精霊の天啓を受けた少女の行方
呪われた村と称されるサンフィード村に住んでいた異世界の少女は、村で最後のひとりを看取り埋葬したあとレフティーン王国に移住。そこで精清水やその精清水から作った魔術清水類を販売しつつ暮らしていた。
そんな日々の中で彼女は、村で会ったことのある冒険者と再会。そのリーダーは彼女の腕前を見込んで自分の仲間に勧誘し、彼女は加入を決める。
そのパーティーは最近まで山ふたつ向こうの国を侵略する魔王軍と戦っていたが、ごく最近、冒険の拠点をこの国、商業都市アーキンドムに移して活動を始めたばかりだった。
「……という感じですね」
これがサルサが調べた異世界人と思われる少女の足取りだ。
「なんだ、目と鼻の先にいるのか」
「灯台下暗し、って言うんでしたっけ? オイラとしたことが失態でした」
「それで、会ってきたのか?」
サルサは首を横に振る。
「数日前から販売を始めたようですが、肝心の少女は表には出てきてません。交渉してみたんですけど彼女の仲間に門前払いを受けてしまいました」
「なんだよ、強引に突入するとかこっそり潜入するとかしなかったのか」
「相手は話題にも上がっている一流の冒険者ですよ。オイラの悪評が立つよな大ごとにはできません。今後の商売に影響が出たら困ります」
「オレにその役をさせようってわけか」
サルサはニッコリと笑う。
「しかたねぇ。その店に案内しろ」
サルサはラドルを連れて少女の店に向かった。
時刻は夕方の十七時半になろうかというころ。その店は店頭販売をしており、三人の客が並んでいた。
「病に効果の高い精清水はいかがですか~~。精清水から作った各種ポーションもあるよ。ちょっとした傷用の『ヒールポーション』、『ハイアーヒールポーション』、冒険者の方には切断した部位を接続できるほど強力な『エクストラヒールポーション』、致命傷にも効果を発揮する『リジェナーポーション』もあるよ」
宣伝する内容からその少女がいるのが間違いないのだとわかる。ふたりはその列に並んだ。
「この何十年かで『魔術清水』よりも『ポーション』て呼称のほうが定着してきたな」
「ですね。それだけこの世界の異世界人の影響が強く表れている証拠です」
ラドルは小さく溜め息をつく。
「さぁ、これは教会の聖水よりも病に効果があるので一度試してみてください。今はお試し期間で精清水はなんと四割引き。ポーション類も三割引きとお買い得です」
ラドルの順番が回ってきた。
「あんたは冒険者かい? 高ランカーだったらエクストラポーションがお勧めだよ」
「村の呪いにも打ち勝てる魔術清水をくれ」
『異世界人』と『ポーション』という呼称に対して皮肉を込めたラドルの言い方に、客引きの店員は表情を歪めた。
「どういう意味ですか?」
「いるんだろ? 廃村になった村の女が。話が聞きたいから合わせて欲しい」
店員はラドルの背に身を潜めるサルサに気が付く。
「さっきの人か。ダメダメ、彼女は仕事で忙しいし、この精清水を作ることができる唯ひとりの人なんだ。なにかあったら大変だからね」
「そこをなんとか」
サルサがラドルに代わって腰を低くお願いするも、突っぱねられてしまう。
「オレたちはギルドの正式な依頼で調査している。その女をどうこうしようと思っているわけじゃない。やましいことがないなら会わせてくれ」
「やましいことなんてない! 彼女の安全を考えてのことだ」
「あんたが立ち会ってくれて構わない」
「このことはリーダーと相談して決めたことだ。俺の一存で勝手なことはできない」
「俺がなんだって?」
扉が開き店の中から長身の若い男がひとり出てきた。武装はしていないが、そのたたずまいから強者であることが伝わってくるのをラドルは感じる。
「あんたがリーダーか」
「そう、俺はシン。このパーティーのリーダーをしている」
「なら話は早い。そのポーションを作っている女と話がしたい。取り次いでくれ」
「知り合いってわけじゃないんだろ? 唐突だな」
「どんな手続きをしたら唐突じゃないんだ?」
ラドルの返しにシンは笑った。
「彼女の作る強力なポーションに目を付けた腹黒い輩が出始めてな。だから最近このアーキンドムに移ってきたんだ」
「知っている。遠方まで足を運ばなくて助かった」
「誰がどんなふうにして作っているなんてことを知られない方が良い商売ができそうなんだ。それが彼女を人前に出さないようにした矢先にこれか」
目を閉じて首を振るそのしぐさは心底あきれている様子だった。
「オレたちは腹黒くはないぜ。話を聞きたいだけだ」
「そういう例外を作るとそれが例外じゃなくなってしまうんだ」
ふたりは深く静かな目と目を合わせたまま言葉を交わしている。見た目は静かなれど、そこには目に見えない鋭い闘気が交錯していた。
(こいつ。かなり強いな)
ラドルがそう感じるシンも、それなりの期間を冒険者として戦ってきた経験から、ラドルが人族ではないのだろうと察して警戒する。
互いに牽制し合う中で少ないながら情報を引き出しあった結果での印象だった。
「聞きたい話の内容は?」
「廃村になったサンフィード村のことについてだ」
「この人らはギルドの依頼でここに来たんだってさ」
シンの仲間がそう説明すると、シンは少しだけ考えてから答えを返す。
「ギルドの依頼書は持っているのか?」
「オイラが持っています」
サルサは依頼書を提示し、それを受け取ったシンが依頼書に目を通した。
「わかった。俺たちの立ち合いのもとでいいなら許可するよ」
「それでいい」
シンは張りつめていた空気と鋭い眼光を緩めてラドルとサルサを店に招き入れた。




