69、天使の羽根は取り外し可能?
俺は一度プリングの街に転移してから、祠を目指していた。
とりあえず急げとの事なので、マスターしていた飛行魔法で空を飛んでます。
歩きとは比較にならないほど速い。
「‥‥‥俺も海に行きたかったな」
無念である。
「そもそもなんで俺が狙われてるんだ? 」
俺がそんなに悪いことしたか?
女神様より上の存在で、俺の殺害命令を出した黒ずくめの男。
そいつの指示で、狙ってくるのが『天使ちゃん一号』。
ふざけた名前だが天使。
考えたくないが、黒ずくめの男の役職はなんとなくわかりましたよ。
──神。
そんな存在がいるのかどうかは知らないが、もうきっとそいつはそんな感じの人なんだろう?
「‥‥‥命は狙われるし、2人の水着姿は見れないし、今日は散々な日だ」
全部黒ずくめの男が悪い。
そして許さない。
1人で楽しみやがって。
会ったらぶん殴ってやる。
──レベルをもっと上げてからな!
‥‥‥今は逃げる。
「お、あれが祠のある森かな?」
はるか先に鬱蒼としげる森が見えてきた。
かなり広大。
森というか最早ジャングル。
「‥‥‥祠なんてすぐ見つかるのか?」
あまり手間取っていると、黒ずくめに気付かれるかもしれない。
女神様も、もう少し詳しく場所を教えてくれたら────
「目標を発見。排除を開始」
「‥‥‥え?」
不意に頭上からの声。
ここは空の上。
人などいるはずもない。
──油断した!
声のする方を向こうとした時には遅かった。
ドガッ!
「ぐっ‥‥‥」
頭上からの攻撃。
後頭部を殴られ、地面に叩きつけられていた。
「いたたたたっ‥‥‥。くそっ、完全に不意打ちじゃないか!」
急いで立ち上がり、空を確認すると人影が見えた。
──攻撃してきたのはあいつか。
金髪ショートカットで、黒いゴスロリファッションに身を包む女性。
背中の大きな白い羽根を優雅に羽ばたかせながら、俺の方に降りてくる。
何故ゴスロリファッションなのかは気になるが、おそらくこいつが『天使ちゃん一号』なのだろう。
「‥‥‥逃げきれなかった」
俺はこっそり祠に入らなければいけなかった。
見つかってしまったら、レイラと魔王の囮も無駄だろう。
作戦失敗だ。
──戦うか?
魔王でも勝てないかもしれないと言ってたな‥‥‥。
今の俺に勝てる気はしない。
‥‥‥どうしよう。
考えがまとまるまで、待ってくれるわけもなく、『天使ちゃん一号』と思われる女性が俺の前に舞い降りた。
真っ白い羽根がとても綺麗、まさに天使。
──あれ?
ゴスロリファッションの『天使ちゃん一号』は、近くで見ると10代半ばの可愛い少女だった。
‥‥‥そしてその顔には見覚えがある。
「‥‥‥女神様、何やってんですか?」
服装と羽根が生えてる事を除けば、完全に女神様です。
逃げろ言っといて自分で襲ってきますか?!
綺麗な羽根とか生やして生意気な。
ちょっと羨ましいぞ。
これが本来の姿なのかな?
「詳しく事情を教えてください。いったいなにがどうなって────」
ドゴーンッ!
「ちょっと! なんで攻撃してくるんですか?!」
すんでのところでかわせたが、女神様の手から放たれた魔法が、俺がいた辺りの地面に大きな穴をあけていた。
「‥‥‥何か話せない事情でもあるんですか?」
「‥‥‥」
無言でこちらを見ている女神様。
女神様が『天使ちゃん一号』なのか?
『天使ちゃん一号』が女神様なのか?
‥‥‥一緒か。
──よし! わからん。
「女神様! 聞こえますか!」
「‥‥‥」
やっぱり反応無し。
操られている可能性もある。
こちらからは攻撃したくない。
かと言ってこいつは魔王より強いんだろ?
この状況、俺が選べる選択肢は一つしかない。
──全力で逃げる!
俺のとっておきの緊急脱出魔法。
打ち上げ花火だ。
転移魔法は少し時間がかかるので、戦闘中は向いてない。
無防備になりすぎる。
打ち上げ花火で、距離を取ってから転移してやる。
「さらばだ!」
俺の全力の魔力を一気に放出。
ブシューーーッ!
俺は物凄い勢いで上空へ飛び上がった。
目が開けられない程のスピード。
「とにかく逃げて、魔王に詳しく聞いてみるか」
かなり距離を取れたので、転移魔法の準備に入ったのだが──
──殺気?
「‥‥‥」
「‥‥‥嘘でしょ?」
自分の身体より大きな両手剣を構える、ゴスロリ少女が目の前にいた。
かなりのスピードで飛んでいるのに‥‥‥。
グシャッ!
「‥‥‥ぐはっ!」
脳天から叩きつけられた大剣により、一瞬意識が飛んだようで、気付いた時には地面に大の字で転がってた。
寝転がる俺の前には、ゴスロリ少女が大剣を担ぎ無表情で立っている。
「うわ!」
転がりながら距離を取って、立ち上がる俺。
まだ頭がガンガンする。
連続で頭に攻撃を受けたからだろうな。
──どうすんのよこれ?
ゴスロリ少女がトラウマになりそうです。