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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
仕置きの章
16/91

鍛冶師の正体

(確かこのあたりだったはず)


記憶を辿ってラドルがやってきたこの場所は、ノーザップ領土の北西に位置する木々に覆われた丘だ。ここに住む獣たちは人里に来ることはないが、縄張りに入る者には強い警戒心を持っている。怪しい者は襲われかねないのだが、ラドルに近付く獣はいない。それは、彼の恐ろしさを覚えている(・・・・・)からだった。


「あった。まだこんなボロ屋に住んでいるのか」


目の前にあるのは古めかしさが年期を感じさせる丸太小屋。修繕を繰り返されてはいるが、耐久性は十分にある。その丸太小屋の扉をラドルはノックした。


「おい、ロードン」


返答のない扉を度もノックする。


「まだここに住んでるなら出てこい」


ドンドン、ドンドン


分厚く頑丈な扉を力強くノックする。ラドルが何回目かのノックをしたときだ。

「うるせぇぇぇぇ!」

ドゴーン

凄まじい勢いで扉が開きその扉がラドルを叩いた。


「出てこないんだからあきらめて出直せ! こちとら疲れて寝てんだよ!」


安眠を妨げられた怒りで出てきたその男はラドルよりも背が低く、一見小太りだがそれ以上に筋肉質で、いかにも力持ちといった体格をしていた。


その力で開けられた扉をぶつけられたラドルだったが、涼しい顔で扉を押さえ、出てきた家主にあいさつする。


「よう、生きていたのか」


「ん? 誰だおめぇ……」


ロードンは眉根を寄せて目を細める。そして大きく目を見開いた。


「おめぇはラドルっ!」


叫んだロードンはその体格に見合わない速度で後ろに跳び下がり、ラドルとの距離を置いた。


「元気そうじゃないか。五十年ぶりくらいか? まだこんなところに住んでいたとはな」


久々の再会の挨拶をするラドルに対して全身に汗をにじませるロードン。


「おめぇ、なにしに来たんだ?」


ゆっくりと慎重に言葉を発するロードンに、ラドルはいつもと変らない声と表情で返す。


「人を探している。割と最近、人族の女が来なかったか?」


「そ、それだけか……?」


「それだけだ」


「あのときの仕返しに来たんじゃないのか?」


「あのとき?」


ラドルは遠い記憶を思い返すがさして心当たりがない。


「おれが……、獣たちを率いて……、ノーザップ王国の者どもを皆殺しにしようとした……、あのときだ」


体を震わせながら言葉を切りつつ話すロードンにラドルは表情をハッとさせた。


「あぁ、あのときか。確かおまえを止めようとしたオレをボッコボコにしたときのことだな」


そう返したラドルの視線がロードンの心を突き刺すほど鋭く光った……ように見えるのはロードンだけなのだが、彼は膝の力を失って床に腰をついた。



   ***



五十年も前の彼は、その有り余る力で暴君(ぼうくん)と呼ばれ恐れられていた。無駄に殺しはしなかったものの、ノーザップ王国領土では敵なしで略奪を繰り返す。


ノーザップ王国にとっては迷惑極まる存在であったが、気に入らなければ魔王軍とも戦うほどであるため魔王に対しての抑止力でもあった。


だが、危うさの中で保たれていた均衡が破れたのは、暴君に挑む者が現れたときだ。


ノーザップ王国は女神に授けられたという秘術によって勇者召喚をおこなったところ、四人の異世界人を呼び出すことに成功した。ただし、多くの生贄を捧げたとも噂されている。


その勇者はノーザップ王国の宝物庫に眠る七つの王具(おうぐ)という武具から、各々の力を最大限に引き出す武器を選び、その王具を使い魔王討伐に旅立った。そして、四人は共闘して暴君ロードンに挑むことになった。


四人はノーザップ王国が暴君を沈めるために定期的に贈る酒と食料に潜み、それをむさぼるロードンに不意打ちする。


王具の力もあって四人は戦いを優勢に進めるのだが、最後には怒りを爆発させたロードンに返り討ちにされてしまう。


その怒りのままにノーザップに攻め入ってきたロードン。


ちょうどその頃、四人の異世界人が現れたという噂を聞きつけたラドルは、どんな奴らかと様子を見にきたところ、ロードンが獣の群を引き連れて王都に押し寄せてきたことを知る。


