反省と今後
レティシアの「ステータス」の言葉でなにが起こったのかラークとテイナーにはわからない。しかし、ラドルには見えないまでも、なにが起こっているのかはわかっていた。
「自分の状態を見る呪文だな」
「はい。知人や兄弟に話して同じことをやってもらいましたが、なにも起こりませんでした。とうぜん私の言っていることも信じてもらえず、変な目で見られるようにもなりました。中には信じてくれた奇特な人もいましたけどね。その人の励ましのおかげで心を折らずに冒険者になることができたんです」
彼女は優しい笑顔でいつも励ましてくれる辺境伯のことを思い出す。
「でも、私はこの力を人に見せたくはなかった」
と悲しげにふたりの仲間を見た。
「なぜだ? 凄い力じゃないか。その力を有効利用すればもっと大きな活躍ができるし、君が望む困っている人を助けることだってできる」
「ラークの言うとおりです。なぜ隠す必要があるのです」
ふたりがこう言ってくれたことはうれしかったが、家族や親族、貴族の旧友の冷たい反応が彼女に力を隠すことを強要させたのだ。
「オレもその力を使わんことを勧める。その力を持ったことでろくでもない目に合っただろ? それにおまえが望んだ冒険者にはそんな力がなくとも成れるじゃねぇか」
彼女は高望みしてしまったのだ。本来持ちえない異質で強大な力を手に入れてしまったことで。彼女本来の性格ならば、この力さえ有効に使えたのかもしれなかった。しかし、そこに至るまで急ぎすぎ、その過程で様々なトラブルを生んでしまった。
「そうですね。前世があんなんだったから生き急いでいたのかもしれません」
レティシアがあまりに素直過ぎるために、ラドルはいつものように振り上げた拳を下ろせなくなってしまった。だが、なにか言わなければスッキリしないと、彼女を戒める言葉を探る。
「おまえのその拾い物の力は欠陥品だと思うぞ。オレの知る異世界人の力はあんな程度じゃない。おまえにとって命を削る思いで使った力をリスクなくバンバン使っているからな。そんな中途半端な力で背伸びして人助けをしようなんてことをすれば、仲間を危険な目に合わせかねない。そいつらのようにな」
「ですね。肝に銘じます」
やはり彼女はラドルの言葉を素直に受け止め深々と頭を下げるのだった。
「おまえに悪意がないことはわかった。その力の渦におまえは運悪く巻き込まれたんだろう。だからもう、その力は使うな」
そう思ったことに確証はない。彼女と話す中でなんとなくラドルはそう思っただけだ。
「はい、私には過ぎた力なんだと思います。そのせいで彼らを危険な目に合わせてしまいましたから」
「そんなことはありません!」
ラドルの忠告に応じる彼女の言葉をテイナーが否定した。
「確かに背伸びした使い方をしてしまったのは間違いありませんし、彼女のその力に私たちはあまりに小さすぎたことも否めません。しかし、彼女の心はその力を使うに値します」
その反論にラークも続く。
「そうだ! 鉱山でのことは俺たちにも責任がある。この国の者はマインテーンを神聖視していたことは知っている。でも俺とテイナーの出身地はそういった精霊を逆に下等霊として見ているんだ。人の生活を制限するような精霊に対して敬意は持っていない。だから強引に止めることをしなかった」
「いえ、あなたたちは私に注意した。でも私は結局あなたたちの目を盗んで鉱夫に交渉して、あの力を使って鉱山の精霊を倒してしまった。私利私欲によって」
「でも、それによって得た報酬を私たちも受け取っています。同罪です」
「だからって……」
「うるさい、黙れ!」
互いに責任を被り合う三人に呆れたラドルは話を打ち切らせる。
「おまえら三人の責任だってことはよくわかった。だったら今後はおまえらでその力をしっかり管理しろ。この女が暴走したとき、ふたりでそれを止める力を身に付けろ。いいな、死ぬ気で鍛えろ。中途半端な力とはいえ、無駄に強いことに変わりねぇんだ」
「「「は、はい……、肝に銘じます」」」
三人は一緒にラドルに頭を下げた。
「ちっ。一件落着とはいかねぇが、とりあえず事故の起こった謎は解けたな。無駄なことに首を突っ込んだおかげで、幸運にもグレンマーリを刺激するのを止めることもできたぜ」
ラドルは三人に背を向けて去ろうとした足を止めた。
「あとひとつ」
「はい、なんでしょうか?」
「おまえらがその装具を依頼したロードンな。あいつにはあらためて礼を言っておけよ。おまえらが生きているのはその装具のおかげかもしれないんだからな」
そう釘を刺して彼女らの前から去っていった。
***
ラドルはアーキンドムに帰る前に元暴君で現在名工鍛冶師のロードンの家に立ち寄る。
ラドルの顔を見て再び驚くロードンは、別れ際のラドルの意味深な言葉を聞いたためか、少々心配していたというような言動をしていた。
ラドルはここを出てからの経緯を話し「おまえの作った装具のおかげで、奴らは死なずにすんだ」と伝えると「まぁな、俺が作ったんだからよ」と少々照れながらロードンは言った。そして、心の中で、これからは手を抜くのはやめようと思いなおしていた。
ロードンの家を出たラドルは帰路に着く途中で今回の件を振り返る。
労力としてはたいしたことはなかったが、超越者である魔女グレンマーリを刺激するという、あわや大惨事になりかねない事件にラドルの精神は疲弊していた。
「この幸運を呼ぶ法具が効いたか?」
その大惨事が未然に防げたことは幸運だったとサルサから預かった左の手首の法具に目を移すのだが、その法具は付いていなかった。
「無い! どこかで落としたか? あの戦いで外れたのか?」
ワタワタしながら記憶を辿っていくと、サンフィード村周辺の調査から帰って自宅で風呂に入った際に、棚に置いてきたことを思い出す。
「さて、帰ったら本題の調査の続きだ。サルサの奴はちゃんと女を見つけられたか」
夕暮れの中、デッケナー王国の自宅に向かう馬車で独りごちた。




