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06

【異世界転生】京奈院ラヴPart12【犬耳お嬢様】


357.名無しのリスナーさん

 昼休憩に覗きに来た。なんか進展あった?


358.名無しのリスナーさん

 残念ながら…


359.名無しのリスナーさん

 相変わらずのスヤスヤ動画


360.名無しのリスナーさん

 これもう放送事故だろ


361.名無しのリスナーさん

 最初から放送事故なんだよなぁ


362.名無しのリスナーさん

 ラヴの寝顔が可愛いからセーフ(震え声)


363.名無しのリスナーさん

 この配信って結局なんなの?

 ゲームに閉じ込められたとか、マジで信じてるわけじゃないっしょ?


364.名無しのリスナーさん

 せ、せやな…


365.名無しのリスナーさん

 やっぱ新しい3Dモデルのお披露目なんじゃね?


366.名無しのリスナーさん

 モデルっていうよりキャプチャー技術とかのPRぽい

 そもそもデザインが変わったわけでもないし


367.名無しのリスナーさん

 実際この滑らかさで全身を動かせるのは革命的なのでは?

 モーションの破綻が一切ないし、表情もめっちゃ自然に動いてるもん


368.名無しのリスナーさん

 スターライトの技術は世界一ィィィ!


369.名無しのリスナーさん

 そのうちフォーちゃんたち同期のモデルもこのクォリティに進化しそう

 胸が熱くなるな


370.名無しのリスナーさん

 それでも、それでも俺は、異世界転生説を諦めない!


371.名無しのリスナーさん

 そう…


372.名無しのリスナーさん

 戦わなくちゃ、現実と


373.名無しのリスナーさん

 待てィ!

 それじゃ本気で心配して会社早退してきた俺が馬鹿みたいじゃないか!


374.名無しのリスナーさん

 実際馬鹿なのでは?


375.名無しのリスナーさん

 おいやめろ馬鹿


376.名無しのリスナーさん

 平日の昼間からスレに張り付いてる時点で全員同じ穴のムジナなんだよなぁ…


………

……


423.名無しのリスナーさん

 ところで探偵さんって誰のことだかわかったの?


424.名無しのリスナーさん

 なにそれ?


425.名無しのリスナーさん

 夜の3時くらいにマネージャーがコメントに降臨したときのラヴのセリフ

 マネ「こちらでも救出の方法を探しています」

 ラヴ「ひょっとして探偵さんが!?」

 みたいに聞こえたらしい


426.名無しのリスナーさん

 そんなこと言ってたっけ?


427.名無しのリスナーさん

 ぶっちゃけ涙声すぎてなに言ってるのかわかんなかった

 言われてみるとそう聞こえるかも、くらいのレベル


428.名無しのリスナーさん

 つーか、なんで探偵?


429.名無しのリスナーさん

 芸能事務所にお抱えの探偵がいるってのはガチ

 採用予定の相手の身元調査に素行調査

 スタジオとか事務所の盗聴器やら隠しカメラの捜索、

 あとはコラボ相手とか提携先の企業の信用調査とかが仕事


430.名無しのリスナーさん

 でもそういう外部の専門家ってタレントとは接触ないんじゃないの?


431.名無しのリスナーさん

 それはそう

 面識すらないのが普通


432.名無しのリスナーさん

 じゃあラヴの言ってるのとは違うんじゃね?


433.名無しのリスナーさん

 はい、該当箇所の切り抜き

 https://~~


434.名無しのリスナーさん

 これは有能


435.名無しのリスナーさん

 鼻声すぎてなに言ってんのか全然わかんねえんだが


436.名無しのリスナーさん

 俺には「ひょっとことダンディさん」って聞こえた


437.名無しのリスナーさん

 「日和ってんなダディャーナザァン」じゃない?


438.名無しのリスナーさん

 草


439.名無しのリスナーさん

 もうそうとしか聞こえない


438.名無しのリスナーさん

 余計に誰だよそれは





 古歩道研究所から脱出した宇佐見は、一度自室に戻ることにした。

 ねぐらにしている雑居ビルまで、車でおおよそ40分。雑居ビルに戻ってきた宇佐見は、2階の事務所が変わらず施錠されていることを確認して、3階の自室に足を向けた。


 部屋に入り、まずはスタン・ショットの使用済みカートリッジを処分する。それから部屋の奥の鍵付きの収納棚を解錠した。中にしまってある過去の依頼の報告書を床に置き、隠れていた背板を横に動かす。

 奥からちらりと顔を覗かせた道具を吟味して、そのうちのいくつかを取り出した。どれも持っているだけで直ちに法に触れるものはないが、理由なく持ち歩くのは躊躇われる仕事道具たちである。

