精霊と少女
今から約一年ほど前のある森の中。ひとりの少女が森の中に現れた。
少女が寝ていた草むらは深々と茂り、柔らかいベットとなって少女を受け止めていた。森の木漏れ日と爽やかな風の香りも一緒になって少女を優しく包んでいる。
分厚く柔らかい白い半そでの服、紺色の膝丈のズボンにヒモで縛られた派手な色の赤い靴。胸にはこの世界にはない文字が書かれていた。
(……起きて……)
優しく小さな声が少女に届き、少女は気持ちのよい眠りから目覚めて上体を起こした。
「なんでこんなところで寝てるの?」
少し寝ぼけながら記憶を辿って今の現状に結び付く出来事を思い出そうと試みた。
「あっ、みんなは?!」
ひとりではなかったことを思い出して辺りを見回すが人の気配はない。
森の風に揺らされた心地よい木々の音だけが耳に入ってくる。いや、その音に混じって声が聞こえた気がした。
少女はその声のする方へ歩き出す。森の先に広がる光がその声のする方向だ。
少女は歩きから早歩きに、そして駆け足と速度を上げていった。
森を抜けた先で少女の目に飛び込んできたモノは、広く澄んだ空と遠くにそびえる山、美しい自然と清らかな湖。
「きれい」
思わず口から言葉が漏れた。
しかし、あまりにきれいすぎる大自然が逆に違和感をあたえる。それはすべてが自然であり、少女が馴染んだ人工物の存在がひとつとして無いということ。
少女がこの違和感に確信を持つのはもう少しあとのことだ。そんな違和感の原因を頭の片隅で考えながら、声の主を探してあたりを見回す。
すると、湖のほとりに白いワンピース風の服を着た女性を見つけた。
少女はその女性に向かって走った。
自然の恩恵に満ちたこの場所の空気を肺いっぱいに取り込んで走ると、なんだかいつもよりも速く走れる感じがしてめいっぱい足を回転させる。
ぐんぐんと彼女との距離を縮めてあと少しというところで少女は急激に速度を落とした。
透き通るような白い肌、金色に近いブラウンヘアー。美貌というモノの究極かと思えるその女性は優しく微笑んで少女を見つめている。
少女は同じ女性でありながらもその美しさに驚きが隠せず、口を大きく開けて眺めていた。だが、美しさの他にもうひとつ驚くべきことがあった。それは彼女の脚が地についておらず、わすかに浮いていたことだ。
神々しいまでの美しさと常識を超えた現象に尻もちを付きそうな少女に、彼女は声とは違う言葉で話した。
「あなたの力で村を救ってください」