知ってしまったからには仕方ないと彼の前に立ちはだかって引き返すようにと説得を試みるのだが、とうぜんそれを受けるようなロードンではない。


ラドルもそんな暴君に臆することはないため、ふたりは戦いを開始する。


打撃戦を得意とするロードンに対して同じく打撃戦で迎え撃つラドル。ロードンはこれまでに体験したことがないほどラドルに殴られ蹴られるが、ラドルはそれ以上にボコボコにされていた。しかし、ラドルに起こった変化により、ロードンは瀕死になるほど叩きのめされる。


暴君と呼ばれ敵なしだった彼が、自分を超える強大な力によって捩じ伏せられ、獣たちに連れられて逃げ帰ることになった。


彼はそれ以来、暴君と呼ばれるような行動をとることはなくなり、人里に近づくことなくこの丘で暮らすようになる。そして、戦利品として持っていた異世界人の王具に興味を持ち、趣味として鍛冶を始める。その武具を売ったお金で生計を立て、この丸太小屋でスローライフを送っていた。


ロードンがそんな生活を始めて数年が経ったころ、ラドルは別の要件でこの地に訪れたことがあった。


そのとき、たまたま見つけたこの丸太小屋がロードンの家だとは知らなかったが、そこで出会った冒険者の男がこの国一番の鍛冶師の家だと教えてくれた。その彼を見送ったあとに遠くから見ていたところ、その丸太小屋から出てきたのがロードンだったのだ。



   ***



五十年前、自分の心をへし折った者が突然目の前に現れた。五十年もの月日が暴君だった自分を忘れさせたが、ラドルを見た途端に眠らせていた記憶を呼び覚まされる。それは、たった一度聞いた名前とその姿、そして無残な敗北の記憶。


自分なりの安らかな時間が崩れ、絶望が彼を襲っていた。


「お、おれはあれ以来、なにも悪さはしていない。ほ、本当だ!」


「そうか、それはなによりだ」


「だから……、だからもう放っておいてくれ」


おびえた声でそう告げるロードンの目には、ラドルこそが暴君に映っていた。その視線、その動作がロードンに恐怖を与える。


「ひーーーーー!」


ついにロードンは頭を手で覆って床に伏せてしまった。


「おい、ロードン。いったいどうしたんだ?」


ラドルは五十年前の戦いがロードンのトラウマになっているとは思わず、その行動に戸惑っていた。とりあえず自分に恐怖しているのだろうということを理解したラドルはゆっくりと部屋に入り彼の近くに寄っていく。


当時、暴君と呼ばれていた男とは思えないその様子もさることながら、古めかしい丸太小屋の部屋は調度品なども置かれ、こじゃれた雰囲気だった。この生活感から彼の五十年の生きざまを感じ、ラドルは安心と敬意を持った。


「ロードン、あのときはやり過ぎて悪かったな。おまえが感情のコントロールをできなかったように、オレも自分の力のコントロールができなかったんだ。それはおまえがあまりに強かったからなんだが。ともかく、おまえとの戦いは五十年も前に終わっている。お互い酷い目にあったがそれでおまえが平和に生きているのなら、あの戦いの痛みも無駄じゃなかった」


そう語るラドルの言葉を聞いて、ロードンはゆっくりと顔を上げた。


「おめぇはホントにあのときのラドルか?」


脳裏に焼き付いた記憶。恐怖により記憶が変質してラドルを悪鬼としているのだ。


「オレに戦う意思はない。さっきも言ったように人を探しに来ただけだ。とりあえず立てよ。暴君と呼ばれていたおまえには似つかわしくない」


笑顔とは言わないまでも感情のおだやかな表情のラドル。それが伝わったのかロードンは身を引きつつゆっくりと立ち上がった。


立ち上がったが言葉は出ず、体を振るえさせたままのロードン。当時とのあまりのギャップにラドルは言った。


「……おまえ太ったな」


ラドルがひねり出したのは、なごませるための言葉だ。


「は、ははは、はははははは……」


ロードンはその言葉に引きつった笑いを返す。


「とりあえず座ろうぜ。少し話を聞かせろよ」


ラドルは部屋にある椅子に座った。そして「なにか飲み物無いか?」と催促する。

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