 備えあれば憂いなし。普段の依頼で使うような装備だけではちょっと心許ない。正体不明の怪物と対峙した宇佐見が至った結論である。


 しっかりと鍵を掛け直して、取り出した装備をスポーツバッグに詰め込み、駐車中のビートルに放り込んだ。それから近所のファストフードチェーンで昼食を買い込み、今度は2階の事務所に移動する。

 来客用のテーブルにファストフードの袋を置き、ソファに腰掛けてやっと一息。時刻は12時を回ったところだった。


 やたらと氷の入った炭酸飲料を飲みながらスマートフォンを確認する。新着のメッセージが10件ほど。その中から重要そうなものをピックアップする。京奈院ラヴの捜索に関係しそうなメッセージは、全部で3つあった。


 1つ目はラヴのマネージャー、山坂からのもの。

 午前中いっぱいを使って、彼とスターライト社のスタッフは、京奈院ラヴの知り合いで連絡可能な相手に片っ端からコンタクトを取ったのだという。

 結果、収穫はゼロ。ラヴの消息を知る人物は誰もいなかった。彼女ともっとも仲が良い同期のライバー、フォーちゃんこと綺羅星フォリンでさえ、心当たりすら無かったらしい。


 2つ目のメッセージは、ガジェットオタクの友人からのもの。

 いくつかのツテを使って、某大学の産学連携プロジェクトで新型のVRマシンの開発が進行中という情報に辿り着いたらしい。詳細は不明だが、次世代仮想空間の創出を標榜しているのだとか。

 しかし、研究は今のところ外部には非公開で、なおかつマシンも未完成。テストヘッドくらいはあるかもしれないが、それが第三者に流出したとかいう話も無い。ラヴの失踪に関係しているような気配は、今のところ感じられなかった。


 最後に、鳥島刑事から送られてきたメッセージ。

 デルタのリストを参照しながら全国の警察に照会をかけたところ、記載された人物の全員が行方不明者として届け出られていることがわかった。パソコンの中身を調べられたのは、現時点でそのうちの半分ほど。そして案の定、彼らのパソコンの全てから、AnotherArcadiaのプログラムが発見されていた。

 鳥島刑事はこれから開発元のオフィスの調査に向かう予定らしい。未確認ながらその会社で爆発、あるいは強盗があったのではと近隣住民から通報があったと、メッセージの末尾に書き添えられていた。

 ……とても心当たりのある話である。もっとも、素直に名乗り出るには、その場所で遭遇した出来事があまりに空想じみているのだが。


「目新しい手がかりは特になし、か……」


 味の濃いハンバーガーを食べてしまってから、軽く溜め息。それほど期待していたわけでもないので、落胆はそう大きくはない。

 10秒ほど天井を仰ぎ、目を閉じてこめかみを揉みほぐした。

 さて……。テーブルを占有するファストフードの包装をゴミ箱に放り込み、再びスマートフォンのメッセージアプリをタップする。連絡相手のリストをスクロールして、今朝になって登録されたばかりの黒猫のアイコンを選択した。通話リクエストが発信されると、ほぼノータイムで反応が返ってきた。


「こんにちは、ミスタ・ウサミ。1時間21分17秒ぶりですね」

「……ヤンデレみたいな挨拶はやめてくれないかな?」


 デルタの声はどう聞いても機械的な合成音声なのだが、抑揚がないわけではなかった。むしろ、奇妙な人間味がある。完全に中性的(あるいは、無性的)なその声に女性的な響きを感じ取ったのは、その微かな"ゆらぎ"のせいかもしれない。


「私は病んでもいなければ、デレてもいません。訂正を求めます」

「意外とサブカルに詳しいよね、キミ。たとえ話だよ、たとえ話。本気でそう思ってるわけじゃない」

「理解しました。本気で誤認させるには調声不足ということですね」

「なんだって?」


 スッと唐突に抑揚を無くした電子音声に、宇佐見は露骨に顔を引きつらせた。

 ジョークか? 本当にジョークなのか?


