レティシア=ガルボの足取り
ラドルはデッケナーの北部に位置する大国ノーザップに来ていた。
ベネフィー山を回り込んでノーザップ領に入ったところですぐに獣の群とノーザップの兵士団が戦っていた。ラドルは迷ったが結局手を貸して獣の群を撃退する。その際にラドルは昨今のノーザップの情勢を聞いた。
それは、活動が活発になった獣たちが山のふもとに現れるようになったことで、人的被害が出始めたという内容だった。そのため、現在ノーザップ王国にある三つのギルドの冒険者たちも王国の兵士と共に忙しく働いているという。
そんなギルドにラドルは顔を出し、レティシア=ガルボなる女性を探すのだった。
「ちっ、運が悪いぜ。最後のギルドか」
ノーザップ王国城下街に入って冒険者ギルドの場所を聞くと、この国には三つのギルドがあると教えられた。最初に訪れたギルドでレティシア=ガルボが所属しているかと尋ねたところ、このギルドにはいないと言われてしまう。東側のギルドに行くも勘はハズレ、この三択は西のギルドが正解であった。
「なに?! レティシア=ガルボはギルドを抜けた?」
ようやくたどり着いたギルドでラドルは声を上げて肩を落とした。
「あの子メキメキと力を付けてきてさ、もっと大きなギルドに所属して、もっと大きな仕事をこなすんだって。確かにここは他国と違って魔王の脅威はないし、他国といざこざもない平和な国だけど、それがこの国の良いところなのに。わざわざトラブルを求めるような……ねぇ」
「今どこにいるのか知らないか?」
ラドルの問いを少し疑わしく思ったギルドの受付に対して、ラドルは自分がデッケナー領土のアーキンドムにあるギルドに所属していると話し、その証である金属プレートを見せた。それを見たことで警戒心を解いた受付女性は少し考えてから口を開く。
「なんかね、ずいぶん前に『新しい装備類を作るんだ』ってはしゃいでいたことあったんだけど、その希少な鉱石を加工できる鍛冶師はかなりの腕前が必要らしくて。作れる人が見つからないって嘆いていたわ。それが最近やっと見つかったって言っていたから、その人なら彼女のことを知っているかもしれないわよ」
「その鍛冶師はどこにいるんだ?」
「さぁ。さすがにそこまでは把握してないわ」
と肝心なことはわからなかった。
結局自分の目と耳と足で探すしかなく、ギルドでこの城下のすべての鍛冶師を教えてもらい、ひとつずつ潰していくことになった。
十二軒。これがこの城下で登録されている鍛冶屋の数だ。それを一軒一軒回りながらレティシアについて聞いていく。その中でレティシアを知っている者もいるのだが、大半は彼女の依頼を受けられず断った者だった。六件目を確認したところで、ひとつ引っかかっていた言葉を思い返す。
(確かさっきの奴はこの国でマジカテ鉱石を加工できる鍛冶師は自分を含めて四人。その中で完璧に加工できる奴はいないって言ってたな。その四人のうちのひとりに頼まなかったってことは残りの三人にも頼まないんじゃないか?)
そうなるとこの国で仕事を依頼する可能性はかなり低い。妥協してその四人の誰かに頼む可能性もないわけではないが。
少し気持ちが萎えてきたラドルだったが、とにかく全部回ってみようと足取り重く残り六軒を回ることにした。そして、十軒目。
「未熟な俺にはマジカテ鉱石の加工は無理だ。爺ちゃんは凄腕だったからできたんだけどよ」
「本当か? その爺さんはどこだ? レティシアはそいつのところに向かったのかもしれん」
小さな手がかりにラドルは食いついた。
「いやぁ、それはまずないな」
若い鍛冶師は渋い顔でそう言った。
「なぜだ? 行ってみなければわからない。どこにいるんだ?」
ラドルの真剣で力強い眼差しに気圧されつつ、鍛冶師は指を上に向けた。
「この家の二階?」
と返すラドルに、
「いや、もっと上だ」
「もっと上?」
「そう、もっともっとずっとずーと上だ」
その物言いにラドルは察した。その爺さんは天に召されたのだと。
「俺の爺ちゃんは城下街で最高の名工だと言われていた。なんせノーザップ領土最高の鍛冶師ドン・ガ・ロードンの弟子だったからよ。俺は爺ちゃんにたくさん教わったけどまだまだ修行不足だ。できれば俺もそのドン・ガ・ロードンに直接教わりたいぜ」
「ドン・ガ・ロードン……」
その男の名がラドルの古い記憶の引き出しを刺激した。




