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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
仕置きの章
18/91

レティシアの目的

ノーザップ王国領土の北の地。未開拓の高原の先にあるのが魔女の森だ。その名がついたのは森の比較的近くにある村の木こりたちが獣に襲われた際に、妖々しい雰囲気を持つ女性に助けられてからだ。その女性はいきり立つ獣の前に現れたと思うとその獣の額を撫でただけで卒倒させた。


「ここより北の森は危険だから二度と近づかないでね」


木こりたちに優しくも冷たい声でそう告げた女性は、自分の数倍もある獣を引きずって森の奥に消えていったという。


それ以来、森の入り口にはゴーレムが立ち、森への侵入を防いでいた。


その森に向かっている三人の人族。真新しい紫色の鎧を身に着けた女性を先頭にふたりの男が付いていく。


勇ましい表情の女性が振り向いて仲間たちに声をかける。


「ラース、調子良さそうだね。槍さばきに磨きがかかってるよ」


「新調したこの装具は前のに比べると軽いからな。槍にも力が乗るし流石はレア鉱石で作られた装具だ」


女性と同じ紫色の軽鎧と槍を持つ男が気分よく応えた。


「テイナーの魔法も私たちの動きに合わせて使ってくれるから連携が取りやすくなったよね」


「この金属は魔法発動に干渉しづらい分、発動速度と精度が上がりました」


紫色のブレストプレートと脚甲に大きめのマントを羽織る男も口角を上げて静かに応える。


「今の私たちならどんな奴が相手でも負ける気しないよ。鉱山の半霊を倒したら凄く強くなれたみたいだし、今度の人生は絶好調だ!」


「今度の人生?」


彼女の叫びにラースが聞き返す。


「いやっ、つまりね、あなたたちに会ってからの人生は上り調子ってこと。あはははは……」


自身の秘密に関連することを口走った彼女は冷や汗をかきつつ、裕福な家庭の貴族から不安定で危険な冒険者へと転身したことに喜びを感じていた。


彼女の名前はレティシア=ガルボ。ノーザップ王国で子爵の爵位を持つ家柄に生まれた。ほんの数年前まではごく普通の貴族令嬢であったが、伯爵家の跡取りとの婚約を解消されてから冒険者となり、勇ましく活動している。


しかし、正確には婚約を破棄されたのは冒険者を志してからだった。


あるときを境にレティシアの行動、性格、考え方がガラリと変わってしまう。そのことが婚約破棄に繋がり、彼女はそのタイミングで家族に無断で冒険者ギルドに登録。それが原因で現在はなかば勘当状態。上に兄がふたりいるガルボ家の次女であり、家督とは無縁であることもあって、彼女は気ままに冒険者ライフを送っていた。


貴族の女性が冒険者ギルドに登録するという異例の事態に一時はギルド内も色めき立ったが、レティシアの気さくな接し方と、天真爛漫(てんしんらんまん)、楽観的といった性格もあってすぐに打ち解ける。


そんな中で三人はギルドの依頼でたまたまパーティーを組み、それを切っかけにずっと一緒に行動を共にしてきた。


ラースもテイラーも冒険者となって四年目。大半の冒険者たちと同じように平民であるふたりは、彼女に出会い急激にその才能を開花させ、先日ついにAランクの仲間入りを果たした。


三人そろえばそのギルドの基準を大きく上回る活躍ができた。そのため、保守的なノーザップ王国では物足りないと感じ始めた三人は、他の国に移住しようと決意。その足掛かりとしてノーザップ王国では入手困難なマジカテ鉱石を得るために、デッケナー王国領土に出向く。


そこでレティシアは、鉱石採掘の助力としてベネフィー鉱山で採掘の妨げとなっていた半霊体の地主神(じぬしがみ)マインテーンを討った。


マジカテ鉱石を手に入れ、それを加工できる鍛冶師であるロードンにたどり着き、無事に装具を手に入れる。


そして、彼女は国を出立(しゅったつ)する最後のはなむけに、お世話になった辺境伯のヴェダルンが以前話していた領土拡大の手伝いをしようと思い立つ。そのついでに新調した装具とマインテーンを倒してレベルアップした力を試そうと、魔女の森のゴーレムを倒しにやってきたのだった。


徐々に開拓が進む北の平原は荒野に近い。その荒野から見える山脈のふもと一帯に広がるのが魔女の森であり、森の入り口には数体のゴーレムが配置されていることが確認されている。


ゴーレムを構成する部位は、磨かれた石、または金属のような物質で造られており非常に硬い。その部品が組み合わさって構成され、関節部は隙間があり、魔術によって繋がっている。


「さぁ見えてきた、あれが魔女の森ね。すべてのゴーレムを破壊してここら一帯をヴェダルンさんにプレゼントしちゃおう」


「すべての? それは流石になぁ」


「一体でもとんでもない強さなのだろ?」


熟練の上級冒険者に教えてもらった情報を元に、その強さを推測したレティシアは、今の自分なら勝てると踏んでいた。もちろん厳しい戦いにはなるだろうとは思ったが、仲間の助力があれば可能であると。そして、いざとなれば自分の持つ特別な力があるからと。


レティシアの勢いに乗っかり切れないラークとテイナーではあったが、彼女がやるといったらもう変更はないとあきらめた。気持ちを引き締めて、その背中に付いていく。


森の木々の葉が目視できる程度の距離まで迫ったところで、一体のゴーレムが森の中からのっそりと現れた。

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