5、いのちだいじに
「あれは武器屋?」
剣の絵が描かれたお店。
転移して2日目。
優しい宿屋のお姉さんに街を案内してもらっていた。
「そうね、でもあんまり必要ないかな」
「行きたい!」
「どうぞ」
剣がズラリと並び、壁にはナイフや弓が飾られている。
金槌の大きいのも置かれていた。
「‥‥‥埃っぽい」
客があまり来ないのだろう。
この店大丈夫か?
「仕方ないよ、武器を買う人は少ないからね」
「アリス冷やかしか?」
奥から店主っぽい、小さな眼鏡を鼻にかけたおじいちゃん。
「ちょっと見学」
アリスと呼ばれた優しいお姉さん。
「鋼の剣ってありますか?」
RPGの武器の代名詞。
購入したらなんか、いっぱしになれた気がする装備の代表。
「なんだ買うのか? これだが」
眼鏡のおじいちゃんが指差した先には、ズラリと並ぶ鋼の剣。
この辺全部そうなのね。
「‥‥‥1,000ゴールドか、足りないや」
所持金は678ゴールド。
しかし、10万円とはお高い。
「この辺はもっと安いぞ」
眼鏡のおじいちゃんが指差したのは、鉄とか銅で出来た剣。
鉄の剣500ゴールド。
銅の剣100ゴールド。
「この店で1番良い武器は?」
「‥‥‥これだが」
ショーケースに入れられている刀身の赤い剣。
『煉獄の剣』と書かれている。
お値段20,000ゴールド。
日本円にして200万円になります。
馬鹿じゃないの?
「いらないです、また来ます」
俺はゲームでもそうだが、ちょっと良い装備を買うまでは無駄遣いしないタイプ。
石を投げてりゃ勝てるんだから、無理して買う必要もない。
「何処か行きたいお店ある?」
「教会ってありますか?」
「あるけど、お祈り?」
「記録をセーブしたり、毒を治して貰ったり、生き返らせて貰ったり」
「‥‥‥ちょっと何言ってるかわかんない」
アリスさんは可哀想なものを見る目で此方を見てくる。
「教会は何をするところですか?」
「‥‥‥お祈りでしょ」
「じゃあ死んだら誰が生き返らせてくれるんですか?!」
「あのね人間は、死んだら生き返らないのよ」
「え? 死んだら終わりなの?」
「そうよ、だから死なないように注意しようね」
子供を諭すように優しい目をするアリス。
可哀想な人と認定されてしまったようだ。
この世界に蘇生技術はない。
死んだら終わり。
──死なないように気をつけよう!
俺は当たり前の事を心に誓った。