94、魔王代理
メルヘンチックなラブリー魔王城。
城の見た目とは余りにも似つかわしくない、鋭い目つきの顔のいい魔族がその玉座に座っていた。
その前に跪く、神々しいオーラを放つマスク姿の男。
俺である。
「ヴィラル君、出世したの? おめでとう!」
「‥‥‥テメェ、誰のせいだと思ってやがる。わざとらしく跪くんじゃねえ」
ちゃんと礼儀良くしてるのに、失礼な魔族だな。
「四天王に降格されてた元魔王ヴィラル君が、まさかの魔王職に返り咲きですな」
「‥‥‥返り咲いてねえし、返り咲きたくもねえ。魔王様が最近城にいねえから、留守の間の代理を無理やりやらされてんだよ」
魔王代理。
ありそうでなさそうな役職。
「魔王様、今日は魔王からの伝言を伝えに来ました」
「ややこしいから俺の事を魔王と呼ぶんじゃねえ。‥‥‥で、魔王様はなんだって?」
「『宿の運営で忙しい。もう暫く魔王でいろ。後、イレイザも宿で働かすから、四天王は誰もいなくなったと思え』以上です」
一字一句そのまま伝えられたはずだ。
「なんだそりゃ?!」
「‥‥‥魔王の命令じゃない?」
ヴィラルが玉座から立ち上がり詰め寄ってきたので、ヒラリとかわした。
「‥‥‥なんで魔王様が宿屋やってんだよ?」
「なんか責任があるとかないとか言ってたぞ」
「‥‥‥わかんねえ」
レイラと魔王は、自分たち目当ての客の予約が終わる1ヶ月後まで、宿で働く事にしたそうだ。
アリスさんに文句を言う客がいたら、申し訳ないからとか言ってたな。
宿泊料は元の値段で20ゴールド。
予約客も驚く、脅威の99%OFFである。
「‥‥‥なあ、魔王様このまま帰らないとかねえだろうな?」
「それは俺にはわかんない」
「全部テメェが悪いんだろうが。後、なんでイレイザは帰って来ねぇ?」
「イレイザも宿屋で働くからだろ?」
「‥‥‥どんな宿屋だよ」
普通の街の宿屋だ。
ヴィラルは玉座に腰掛け空を見上げている。
「とりあえず、ちゃんと伝えたからな。後は頑張れヴィラル君。頑張り次第で出世も夢じゃないぞ」
「俺は別に魔王に戻る気はねえからな!」
「あんなに悪魔的な変身が出来るのに?」
「‥‥‥うるせえ。そんな事より、テメェ創造主に狙われてるのはどうなったんだ?」
「ああ、9日後に決闘する事になった」
「決闘だと?!」
「全ての力で襲ってくるそうだ」
「いや待て、それやべぇだろ‥‥‥天使ちゃんは1,000体もいんだぞ?! ゆっくりしてる場合じゃねえ、急いで全軍を集めねえと!」
「‥‥‥その事なんだが、今回は俺1人で戦う事にした」
「何言ってんだ? 確実に死ぬぞ?」
「レベルを上げたから、多少は戦えるはずだ」
トシゾウを鍛え出してからも、ちょくちょくレベル上げをしていたので、俺のレベルは2,500を超えている。
今思えば、トシゾウは腹筋などをしている時、横でレベルを上げている俺をどんな気持ちで見ていたのだろうか‥‥‥。
「レベルを上げたからって、1,000体もあんなのがいたら無理だろ‥‥‥」
「ドーピングもガンガンするつもりだ」
「ドーピング?‥‥‥ああ、アレな」
そう、アレな。
「今回の敵は大量の『天使ちゃん』が相手だ。気持ちはありがたいんだけど、お前らは邪魔だ」
「‥‥‥テメェ、ちゃんと言葉を選びやがれ」
『天使ちゃん』と辛うじて戦えるのは、魔王とヴィラルくらいだろう。
しかし、あくまでも辛うじてである。おそらく戦ってる最中に力尽きて‥‥‥。
言い方は悪いが実際に邪魔になる。
「おい、魔王様はなんて言ってんだ?」
「かなり怒ってだけど、最後は納得してくれた」
「‥‥‥そうか」
魔王は怒り、レイラは泣いてた。
しかし、何と言われようとこれは引けない。
俺のせいで、誰かが死ぬのはもうウンザリだ。
──そして何よりも‥‥‥。
「これは俺とトシゾウの戦いだ」
「‥‥‥トシゾウって誰だよ?」
「ああ、創造主様」
「あのデブそんな変な名前だったのかよ」
「ヴィラルも面識あるんだな?」
「俺は前魔王だぞ」
そういえばそうか。
「テメェはあいつに攻撃できんだろ? 不意打ちで倒しちまえよ」
「‥‥‥やりたくないが、最悪それも考えてる」
本当に最悪の場合だけどな‥‥‥。
「その時は俺たち魔王軍を、囮に使ってくれてもいいんだぜ?」
「ヴィラルどうしたの?! 怪しい、優しすぎる!」
「‥‥‥テメェはガキか‥‥‥。テメェが死んだら魔王様が悲しむだろうが」
「‥‥‥なるほど」
「現状、魔王軍は俺の指揮下にある。なんでも言ってくれ」
「じゃあ一つ頼んでもいい?」
「なんでえ」
「決闘の時、魔王とあと数名を魔王城で守っててくれない? 誰も戦いに来ないように、監視役込みで」
「‥‥‥わかった。ただ魔王様が本気で暴れたら、俺には抑えられねえからな」
「魔王代理のくせに、役立たず!」
「うるせえ!」