女神への仕置きを誓う者
人里から遠く離れた森の中に魔族が住んでいた村があった。その村の建物は焼け崩れ、地面は荒れ果て、その状況がここで激しい戦いがあったのだと物語る。だが、それも今は昔……。
村から少し離れた丘に青年が立つ者の名はラドル。この村の出身の彼は数年ぶりにこの場所に訪れていた。
彼の身長ほどの大きな石を前でラドルは手を合わせる。
「しばらくこれなくてゴメン。昔と違ってわりと忙しい日々を送っているんだ。人族の知り合いも増えたのもあるけど、そのおかげで異世界人の情報も入ってくるようになったからさ」
村を出てから数十年。いつしか彼は人族の街に移住して、その中で生計を立てていた。
「異世界からやってくる奴の中にも稀にいい奴もいるけど、相変わらず胸クソ悪い奴が多いし、中にはとんでもねぇトラブルを起こす奴もいるよ」
ラドルはゆっくり目を開けた。
「だけど、ぶっ殺したりしてないぜ。母さんがあのとき言ってたから。『お仕置きしてやるさ』ってさ。だからオレもそうしてる。でもさ……。」
穏やかにその石を見つめていたラドルの表情が険しくなる。
「今度の大馬鹿野郎はオレのダチを……、そのダチの国を滅ぼしやがったんだ」
ラドルはそれらのことを思い出して眉をつり上げ歯噛みした。
「だから、今回は力が入り過ぎちまうかもしれないけど、殺さないように気を付けるよ」
ラドルは表情を戻して石に手を置く。
「今まで何人も異世界人の仕置きをしてきたけど、女神にはたどり着けてないんだ。でも必ず女神に仕置きして母さんの仇を討つ。そして、この世界を平穏で静かなモノにしてみせる」
そう言ってラドルはケープの裾をひるがえして、その場をあとにする。
立てられた石は彼の母親の墓石。ラドルが幼い頃に異世界人の集団によって村が襲撃された際に命を落とした。
戦いに臨むその前に、ラドルを床下に避難させた彼女はこう言ったのだ。
「母さんはあいつらを懲らしめてくる。なんの勘違いか私たちを目の敵にしてこんな村まで襲ってくるなんてちょっとやり過ぎだからね。きつくお仕置きしてやるさ」
その言葉は彼の脳裏にしっかりと焼き付いている。
異世界人がこの世界に来るようになってから百数十年。魔王は侵略を繰り返し、勇者に討たれてはまた現れる。
正義か悪かも判別できない者たちによって、この世界は乱されている。その原因は異世界人を呼ぶ女神の存在だ。
ラドルは墓参りにくるたびに、女神に仕置きすることを強く誓っていた。