルサっ」


「いや、すみません。リンカさんがあまりに可哀そうだったんですっ飛んで来たんですけど、ラドルさんも取り込みっぢゅうおう◎△$♪×¥●&%#?!」


跳び起きたラドルがサルサの胸ぐらを掴んだ。


「それだ!」


「どれです?」


「リンカだ!」


ラドルはサルサを突き飛ばすように手を放してリンカのいる店に向かった。


「大丈夫かい?」


倒れたサルサを近くの冒険者の青年が助け起こす。


「あたたたたた。いったいなにがあったんですか?」


サルサを助け起こした青年はここで起こったことを彼に語った。



   ***



「おい、誰かいないか! 開けてくれ。ポーションが欲しいんだ」


店に着いたラドルは扉が壊れてしまう二歩手前くらいの力でノックする。もう扉を壊して飛び込もうかとも考えたところで、ようやく店の中から返事がされた。


「申し訳ないけど今日は休業です」


「緊急だ! 人の命が懸かっている。開けてくれ。時間がない。この店のポーションが必要なんだ」


短い言葉を連ねて必死で状況を伝えると、以前客引きをしていた男が顔を出した。


「あんたは、このあいだの」


「頼む、ポーションを売ってくれ」


「売ってやりたいけど、あいにく在庫がほとんどない。今、リンカとシンが材料を取りに行っちまってるし」


「エクストラ以上のアンチマジックポーションはないか?」


男はドアから離れて中を探ってから再び顔を出した。


「エクストラポーションはヒールとアンチドートが数本あるだけだ。このクラスのポーションなんて滅多に売れないし、リンカも作るのは大変だから基本は注文生産しかしてない」


「くそっ! なら今あるアンチマジックポーションを全部くれ」


「あぁ、わかった」


ラドルの勢いに気圧されて、男は店の中に入っていった。


「そんなに買うお金持ってるんですか?」


振り向いたその場にはサルサが立っていた。そして、たいしてお金を持っていないことを思い出す。


「サルサ、貸してくれ! 倍返し、いや三倍返しする」


その一見釣り合わない取引条件にラドルの心情を垣間見たサルサは、ラドルの両肩に手を置いて落ち着かせる。


「お金は必要ありません。状況はギルドで教えてもらいました。できる限りは力になりますよ。まずはここの支払いですね」


サルサは指で帽子の鍔を上げてから財布を出した。


「アンチマジックポーションお待たせしました」


大きな麻袋にポーションを詰めた店員が出てくると、ラドルは男に近付く。


「女はどこに素材を取りに行ったんだ? 教えてくれ」


「それは企業秘密だから……」


「頼む!」


肩を掴んで頼んでいるが、脅しとも取れるほどラドルの腕には力が込められていた。

「いててててて、痛いって!」


そんな男にサルサは取引を持ちかける。


「お願いしますよ。人の命が懸かっているんです。そのポーションを倍の値で買わせてもらいます。ね? そしたらお兄さんのふところも温まるでしょ?」


「倍の値か……」


少し考える男に対して続けざまに釣り上げた値を叩き付ける。


「お兄さん、がめついね! わかった二・五倍、いや三倍出します。だから教えて頂戴な。こっちも切羽詰まってるけど、時間切れになったらそのポーションも必要なくなってしまうんですよ。そしたらお兄さんの取り分も店の売り上げもゼロだ。三倍がダメなら二・九倍、二・八倍……」


「わ、わかった。教える、教えるから」


儲けが下がっていくのを聞いてあわてて了承する店員は、リンカの居場所を彼らに話した。


「リンカとシンが向かったのはハイテール山の中腹あたりだ。シンがリンカに作らせようとしているハイエンドポーションの素材がそこにあるらしい」


「サルサ、あとは任せた」


その短い単語も言い終わる前にラドルは走り出して飛び上がった。


「飛行の魔法!」


ラドルは一直線にハイテール山に向かって飛んでいった。

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