おびえる少女
店内はまだ準備中といった作りだが、いちおう戸棚やカウンターが設置されていて商品も陳列されている。そのせばぜばしい店内に少女はいない。
(いくつかえぐい物があるな)
並べられているポーションの中に、秘めた魔力が常識の範疇を超える物が置いてあることにラドルは気が付く。
「えげつない値段の物がありますねぇ」
後ろのサルサも別の意味でその凄さを感じていた。
「それらはサンプルみたいなもんだ。こういった商品も扱っているっていうアピールさ」
シンは先ほどまでとはちがって朗らかに説明した。
店内には薬草独特の渋みと爽やかさが織りなす青臭い香りに満たされており、それはカウンターの奥にある部屋から漂ってくる。
「入るぞ」
そのカウンターに入って半開きの扉の先に進むと、より強い草木の匂いが鼻孔を刺激する。
その部屋のテーブルには小さな背中を向けて少女が座っていた。手には小瓶が握られており、彼女がブツブツとなにかを唱えると小瓶に魔力が宿って緑の薬液が輝きのある黄色に変色した。その小瓶をテーブルの端の箱に並べて少女は「ふぅっ」とひと息つく。
「リンカ、お客さんだ」
高い集中をしていたために彼女は複数の人が部屋に入ってきたことに気が付かず、シンが声をかけたことでピクリと肩を揺らした。
リンカと呼ばれた少女は結んだ長めの黒髪を揺らして振り向いた。その額には汗をにじませ、疲れた表情からはその年齢に見合う少女らしいハツラツとした元気な印象が感じられない。
「彼女はリンカ。魔王討伐に欠かせない俺たちの大切な仲間だ」
「どちら様ですか?」
見覚えのないラドルとサルサの顔を見て、リンカは首を傾げた。
「彼らはギルドの依頼で君の住んでいた村について話を聞きたいそうだ」
それを聞いたリンカは少しおびえた表情でラドルを見る。
「大丈夫。依頼は正式なものだし、俺も一緒に立ち会う」
その言葉を聞いても彼女の表情は晴れない。
「単刀直入に聞く。おまえは異世界人だな」
ラドルの質問にさらに顔を引きつらせながら、その眼力に押されつつ彼女はうなずいた。
なんでこの人そのことを知っているのかと、驚き震える彼女の手をシンが握った。
「なぜこの世界にやってきた?」
「おい、そんな言い方はないだろ!」
ラドルへとシンが一歩詰め寄ると、ふたりのあいだにサルサが割って入る。
「ラドルさん、口調が強いですよ。もっと優しく」
リンカに敵意を持っているわけではないが、異世界人を前に気が高ぶっているラドルをサルサはなだめ、代わりに話を続けた。
「ねぇお嬢さん。どうやってこの世界に? 誰かに連れてこられたんですか?」
この質問をするのは異世界人を召還するという女神についての情報も得るためのもの。優しい口調のサルサに対しても彼女は視線を合わせず、少しだけ間をあけてから小声で答えた。
「わかりません。わたしは林間学校で林道を歩いていたんです。そしたら急に道が光り出して、気が付いたらこの世界に……」
「リンカンガッコウって?」
聞きなれない言葉にさらに質問するサルサに、リンカは戸惑いながら説明した。
「えっと、自然の中で仲間と協力して、数日間校外で過ごす学校の授業の一環です」
「ふ~ん、道を歩いていたらねぇ。そのときなにか変わったことはありませんでしたか?」
「友達とはぐれてしまって困ってたら湖に女性が見えて、その人に助けてもらおうと思って。すっごく綺麗な人だったんですけど、その人浮いてたんです。そして言われたんです。『あなたの力で村を救ってください』って」
「おい、廃村の話じゃなかったのか?」
異世界にかんする話をするふたりに横やりを入れるシンを、サルサは両手で優しく押さえた。
「あなたは知っているかわからないけど、この世界にやってくる異世界人は特別な力を持っているんです。だからそれが関係してないか確認しています」
サルサは棘がないようにゆっくりとシンに説明する。
「リンカさんが湖の精霊にもらったのは精清水を作る力?」
「はい。あの村に災害の予兆があるということで、そうなったときに村人を助けて欲しいと。湖の精霊はあそこから動けないから、この力をわたしに与えてくれました」
「本当に湖の精霊の力なんですねぇ」
サルサが感心し、ラドルは疑念を抱いていた。
「他に持っている力はないのか?」
サルサの後ろから問うラドルに、シンがギロリと睨みつける。
「わたしが与えられたのは水を浄化して水に宿る癒しの力を活性化させる力です。その精清水で魔術清水、つまりポーションを作ると、一般のポーションよりも高い効果が得られることはしばらくしてから知りました。でそれと……」
「リンカ!」
突然シンがリンカの言葉を制した。リンはハッとなり口をつぐむ。
「悪いが企業秘密ってのがあるんだ。彼女の力は精霊に授けられたモノだけだ。それは間違いない。まさか彼女に人を呪い殺す力があるとでも?」
「いやいや、そんなふうには思ってませんよ。ねぇラドルさん」
ラドルは答えずにリンカを見ている。
「その女からは負の力は感じない。むしろ精霊に似た高い正の力を持っている」
「なら問題ないだろ。他に質問はあるか?」
「ある。蝕まれた村人の様子と、女の作った精清水や魔術清水を飲んだあとの状態だ」
少女はラドルの凄みのある声に震えながら、そのときの話をした。




