『私、無知監禁されました……!』
※残虐な描写はないつもり……
私は今、何も感じない。
手足は椅子に縛り付けられ、目にはバンダナか何かの視界を遮るものが付けられている。
目が見えなきゃ、自分がどこにいるのかすら分からない。
周りは特に鼻につくような匂いはしてないし、ただ無音状態が淡々と続いているだけで、当然、人の気配もしない。
さらに、ここに連れられて数時間、一切の食事にありつけてない。
視覚、味覚、触覚、聴覚、嗅覚――つまり、ここでは全ての五感が正常に機能しない。
家への帰り道、知らない人に背後から黒い袋を被されて以来の記憶が全くない。
ここはどこで、今私は何を待っているのかすら分からない。
先程まで助けを呼ぶべく叫んでは見たものの跳ね返ってくるのは自分の声のみで、今に至るまで何一つ進展はしなかった。
――私は知らない人に誘拐された、と考えるのが一番真っ当な答えだろう。
誘拐された?
だとしたら、私はこれからどうなるのだろうか。
これが監禁ってものなのなのだろうか……もしそうだとしたら、本当に怖い。
何も感じない空間で一人きり。
それだけでも十分怖いのに、この空間に誰かが加わると思うともっと怖い。
いつ殺されるのかも見当が付かない、もしくはどこかに売り払われるのか?
それとも、このままずっと放置状態か。
もしそうなるんだったら、そうなるよりも自分で舌を噛み切って死んだほうがまだましだ。
誰かの言いなりになってこの先の人生を過ごすなんて、考えられない。
ギィィィィ
「…………」
ゆっくりと軋むような音を立ててドアが開いた。
足音もして、無言で誰かがこっちにゆっくりと近寄ってきていることが床の軋む音で分かった。
やばい、このままだと――
何となくは分かる、このままだと全てが終わるような気がしてきた。
本当に全てだ。
「……クフフフフ」
無言の足音は、丁度自分の椅子の手前で止まったとたん、ついに笑いをこらえるような雑音が私の耳に入って来た。
密室空間では本当によく音が響く――この音だけは絶対に聞きたくなかった。
何を考えているのか分からない不気味な笑い声、聞いているこっちは何されるか分からないので恐怖にしかない。
――こんなことをして、何が面白い。
「…………」
顔に少し風がかかった。
相手が何か手のひらサイズの大きさのものを下から振り上げて、丁度自分の顔で止まった時に発生した風だ。
つまりは、こっちに手のひらサイズの物体を向けて来たのだ。
――片手で持てるくらいのサイズの凶器……と考えるとするとやっぱり拳銃だろうか。
……だとしたら、せめて自分を生んでくれた母親と父親にくらいは感謝したかった、今までありがとうって。
本当に無知な自分でごめんなさい。
「…………」
バン!
部屋中に甲高い発砲音が響き渡ったと共に、火薬が生み出す一撃をまともに受けた私は椅子から転倒して後頭部を思いっ切り打った。
「――いったぁい!」
「まさか、ここまで驚くとはねぇ……」
「…………?」
「アタシだよアタシ! あ、ゴメンゴメン。目隠し取ってなかったわ……」
「……おねぇちゃん!」
「そう。まぁ、私もあそこまでやる必要はなかったんだよ。だけどさ……ただ下校中に後ろから袋被せただけで気絶はやばくない? 本当はそこで終わらすつもりだったんだけどさ、気絶したわけで種明かしも出来ないわけだからもう少し恐怖度を上げてもいいかなって」
「……でも、何で?」
「ほら、今年。ハロウィンでアタシが驚かそうとして変装してみたところ、アンタ何も反応なかったじゃん! それが悔しくってさぁ……」
「……それにしても、今やる必要あったんですか? それに頭ぶつけたんですけど! 痛かったんですけど!」
「そこまで驚くとは想定してなかった! ゴメンッ! アンタが涙目になってるの久しぶりに見たわ! わざわざコンビニまでクラッカー買いに行ったんだから……許してっ! ねっ?」
「クラッカーって……。どうせ買ってくるならお菓子の方が良かったですよ!! 誰でもあんなの何もない日に急にやられたら驚くでしょ! ハロウィンは特別、何かやってくるんだろうくらいは察せるけど今日みたいな日は流石に構えられないですってば!」
「クッ……笑いこらえるの大変だったわっ」
「――っもう! それよりも早くこの縛った手足程いてくださいよ!」
「分かった! 分かったって……」
ハロウィン以外の日に誘拐ドッキリ、これ普通にやられたら誰でも本当に誘拐されたと思っちゃいます。




