説教
「このっ……大バカ野郎どもがぁぁぁぁぁぁっ!」
レティシアたちを救った救世主とも言える青年が、三人を大声で殴り飛ばす。まだ放心状態であるふたりと、目が覚めたばかりのラークはその声でひっくり返った。
「おまえら、あそこが魔女の森だって知らないわけじゃねぇだろ! ゴーレムがいることも知っていたよな!」
【モード・バーサーク】にも引けを取らないラドルに気圧され、彼女らは「はい」と答えた。
「あのゴーレムはおまえらのようなひよっこ冒険者が手を出していいもんじゃない。たとえあのゴーレムを制圧できる奴でも手を出しちゃいけねぇんだよ!」
黙りこむ三人にラドルは続ける。
「あのゴーレムはおまえら人族が魔女と呼ぶ奴が造った。その魔女って奴はな、人族にはあまり知られていないだろうが魔族のあいだでは【超越者】と呼ばれる恐ろしい存在だ。噂によれば魔女は森に入るなと忠告してくれてるっていうじゃねぇか。さらにゴーレムまで配置してんだ。それが警告だってことになぜ気付かない。近付きゃ死ぬってことだバカ野郎!」
死ぬ思いをした三人だからこそラドルの言っている意味を理解する。
「なぜその警告を無視して近付いた。なにがやりたかったんだ。言え!」
びくつきながら答えたのは彼らのリーダーたるレティシアだった。
「……自分の強さを……試したくて」
「またかっ」
ラドルは理由の一部を察していた。これは力を持った異世界人にありがちな衝動だ。
「それから……」
「それから?」
上目遣いで反応を見ながら恐る恐る答える彼女に、ラドルは話すように促した。
「それから、以前山に取り憑く半霊の精霊体を倒したこともあって……。新しく強い武具を手に入れられたこともあって……。それで物凄く強くなったって思って……。それで……」
「おまえが鉱山のマインテーンを倒したレティシアで間違いなさそうだな」
「え?」
ラドルに名前を言われて彼女は顔を上げた。
「おまえがマインテーンを倒したことで村が滅び、森が朽ち、湖の精霊が死にかけている」
「村が? 森が? なんで? だって村の鉱夫が採掘の邪魔だからって。だから私は……」
「善意からやったってんだろ? あぁそうだよな。おまえらはいつもそうだ。善意を盾に己の欲望を満たしやがる」
ラドルがその感情のままに『おまえら』と言ったのはレティシアのパーティーのことではなく、レティシアと他の異常な力を持った異世界人たちのことである。
己の欲望。彼女は強くなるためにレア鉱石を望んでいた。それを手に入れるために一部の鉱夫の望みを利用したのだ。
「おまえ、そのあとになにがあったか知らないんだろ? 教えてやるよ」
彼女はラドルの話で自分の戦いが採掘場を崩落させてしまったことを知る。その結果、漏れ出した毒ガスが、ふもとの森と湖と近くの村に被害を与えたのだと理解して涙を流した。
「地主神マインテーンは、その毒ガスから人や自然を守るために生まれた精神性霊体だったのかもな。それを討ったことで、山の生態系にも変化がおこったんだろう。今この国の闘士たちがその対処に大わらわのようだからな」
最近ノーザップ王国領土の獣たちが活発になり、人族の領土に影響を与えているのがまさにそれだった。マインテーンの威光がなくなったことで活発になった強い獣の影響で他の獣たちを追いやっていき、居住地が変化し始めたのだ。
前世で病弱だった彼女の自由への渇望から始まったこの行動が、多くの人に迷惑をかけた。その行動原理を知らないラドルは、自分がしでかしたことに後悔し涙を流すレティシアを見て、今までの異世界人と少し違うことに疑問を持つ。
「おまえ異世界人だろ? たいしたことなさそうだが異質な力を持っているし、おまえのその行動から異世界人らしさが感じられるぜ」
【モード・バーサーク】が出せる強さはともかく、彼女はこれまでラドルが関わってきた他の異世界人に比べると、あきらかに見劣りする。少し前にラドルが仕置きしたトウヤとは比べるまでもない。
「異世界? いえ、私は異世界人ではありません」
「違うのか?!」
否定の言葉が嘘だとは感じなかったが、彼女が使った力が異世界人である証拠でもある。
「異世界人ではありません。でも……」
レティシアは仲間たちの顔を見てからこう告げた。
「私はレティシアではなく、ラシェル=ヴォルテーヌと言います」
「え!」
驚くふたりに対して、彼女は目を閉じ言葉を溜めてから続けた。
「……私は南方の小国ボトムーン領土の村で生まれ育ち……、多分ですが死にました。そして、生まれ変わったのではないかと思っています」
「転生ってやつか」
「それに気が付いたのは今から一年ちょっと前です。これまでの人生が他人事に思えるようになり、病弱でろくに動けず生きてきた記憶が蘇ってきたんです」
「おい、レティシア。なにを言っているんだ?」
レティシアが言っていることをラークもテイナーもまったく理解できない。かと言って、ラドルも詳しくはわからなかった。
ラドルのこれまで得た知識では、こことは違う世界で死んだ者がこの世界の命として生まれ変わってくるのが転生と呼ばれる現象だということ。しかし、彼女はこの世界のボトムーン王国の者だったという。こういった者に会ったのは初めてだった。
「私がラシェルだと気づいた日から人生が変わりました。自由に動ける健康な体で好きなことができ、好きな場所に行ける。でも同時にレティシアの人生とそれにかかわる人たちの人生も変えてしまったことは申し訳なく思っています」
両親や兄弟たちは自分が婚約破棄されたことで家柄に傷がついたかもしれない。婚約者である伯爵家の人たちにも迷惑をかけたかもしれないと、彼女は気に病んでいた。
「それでも私は自分の力で生きていくという衝動を抑えられなかった。冒険者になることを志した私はそのために訓練を始めました。その中で気付いたんです。特別な力があることに」
その力が異世界人がこの世界で身に付ける強大な能力と特異なスキル。そして、システムの加護だった。
「訓練している中で突然発現したと同時にその力の知識も得ました」
彼女は指を振ってある言葉を呟いた。
「ステータス」




