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人狼奇憚  作者: デベ
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四章:一時の安寧

「そういえば満月はいつ水守さんを呼んだの?」

柏村で化け物を倒し、村の生き残りのいる洞窟に向かって歩いている最中、さも今気がつきましたというように時雨が聞いてきた。

しかし村で満月が合流し時雨が落ち着きを取り戻し洞窟へ向かうことになった時から、ずっと上の空で満月に話しかけられると「うぇ!?え?うん。そうだね。」という反応しか返さず、水守の方をやたら盗み見ては溜息を吐いて、拳を握るなどの動きをしていた。

さらに質問するまでの移動中は独り言をぶつぶつ呟いては満月と水守を見比べるなどしていたのだ。満月は苦笑いしかできず、水守に至っては呆れて溜息を吐いている。

「え?え?何か変なこと聞いたかな?」

何か拙いことを聞いたのだろうかと時雨は少し縮こまってしまった。

「なに、村から今までそんなことを考えていたのかと思っただけさ。」

話しかけても上の空だったしな。と満月が言うと、時雨は顔を真っ赤にした。

「いや、それは、その、水守さんが何か、その満月と知り合いみたいだったから、えと、少し気になっただけだよ。」

時雨はしどろもどろになりながら言い訳をする。

満月はまた苦笑いすると時雨の質問に答えてやった。

「まあいいさ。それと水守ならずっと俺の傍にいたぞ。まぁ俺にも時雨にも見えない状態だったけどな。」

そういうと満月は近くで浮いている水守の方を見る。

水守は仕方ないのうと溜息を吐くと、その姿が虚空に消えた。少しすると虚空からこれで満足かの?と聞こえ、水守がまた空中に姿を見せた。

時雨は訳もわからず唖然とするしかない。

「本来ならば我に体などという物は存在せぬ。この体は空気中の水分で出来ておるでの。消えたように見えるのは体を元の水に戻したからじゃ。主に細かい説明などしてもわからぬだろうからせぬぞ?徒労に終わるのはつまらぬでのう。」

そう言うと面倒そうに頭を掻いた。

そうして唖然としている時雨を見ると、何か思い出したらしく、笑みを浮かべると時雨に近寄り耳元で一言だけ何かを囁いた。すると何を言われたのか、茫然としていた時雨がこれまでに無いほど顔を真っ赤にして慌てふためいた。相当恥ずかしいのか、手で顔を覆いながらあわあわ言っている。

「どうした?昨日の夜がどうとか聞こえたが何かあったのか?」

満月がそう聞くと、時雨はかわいそうなほどびくっと反応すると目を逸らしながらナンデモアリマセンと抑揚なく答え、どこか厭らしい笑みを湛えながら浮いている水守に対して涙目になりながらこそこそと何かを言っていた。そして水守は涙目の時雨を見ると頭に手を置いた。

「時雨はかわいらしいのう。どこかの誰かさんとは大違いじゃ。安心せい満月には教えてやらぬよ。教えたら教えたでどういう行動を取るのかも想像がつくでのう。」

そう言いながら時雨の頭を撫でている。どうやら時雨は水守に気に入られたらしい。昨晩は助けに行ってくれと頼んだときとはえらい違いだ。

あんな小娘などいっそ食われてしまえばいいなどと言っていたとはとても思えない。

「可愛げがなくて悪かったな。」

満月は仏頂面でそう言うと溜息を吐いた。まぁ俺以外に水守が心を許せる相手ができたならいいだろう。そう思い二人の方を振り返る。

水守は楽しそうに、そして時雨はどこか嬉しそうに笑っている。それを見ると満月は表情を崩した。

「時雨は許してやろうかのう。だがそこの女たらしは決して許してやらぬからな。」

そう言って満月を軽く睨む。時雨は完全にそっぽを向いている。耳まで真っ赤になっているので今は触らないでおいてやろう。

「俺が何かしたか?」

特にこれといったことはしていないような気がするが・・・。

「ほう?心あたりはないと申すか?」

そう言うと水守の額に青筋が浮いた。これは拙い。

「あれか?初対面で時雨を口説いたことか?」

時雨が関わっているのはそれくらいのはずだ。

それを言うと時雨は両手で顔を覆った。見えている耳が真っ赤に染まっている。そして顔を覆っているために前が見えず、何度も蹴躓いているのだが、その度に水守がさり気なく支えている。

「それもあるのだが、今回は違うのう。」

短くそう言うと満月に向かって化け物を吹き飛ばしたときの様に手を向ける。いや、あれは本当に洒落にならない。

「待て!とりあえず落ち着け、何をしたのか思い出すから少し待ってくれ!」

こちらも命に関わるものなど食らいたくない。満月は歩を進めながら思案した。

「時雨には口説く以外のことはしてないから・・・。あれか?前の村で口説いた子のことか?あれはもう終わったことだろ?いや違うな。となるともう一つ前の村のか?でもあれも終わったことだし・・・。」

 はっと気がつくと時雨は満月を見ながら絶句し、水守の額の青筋はすごいことになっていた。

・・・ああ、これは死んだかもしれんな。と考え空を見上げた。見上げた空には夜が明け綺麗な青空が広がっていた。

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