報酬に釣られる者
家に戻ったラドルとサルサは、リンカに聞いた話をまとめていた。
彼女が異世界からこの世界に来たのは、湖の精霊となにかしらの繋がりによって次元の扉が開いたからだろう。逆に、なにかしらの力によって開いていた扉を通して精霊と繋がり、その影響で次元の扉は大きく開いてしまったかだ。しかし、次元の扉が開くというのはそう簡単なことではないため確証はない。
精霊と少女が共感、共鳴、同期したことで精霊の力を授かり使えるようになったとして、その力で村人たちを助けていたことも問題はない。一時はそれで元気になったというのだから。
これが女神に仕置きすると誓ってからの百年近くの年月で、ラドルが得た知識を使って考察した内容だ。
「どうですラドルさん。なにかわかりましたか?」
「オイラはひとつだけ気が付いたことがあります」
「なんだ、言ってみろ」
サルサは少しドヤり顔で話す。
「彼女が湖の精霊から授かった力。あれは嘘じゃないけど、すべてではないですね」
「精清水で作ったポーションをさらに強化してるってことだろ?」
「なんだ、気が付いていたんですか」
サルサは残念そうに口を尖らせた。
その理由は、ふたりが部屋に入ったときにポーションに魔術を施していたことと、リンカがなにか言おうとしたときにシンが止めたこと。リンカが言いかけたのはそのことだと推理した。
ポーションを魔力で強化するなどまさしく賢者クラスの偉業。その最上級たるはエリクサー。それは重ねられた知識の神髄により作られるという。
「嘘と言えばもうひとつある」
「嘘ですか?」
「嘘と言うより隠してることがある。奴が異世界人だってことだ」
「なんでわかるんですか?」
「長年戦ってきたことでこの世界の者との違いがわかるようになってきたんだ。ただ向かい合っただけではわからないが、あいつがオレを威圧してきたから気付くことができた」
「そういうモノですかぁ。オイラも彼の態度からそうじゃないかと予想はしてましたけど」
「奴が異世界人だったとしても、そのことが村の呪いと関係するわけじゃないがな。ただ、あのシンって野郎は気にくわねぇ」
「あのスカした態度は異世界人の多くが取る態度ですもんね。でもラドルさんの態度も褒められたもんじゃありませんよ」
「うるさい!」
サルサがシンに対して感じていた印象を異世界人嫌いのラドルが感じないはずがなかった。
「おまえはあのシンて男について調べろ」
「あれ? オイラの依頼は諦めるんですか?」
「オレが途中で投げ出したことがあるか? オレは引き続き調査は進める。だが目の前に現れたのが異世界人だって言うなら放置はできねぇ」
「相変わらず異世界人嫌いですね」
もはや定番と言っていいサルサの言葉を聞いてラドルは彼を睨んで言い返した。
「異世界人が嫌いなんじゃない。嫌われるような異世界人が多いってだけだ」
この返しもラドルの定番だ。
「そうでした、そうでした。ではオイラは早速シンについて調べますので、安心して依頼に取り組んでください」
サルサは立ち上がりポケットから二百エドルン分の紙幣を机に置いた。
「幸運の魔道具調査。今日までの代金です。今後もよろしくお願いします」
サルサは家を出ていった。
「これと言って幸運なんてなかったけどな」
疑いの目で手首に巻き付けていた幸運を呼ぶ魔道具を眺めてつつ、ラドルは今日までの出来事を振り返る。
「さてと。報酬も出たし、ギルドに行くついでになにか食ってくるか」
その日の夜のこと。先日の依頼の報酬をもらうためにギルドに足を運んだラドルは、またしてもヤルキーと出くわす。
「ラドルじゃないか。仕事を受けに来たのか?」
(あちゃぁ)
「いや、払われてない報酬を受け取りにだ」
「来たのはあのとき以来か?」
「個人的に受けた仕事をこなしてた。三日も経ったからもう払われるだろ?」
シズラを見ると眉を八の字にしていたため、ラドルは返答の内容を察した。
「依頼主が行方不明なんだと。トウヤたちを乗せて港町に戻ってから足取りがつかめねぇ」
「ってことは……?」
「申し訳ありません。今の段階では報酬はお支払いできません」
シズラは深々と頭を下げた。
「支払われる報酬はすでにギルドに納められてはいるんだがな。基本的に依頼主のサインがないと支払いはできねぇってわけだ。ギルドには支払われているから踏み倒されることはないが報酬の割り振りもわからん。成功報酬なのか基本報酬だけなのかも明確じゃないしよ」
ガックリするラドルにシズラがフォローを入れる。
「十日連絡が取れない場合はとりあえず基本報酬は支払われます。そのあいだに達成条件を調査して、早急に依頼達成に見合った報酬が支払われるので、もう少し待ってください」
肩を落とすラドルを見て、不憫に思ったヤルキーは声をかける。
「今夜も飯を食わせてやろうか?」
「不要な借りは作らない主義だ」
「だったらこういうのはどうだ? 明日、俺の仕事を手伝う。そうすれば今夜と明日の三食は保証してやるぜ」
その言葉にラドルは足を止めた。
「どうだ?」
「正式な依頼ということだな」
ニカッとしたヤルキーの笑顔に一瞬引くも、ラドルは近くの席に付く。
「交渉成立ですね」
ふたりのやり取りを見てシズラはニコリ笑った。




