98、戦利品とかホントに怒られるよ?
「グフっ‥‥‥でござる」
「トシゾウさん、もうやめましょう」
トシゾウは何度も俺に木刀を撃ち込んできて、空振りするたびに地面に突撃していた。
‥‥‥そろそろ体力の限界か?
「‥‥‥まだでござる。拙者のアリス殿への愛は、こんなものじゃないでござるぞ!」
フラフラになりながらも、木刀を杖代わりに立ち上がるトシゾウ。
「トシゾウさん‥‥‥」
「ニア殿、いい加減攻撃してこいでござる! ニア殿のアリス殿への愛は、そんなものでござるか?!」
「‥‥‥なんの話ですか」
「何度も言うが、この戦いに勝った方がアリス殿を嫁に貰えるでござるぞ! ニア殿は拙者が勝ってもいいのでござるか?!」
負ける気はしないのだが‥‥‥。
「‥‥‥勝手に戦利品にしてたら、多分アリスさん怒りますよ?」
いや、確実に怒られるだろう。
「ニア殿、本気で来いでござる!」
俺の話聞いてた?
「トシゾウさんは、何がしたいの? 勝ちたいの? 負けたいの?」
「‥‥‥ニア殿、これも何度も言うが、拙者負ける気はござらん。本当に、勝ってアリス殿を手に入れたいでござる‥‥‥」
「‥‥‥だから、俺に勝ってもアリスさんの心は動かないと思いますよ」
「うるさいでござる! そんな事はわかってるでござる!」
「じゃあこの決闘自体、無意味でしょ。もうやめましょう」
「うるさいでござる‥‥‥」
そう言うと、トシゾウは胡座をかいて座り込んだ。
「‥‥‥トシゾウさん」
俺もトシゾウの前に座る。
「‥‥‥ニア殿、このままではアリス殿がかわいそうでござる。言うなと言われているのでござるが、アリス殿は身を引く気でござる‥‥‥」
「身を引く?」
「自分には釣り合わないと、だから見守ってるだけでいいと‥‥‥」
トシゾウは俯き地面を見つめている。
「‥‥‥何の話ですか?」
「ニア殿の話に決まってるでござろうが?! 拙者に言わせないでくれでござる!」
急に立ち上がり頭を抱えるトシゾウ。
「‥‥‥ああ」
「‥‥‥ああ、ではござらん! なんとかならんのでござるか?! 拙者はアリス殿を諦める気はないでござる! しかし、拙者ではアリス殿を幸せには出来ないでござる!」
「‥‥‥トシゾウさん、複雑な状況ですね」
「ニア殿が言うなでござる。‥‥‥拙者は自分も幸せになりたいでござるが、アリス殿も幸せになって欲しいでござる‥‥‥」
「それで俺に決闘を?」
「‥‥‥拙者は諦める気はないでござる‥‥‥。しかし‥‥‥拙者には、もう何がなんだかわからないでござる」
「トシゾウさん、人の幸せを考えれるなんて、凄く大人になりましたね!」
「ニア殿が言うなでござる‥‥‥」
「失礼しました」
暫く沈黙。
2人共地面を見つめて座っていた。
そういえばいつの間にか女神様の姿が見えない。
気を遣って少し離れてくれたのかもな。
「‥‥‥ニア殿、教えて欲しいでござる」
「なんでしょう?」
「ニア殿はアリス殿を‥‥‥いや、やっぱり聞きたくないでござる。いや‥‥‥しかし、聞かない事には‥‥‥」
「もう、なんなんですか‥‥‥」
「‥‥‥揺れる恋心がニア殿にはわからんでござるか?」
「なんとなくわかる気がします」
「ニア殿は拙者より幼稚でござるからな。人の恋心などわかる訳がないでござる」
「なんと失敬な!」
確かに俺は、昔からその辺に疎い。
自覚はしている。
「じゃあ、拙者の気持ちがわかるでござるか?」
「‥‥‥アリスさんへの愛と‥‥‥俺に対する嫉妬かな?」
「‥‥‥嫉妬心でござるか。なるほど、そうかもしれないでござるな。拙者ニア殿に嫉妬してるでござるな‥‥‥」
恋に疎く、頭の悪い2人。
今ここに、色欲のイレイザ先生でもいれば、1発で回答を頂けそうだ。
‥‥‥いや、なんか変な知恵を植え付けられて、性格が歪んでしまうかもしれないな。
「しかし、お子ちゃまなニア殿が、嫉妬がわかるとは意外でござるな」
「‥‥‥失敬な! 嫉妬くらい俺だってした事がありますから!」
「ほぉ、いつでござるか?」
‥‥‥確かアレは。
「トシゾウさんが、アリスさんに告白してる時かな‥‥‥」
「‥‥‥ニア殿‥‥‥それを、なんで、今このタイミングでさらりと言えるでござるか?!」
「すいません、多分‥‥‥」
「ぐぬぬ! ニア殿、決闘でござる!」
やはり俺とトシゾウの戦いは避けられないようだ。
俺と創造主の壮絶な戦いが今始まる!
「‥‥‥あれ? 決着ついたの?」
「女神様どこ行ってたの?」
大の字でノビてるトシゾウの横で、空を見て転がってた俺。
「‥‥‥ああ、長そうだったし、私がいたら邪魔でしょ? その辺を散歩してたのよ」
その手に持ってる、何かの肉の串焼きはなんでしょうか?
この人、転移でどっかの街に行って遊んでたな‥‥‥。
「女神様、トシゾウは変わりましたね」
「そうね。‥‥‥食べる?」
「いや、いいです‥‥‥」
女神様は俺の隣に座ると、手に持つ串焼きを差し出してきた。
「全部サトシのお陰よ。ありがとう」
「‥‥‥それ、食べながら言う事ですか?」
美味しそうに肉を頬張ってる、笑顔の金髪少女。
「本当に感謝してるわ」
「‥‥‥それはどうも」
女神様の満面の笑みを確認して、俺はまた転がって空を見た。
──本当にいい天気だ!