ゴーレムを屠るラドルの力
ガサガサ
森の中から出てきたのは、さっきレティシアが打ち飛ばしたゴーレム。その体には亀裂が走っていてダメージが見て取れるが、そんなものは無意味だと彼女もテイナーもわかっていた。
「こいつを倒してもまた強力に再生するんでしょ」
倒れていた他のゴーレムも立ち上がり、彼女の中で燃える闘志の残り火を吹き消していく。
「ごめんなさい。私のせいで」
彼女はテイナーと気を失っているラークに謝罪した。
太陽は天高く昇り、その陽光によって生い茂る草木は、青々発色して命の活力を振りまいている。しかし、彼女の目にはその景色が薄っすらと赤く映っていた。
それは彼女に見合わない強大な能力という恩恵をもたらしているシステムが、視覚的に警告を告げているからだ。その赤い色は彼女が持つ加護が大きく損耗しているということ。
「それでも……、あなたたちは助ける! 私が足止めするから、そのあいだに逃げて」
ゴーレムたちに向かって構えながらふたりの前に移動した。
「あなたたちが逃げようと逃げまいと私が戦うことに変わりはない。でもあなたたちが逃げ切るまで生きてられたら私も逃げるから」
そこまで聞いたテイナーは物語でよくありがちな「お前を置いていけるか」といった言葉など口にせず、ラークを背負って走り出した。
頭部へのダメージがあるため激しく揺らすことは危険だが、そんなことはお構いなく、レティシアの言うがままに彼女を置いて全力で逃げていく。
レティシアの周りに集まってきていたゴーレムたちの中の一体が、彼らを追いかけようとする動きを見せると、彼女は躊躇うことなく立ち塞がった。
振り返らずに全力で逃げるテイナーの視界が涙でぼやける中、正面からなにかが迫ってくるのが見えた。そのなにかは彼らを横切って走り抜けていく。
思わずそれを確認するために振り向いたテイナーは、このあと起こったことが信じられずに足を止めてしまう。
「絶対にここから先には行かせない!」
その意志と集中力によって、三体のゴーレムの同時攻撃をかわすという奇跡的な動きを見せたレティシアは、残る力のすべてを剣に伝えてゴーレムに叩きつける。しかし、そんなことでこの戦況はわずかにも覆りはしなかった。
残り二体の通常ゴーレムの攻撃が胴と足を痛撃し、彼女はその場に膝を付く。
「時間稼ぎもできないなんて……」
ゴーレムに囲まれた彼女に強固な鉱物の塊が複数振り上げられた。彼女のまぶたが閉じたのを最後に、二度目の人生も幕を閉じると思われたのだが、ふたつの鈍い音が聞こえただけで、命を刈り取る衝撃はいつまでたっても届かなかった。
不思議に思いつつも目を開けるのが怖くてそのまま動かなかった彼女は、強烈な打撃によるものと思われる音と衝撃派に驚いて、座ったままよろけて尻もちを付く。
「なに?!」
反射的に目を開けたその前には知らない青年が立っている。
駆けつけたラドルがゴーレムの攻撃を受け止めたうえに弾き飛ばしていた。
「この……大バカ野郎が」
見上げるレティシアには、天高く上がっている太陽の逆光で彼の表情は見えなかったが、青年の暗くこもった声でそう言ったのを聞く。
死を覚悟したところで起こったこの状況に彼女は対応できなかったが、ゴーレムたちは違う。吹き飛ばされて倒れているゴーレムはすぐに立ち上がって再び襲いかかってきた。だが、それだけではない。妙な音に気付いた彼女があたりを見渡すと、森の中からたくさんのゴーレムが現れて走り寄ってきた。
「そんな……。まだこんなにゴーレムがいたなんて」
この状況に彼女は完全に戦意を喪失。それどころか生存本能すら麻痺してしまった。
「こいつらは敵の戦力に合わせて数を増やしたり形態を変化させるんだ」
ぱっと見ただけでゴーレムは五十体以上。
『この人が言ったことが本当なら、ゴーレムたちはこの人のことを私たちの十倍以上脅威に感じてるってこと?!』
彼女はわずかに生き永らえたことを後悔するほどの状況に、戦々恐々と震えあがっていた。もちろんテイナーもそのあまりの出来事に逃げることも忘れ、ただただ見ているだけだった。
そんな彼女らが、これ以上のことはもう起こりえないであろうと思った絶望的状況のその先で、さらなる度肝を抜かれる。
襲いくる五十体を超えるゴーレムの攻撃をラドルは、さばき、いなし、かわし、あまつさえ反撃しているのだ。怒涛のように押し寄せるゴーレムたちではあったが、その攻撃はラドルにとってあまりに単調だった。ただし、レティシアを守るために必要以上に対応しなければならないことが面倒でラドルは愚痴をこぼす。
「うっとうしい」
その群の中に一体だけ別の個体が迫るのを見たラドルは、彼女を担ぎ上空に飛び上がった。
「しっかり捕まってろ」
すべてのゴーレムが一ヶ所に集まったこの状況で、上空から攻撃を敢行する。
「削撃……、ガルーダ・フェザランサー」
広げた両腕に魔力と闘気が収束して巨大な鳥を形象。羽ばたいたその翼から羽の豪雨が降り注ぎ、ゴーレムたちの体を削り崩していく。
ラドルが二度、三度と翼を羽ばたかせるあいだに、ゴーレムたちは次々に倒れて原形を失っていった。
着地したラドルは担いでいたレティシアを後ろに落とすと強烈な震脚で大地を踏み叩いた。同時に彼は異形のゴーレムの体当たりを受け止める。そのゴーレムは変化してさらに強くなった個体だった。
『あれだけの攻撃を受けて倒せないの?!』
ラドルが使ったのは形象魔法闘技という彼だけの固有の技。今使ったのは広範囲殲滅に適した技のため、威力が分散してしまい、このゴーレムを倒すには至らなかったのだ。だが、その体には多くの傷が刻まれている。
ゴーレムと力比べをするラドルを見て、驚きながらも少しだけ冷静になったレティシアは、周りに転がるゴーレムの残骸を見てその心に生きる希望の火が灯った。
『私が手を貸せばこのゴーレムも……』
「動くな!」
体に力を入れて立ち上がろうとするレティシアの行動を察し、ラドルは彼女に向かって叫んだ。さらにゴーレムを押し返して横蹴りで追い打ち距離を取る。
「巻撃……」
広げた両手のひらを腰の横に置いて体を低く構えると、闘気と風の渦がその手を覆っていく。
「ツイスト・ツインスネークス」
突進してくるゴーレムに向かって突撃したラドルは両腕を内側にひねりながら手のひらを腹部に叩きつけた。
形象された二匹の蛇の巻撃がゴーレムの胴を砕き、上下に別れた体をふたつの渦が飲み込み砕き散らす。
それを見ていたレティシアは声も出せずに立ち尽くすことでその驚きを表している。
ラドルは勝利の余韻を感じる素振りも見せずに、彼女を担ぎ上げて走り出した。その先で、逃げることも忘れて棒立ちしているテイナーの手も引いて、ゴーレムの残骸が散らばったその場をあとにした。