「データ解析の進捗を報告します。原理不明のプログラムの複製と再現には成功しました。しかし、起動環境の構築が完了していません。複数のエミュレータを試製しましたが、いずれも有効な環境ではありませんでした。現在、作業終了の目途は立っていません。プログラムの実行にはなんらかの情報が欠けていると判断できます」


 かと思えば、いきなり話題を変えて大真面目な報告をしてくる。どうにも意図が読みにくい。もちろん、デルタもそれを狙って言葉を選んでいるのだろうが。

 ふむ、と宇佐見は小さく息を吐いた。まぁとにかく、デルタがラヴの消息に繋がる重要なポジションに立っていることは確かだ。多少の与太話には大人しく付き合うしかあるまい。


「それで、例の怪物について、デルタの見解は?」

「生物的な特徴に完全合致する存在は確認できていません。部分的な類似が認められるケースは複数ありますが、いずれも具体的な物証を伴わない目撃証言や風説、フェイクロアと呼ばれるものです。また、痕跡を一切残さず消滅したことを鑑みるに、既知の生命体の体系からは外れた存在であると推測されます」

「ファンタジーだねぇ」

「いいえ。観測機器の故障が認められなかった以上、空想(ファンタジー)ではなく現実(リアル)と判断すべきです」


 デルタの平坦な言葉に宇佐見は頭を掻いた。

 宇佐見はファンタジーはファンタジーとして楽しみたいと思っているタイプだ。リアルになって欲しいとは思っていない。どんな輝かしい空想でも、現実になった途端に薄汚れたものになってしまうのではないか。そう考えてしまうのだ。


 スターライト社の仕事を受けつつ、しかし同社の演者とは接触を避けてきたのも、この思想によるところが大きい。(もちろん、職務上の倫理や信頼保持といった意味もあるが)

 よって、今回携わっている京奈院ラヴの"リアル"の捜索は、宇佐見にとってもイレギュラーな事態だった。その辺りの私情は仕事を受ける上で割り切るべきものなのだが……それなりにメンタルに負荷が掛かっているのもまた事実である。


 だが、だからといって、"推し"の危機を放置するなど言語道断。

 この事件の解決が遅れたことが原因で、ラヴの活動が終焉を迎える事態になろうものなら、宇佐見は決して自分を許すことができないだろう。つーか生きる希望が消える。想像するだけでツライ。タスケテ。

 かくなる上は速攻で事態を解決し、速攻で彼女の"リアル"を忘れてしまうしかない。リコール社に頼りたい気分だ。……いや、あれも原作のことを考えると、うーん、という感じだが。


「まぁ、とにかくだ。極論、あの怪物の正体はどうでもいいわけで。大事なのは京奈院さんに繋がる手掛かりが見つかったのか、ってこと」

「そちらはデータベース化されていたPCに注目すべきものがありました。古歩道研究所の代表、古歩道ケントの所在地です」

「怪しすぎる」

「はい。ですが、衛星写真と複数の路面写真により、現地に古歩道ケント名義の表札を掲げた住宅を確認しています」

「住基は?」

「住民票上の現住所は別の場所になっています。本籍地と同一の住所です」


 宇佐見は腕を組みながら顎を撫でた。


「どっちか、いや、両方当たるか」

「近いのは前者です。隣県ですが、所要時間はおよそ1時間。後者はかなり遠方になります。自動車の場合、高速道を使っても4時間は掛かるでしょう」

「うーん……なんだか、こっちの行動をコントロールされてる気がするね」

「可能性は高いです。一定の導線が引かれていると認識できます」


 わかりやすい手掛かりを小出しにして、次々に目的地を提示する……。まるでRPGだ。なぜ、犯人(と呼んでいいのかは、いささか疑問だが)はわざわざそんな道筋を残しているのか。


 推測はできる。

 ゲームの製作者――古歩道ケントは、自身を見つけて欲しいと思っている。

 ただし、すぐにではない。適度に障害に引っ掛かり、適度に時間を掛けて、だ。


 もし、京奈院ラヴがライヴ配信を行っていなかったら。

 もし、デルタが行方不明者たちとAnotherArcadiaの関連性を見つけなかったら。

 もし、古歩道研究所を最初に調査したのが宇佐見ではなく警察だったら。


 集団失踪の発覚は遅れ、ゲーム会社の調査も後ろにずれ込み、オフィスの踏み込みは令状を待ってからになっていたことだろう。残されていたデータの解析と古歩道ケント名義の住宅の発見にもそれなりの時間を要するはず。


 そういった手順を踏んで、時間を浪費した末に発見されることを"犯人"が望んでいるのなら……こちらの行動は相手の敷いたレールに沿っているのかもしれないが、速度という一点においては相手の想定を上回っているのかもしれない。


「スピード勝負だな。デルタ、ナビゲートを頼む」


 虚空を睨み、頷きをひとつ。宇佐見はソファから勢いよく立ち上がった。

 急いては事を仕損じるというが、しかし、変に慌てて動いてるわけではない。

 即断即決とフットワークの軽さ、それが個人営業の探偵の武器であり、そのスピードが宇佐見のデフォルトであるというだけなのだ。

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