森の守護者に挑む闘士たち
ゴーレムはストーンゴーレム、ボーンゴーレムなど、構成する材質によっても呼び名は違うし形も大きさもさまざまだ。このゴーレムは形も大きさも人に似通っている。関節ごとに細かく分割しており、それが魔術の力で引きあってその形を成していた。
「さぁやっちゃおう」
腰に備えた新調したばかりの剣を引き抜いたレティシアは小走りにゴーレムに向かっていく。大してゴーレムは森から現れたのと同じ調子でのっそりと歩くだけだった。
距離が詰まってきたところからレティシアは急加速して剣を横にして構える。
「人の繁栄のために!」
接触の瞬間ゴーレムの横に踏み込んだ彼女は、最大の力で両手に持つ剣を振りぬいた。
「はぁっ!」
鉱物の塊であるゴーレムではあったが、突進の勢いで振られた剣を受けて数メートルの距離を吹き飛び、再び森の茂みに押し戻されてひっくり返った。
ゴーレムを打ち飛ばしたレティシアは剣を地面に突き刺して両手を眺めながら言った。
「おっも~い、それにかった~い」
両腕に残る手応えは、とうぜん反作用によって強い衝撃力をゴーレムに伝えたはずだと彼女は確信する。しかし、並みの闘士の強さを超える彼女の渾身の一撃を受けたゴーレムは残念ながら真っ二つとまではいかなかった。
「どうだ、ゴーレムめ!」
剣を引き抜いて高らかに勝どきを上げるレティシアだったが、ゴーレムは立ち上がってきた。
「下がれ、レティシア」
後方から叫ばれた声を受けて、彼女は振り返らずに後ろに大きく跳躍。
「ファイムアローラ!」
魔術士テイナーの杖が炎の魔法を顕現する法名を受けて、この世界の理を読み取った。
杖の先端に灯った火は四つに分裂して細長い矢の形状に変化。立ち上がったばかりのゴーレムに向かって勢いよく射出され、次の瞬間に森の木々と共に燃え上がる。
ゴーレムの硬質な体に接触した火炎の矢は猛烈に広がってゴーレムを炎で包んだ。
「重撃刺弾」
闘気を纏ったラークがレティシアの横を高速で通過する。その勢いのままに燃えるゴーレムに突撃し、自分ごと森の奥へと押し飛ばした。
燃え上がる木々の奥でベキベキと木が倒れる音がする。それから五秒が過ぎたころ、パチパチと小さな音をさせながら木を燃やす炎を突き破ってなにかが飛び出してきた。
「うわっ!」
レティシアはあわててそれを避け、振り返って飛んできたモノを見る。
「あぁぁぁ、ラーク!」
飛び出してきたのは槍術でゴーレムと共に森に突っ込んでいったラークだった。ラークは苦悶の表情を浮かべながらも立ち上がって槍を構えなおす。
「さすがは魔女の森の番人。簡単には終わらないな」
「無事で良かった。でもゴーレムは健在ってことね」
彼女が口にしたとおり、燃える勢いが収まってきた森の入り口からゴーレムが再び現れた。
「健在だが君たちの攻撃は無駄じゃなさそうだぞ」
ゴーレムの胸と腹にはきっちりと傷が刻まれているのを見て、三人はホッとすると同時にヤル気が燃え上がった。
「気を付けろ、あいつとんでもない怪力だ。森の木に叩きつけた直後に、俺を掴んでここまで投げ飛ばしやがった」
「オッケー! 掴まれないようにすればいいのね。大丈夫よ。あいつノロマだから」
その言葉が勘に触ったのか、のっそりと動いていたゴーレムが走って向かってきた。
「えーーー、こいつ走れるの?」
とは言え、とても俊敏とは言えない走りにレティシアたちは脅威は感じない。
ゴーレムの攻撃の大半はその重そうな腕を縦に横に振り回す単調な動きであったため、距離を取らずに攻撃をかわし、剣と槍の強撃を叩き込み続けた。それを繰り返すうちに頑強な体にはいくつもの傷が刻まれていき、たちまちゴーレムはみすぼらしい風貌へと変わっていった。
それでも倒れないゴーレムとの戦いは五分以上続き、同じことを繰り返すレティシアたちは体力的にはともかく精神的に疲れはじめていた。
「まったく、いい加減にしやがれ!」
ラークはその感情を込めてゴーレムの背中へ槍を突き伸ばした。だが、それはある意味油断からくるお粗末な力技。
形は人に似ていてもその構造は似て非なるゴーレム。完全な死角となる真後ろからの攻撃だったのだが、ゴーレムは振り下ろしていた腕を腰を一回転させて真後ろに叩きつける。
「ラーク!」
高質量の腕がラークのこめかみに強打し、彼は側方に飛ばされて倒れる。
「あんた、よっくもー!」
そのことに腹を立てたレティシアは一歩足を引いて剣を持ち上げた。
「あんただけに時間と労力を割けないわ。砕けなさい、ストロング・スマッシュ!」
この闘技はラークもテイナーも知らない。
なぜならこの闘技はこの世界にはない狂戦士という職業が使うスキルだったからだ。
手に持つ武器ならだいたい使えるといった狂戦士という職業スキルにある上位技ストロング・スマッシュ。今まで使っていた武器では強度が足りず武器が壊れてしまっていたのだが、マジカテ鉱石によって鍛造された剣はそのスキルの力を受け止める。
発動したスキルの力は女性とは思えない膂力を彼女に与えてゴーレムに叩きつけられた。
剣に溜まっていた力は接触すると指向性を持って爆発し、瞬間的圧力を加えることで対象にさらなる重圧を付加する。
ゴーレムはその衝撃で吹き飛びはしたものの、砕けるまではいかずに原形はとどめていた。
振り下ろした剣を持ち上げて一息ついたレティシアはすぐに仲間のもとに駆け寄る。
「ラーク」
テイナーはすでに治療の白魔術をほどこしていたので、表面上の出血は止まっていた。
「どんな具合?」
「頭部のヘッドギアのおかげでそこまで酷くはないよ」
レティシアは倒れた彼から少し離れた場所に転がるヘッドギアを取りにいく。それを拾い上げて振り向いた彼女は森の状況を見て目を見開いた。
「このタイミングで……」
なんと森の中からさらに五体のゴーレムが現れたのだ。ある程度の等間隔に配置されていたのか、一番遠いゴーレムは百メートルくらい先の森から出てきてこちらに歩いてくる。
それを見たレティシアは意を決した。
「ラークをお願い。動けるようになったらここから離れて」
「おい、まさかひとりで戦うつもりか?」
テイナーがレティシアの行動を察して聞き返したときには一番近いゴーレムがレティシアに迫っていた。




