嘘じゃない
標的のライノスロックを倒したラドルは洞窟のそばの岩場に座り、持ってきた保存食を食べながら時間を潰していた。そして、のんびりと村に戻って村長に依頼の完遂を報告する。
「もう終ったのですか?」と驚かれたラドルは「運が良かったんだ」と三頭同時に現れたことへの感想を述べた。
「達成確認が済んだらなるだけ早くギルドに報告してくれ」
そう告げて、そそくさと村をあとにしようと中央集会場に隣接する馬車乗り場に向かった。
ラドルが馬車乗り場に到着したタイミングで馬車がやってくる。その馬車に乗ろうと近づくと、勢いよく扉が開いて三人の冒険者らしき男たちが飛び出してきた。彼らはあわてた様子で村長宅方面に走っていく。
(なにかあったか?)
念のため周辺を探ってみたが異常を感じなかったラドルは、そのまま馬車に乗り込んだ。
環状路線馬車の反対周りに乗ってしまったので、ぐるりと一周分を馬車に揺られたラドル。彼がギルドに戻ると受付カウンター近くのテーブルに伏せたヤルキーが帰りを待っていた。
「おい、ヤルキー。帰って休めって言っただろ」
虚ろな目でラドルを確認したヤルキーは、フラフラしながらおもむろに立ち上がり、ラドルに向かって歩いてくる。
自分の魔力の影響で状態が悪化すると知っているラドルは距離を置こう下がるのだが、壁際まで追いめられてしまった。そんなラドルに対してヤルキーは、ギルドが揺れるのではないかと思うほどの迫力で壁を叩いて逃げ場を奪う。
「馬鹿野郎がっ!」
夕暮れの近い時間帯。明日の仕事を探しに来ていたギルドのメンバーは、ヤルキーの声で一斉に黙り込む。そんな周りの反応も気にせずヤルキーは続けた。
「ランクに見合わない依頼にひとりで行きやがって。ギルドの奴らも心配していたんだぞ」
「心配ないと言ったはずだ」
「それで心配しないならシズラが駆け回って応援を行かせたりしてねぇ」
(あのとき馬車から降りた奴らのことか)
「その応援に行った奴らから聞いたが、そいつらが到着したときには依頼を完遂して帰ったっていうじゃねぇか。一時間もかからず終わらせたってことだぞ。いくらなんでも早過ぎる」
(しくじった。討伐自体にもう少し時間をかけるべきだったか)
「おまけに村民と依頼完了の確認に行ったらライノスロックは三頭倒れていたっていうじゃねぇか。どういうことだ?」
ラドルひとりでライノスロックを三頭倒したと聞いたギルドの者たちは色めき立つ。
(くっ、しかたねぇ)
ラドルは観念したように話し出した。
「住処にしている洞窟に罠を仕掛けようとしたんだが、中から二頭、入り口から一頭に挟まれちまった。どうにか逃げ出そうとしたそのときに……、あの仮面の男がライノスロックを一瞬で片付けた」
「なに?!」
(嘘じゃない、まったくの嘘は言ってない。仮面の男は俺なんだから)
「お前は大丈夫だったのか?」
「あぁ、ライノスロックを倒しただけで他にはなにもなかった」
(これも嘘じゃない)
冷や汗をかきながらラドルは説明する。
「一瞬で終わっちまったもんだからオレはその場で少し休んで、落ち着いてから依頼が完遂されたことを報告した。別に依頼の手柄を横取りしようとしたわけじゃないぜ。結果的に依頼は達成されたから、それを村長に報告しただけだ」
(嘘じゃない。元々オレが受けた依頼じゃないんだから誰が倒したとかは問題じゃない)
正直者で嘘が嫌いなラドルにしてギリギリの内容だった。
「あいつは本当に敵ではないのか……」
異世界人と噂されるこのギルドのトウヤが倒した獣人王ガルファン。その残党に味方した魔族らしき青年がラドルを助けるようにライノスロックを倒したと聞いて、ヤルキーは驚きと共に疑念を抱いていた。その疑念とはラドルが嘘をついているのでは? ということではなく、その仮面の青年が人族の敵ではないのか? という点だ。
つじつまが辛うじて合ったであろう言い訳を語ったラドルは、気まずそうにヤルキーを見る。その視線を受けたヤルキーはラドルの頭にポンと手を乗せた。
「ともかく無事で良かったぜ。俺が手伝いを頼んだ依頼で事故が起こったら、寝覚めが悪い……から……な」
頭に置いた手に力がなくなり、彼はそのまま床に倒れてしまった。




