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夢幻  作者: 遊。
第六巻第三章

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宿命の対峙



扉の向こうには長い廊下が続いていた。


「うえ~…この研究所、どんだけ広いのよ…。」


後ろでぼやいてる馬鹿はとりあえずほっとくとして…。


「ちょっとwww私の扱い毎回雑過ぎるww」


実際あれだけ沢山の部屋があったのに、この上目の前に続く廊下はちょっとした長さで突き当たりに扉がある。


まぁ流石にいくら建物自体がデカいとは言えあの扉で最後だろう…。


隣を歩く茜は終始無言だ。


これから俺達と一緒にこう言う形で日向誠のもとに行くのだから思うところがあるのかもしれない。


「誰かさんのせいでこんな面倒な事になってしまったのだから…。


物思いに耽りたくもなるわ…。」


本当、口を開かせればこれだもんなぁ…。


「開かせたのはあなたでしょう…?


てっきり毒吐いてもらいたかったのかと思ったのだけれど…。」


「別に好き好んで毒吐かれてる訳じゃねぇんだよなぁ…。」


「あらそう…。


それでも放っておかないからそう言う事なのかと思っていたわ…。」


「ねぇわ…。」


とは言え、あんな風に敵対関係で関わるよりは全然良い訳だが。


「キリキリってやっぱなんだかんだドMだよね…。」


「うっせ…そんなんじゃねぇよ。」


口を挟んできた馬鹿、もとい木葉を適当にあしらいつつ思う。


やっぱこうしていられる時間は大事だなと。


光の言う通りもっと時間がいる。


もっと知りたいと思う。


こいつの事も、これから知っていく日常も。


「私にもそんくらいデレろよ~wwwww」


「はいはいデレデレ、チョーデレデレ。」


「ちくせうwww」


それにしても…。


突き当たりにある扉は、恐らく最後の扉と言うだけに存在感がある。


と言うか本当に最後だよな…?


フリじゃないよな…?


「扉は本当にあれで最後よ…?


まだ続けたいのなら最初からやり直すと良いわ。」


「いやいらんわ…。」


そうして扉の前に立った所で、


「はい、ストップ。」


ここで、またスピーカーから日向誠の声が聞こえてくる。


「日向誠…。」


「茜、まさかお前が丸め込まれるなんてね。」


「兄さん…。」


弱々しく返す茜が、日向誠をそう呼ぶ姿から、改めて二人の関係に実感が湧いてくる。


「どう言うつもりでか、と言うのは見てたし聞くまでもないから聞かないよ。


でも生憎ただで通すわけには行かないね。」


「え、タダじゃないの~?


ならいくら欲しいの~?」


うお、マジでこのボケやる奴リアルに居たのか…。


いや…と言うかこれはボケじゃない…ガチな奴だ。


本当…さっきと言い…こいつ一回ネタばらししたら堂々と金持ちキャラ出してくるようになったよなぁ…。


「あ、じゃぁ今月厳しいし百万くらい貰おうかな。」


いや、お前も普通に返すのかよ…。


「え~今十万くらいしか持ってきてないよ~。


カードで良い?」


いや…十万でも高校生が普通に財布に入れてる金額じゃねぇよ…。


「まぁ流石にそれは冗談だけどね。


お金を貰ってもここは通せないよ。」


いや…それ冗談だったのかよ…。


等と思っていると、木葉は急に表情を真面目な時の顔にした。


「茜っち、それに日向誠。


こんな事言って良いのか分からない。


聞きたい台詞かどうかも分からない。


でも言いたいから言わせて。


私もさ、これまで周りに疎まれて来たの。


お金持ちの家に生まれたからって理由で。


普通の人には嫉妬されたし、同じお金持ちとは仲良く慣れそうにないしずっと一人だった。


だから二人の気持ち、よく分かるよ。」


そう、木葉は大金持ちの家に生まれたが故に苦労をしてきた。


そう言う意味では俺達の中で一番二人の気持ちを分かってやれるのは木葉なのだろう。


「気持ちが分かる…だって?」


でも、そう言う日向誠の声のトーンは低く、不快感が伝わってくる。


「分かる訳ないだろう!


分かってたまるか!!」


そう言う声からは確かな怒りが込められていた。


そんな叫びと轟音が鳴り響いたのはほぼ同時。


「ここから先に行きたいのならこいつを倒してからにしてもらうよ。」


扉の前に現れたのは、どこぞのロボットアニメに出てきそうなモビルスーツ。


いや、でも部屋のキャパを考慮してか俺らよりも二回りくらいのデカさに留めたサイズな訳だが。


「ただし…これまで戦ってなかった君一人でね。」


全員が武器を構えたところで、日向誠がそう言って釘を刺してくる。


「俺一人でって事か…。」


確かにこれまで体力温存と言う名目で戦ってなかった訳だが…。


「キリキリ、これはやるしかなさそうだよ…?」


「だな…。」


確かに俺は木葉のように共感は出来ない。


でも俺だって茜からその事実を聞いて自分も間違っていたんだと思い知らされたんだ。


そう思えた事を伝えたい。


その為にはここで逃げる訳にはいかない。


「やってやる。」


「うん、それでこそキリキリだ。」


「うし!じゃあ光、頼む。」


「はいー。」


光が返事を返して祈り始めると、体に力が漲ってくる。


「よし、行ってくる。」


「キリキリ、お願い。


やっぱこのまま終わるなんてやだよ。


二人にもさ、今の私みたいに仲間の大切さを知ってほしい。」


「おう、任せろ。」


確かに木葉はこれまで疎まれてきたかもしれない。


でも今は一人じゃないんだ。


そう言ってくれる仲間が居る。


そしてそれは日向誠にだってあっても良いじゃないか。


目の前のモビルススーツを一睨みし、刀を構える。


折角だし二人から貰った札を試してみるか。


刀に取り付けられた鎖に、まずは凪の札を付けてみる。


「私と雫の札を付けると、属性攻撃が使えるよ。」


それを見て、凪が説明してくれる。


「って事は凪の札は自然って事か。」


「そうだね。」


「でもどう使うんだ?」


「試しに流波斬を使ってみてくださいー。」


俺の問いかけに、光が答える。


「おう、流波斬!」


言いながら刀を横に振ると、いつもなら衝撃波が放たれるのだが、今は小さな竜巻を纏った衝撃波に変わっていた。


「なるほど、そう言う事か。」


命中するも、びくともしない。


「流石モビルスーツ。


重さは折り紙付きって訳だ。」


そうしている間に、モビルスーツの拳が迫ってくる。


「おっと…!」


それを上手く躱し、札を外してから普通の流波斬を放つ。


「なら今度は雫のにしてみるか。」


同じように流波斬を放つと今度は衝撃波が氷柱に変わる。


それが命中し、ボディが少しへこむ。


「こっちは効果ありみたいだな。」


「あら、ただへこませただけじゃない…。


その程度で効果があったとは言えないと思うのだけれど。」


ちょっと得意気になっていたのに、そう言って茜は鼻で笑ってくる。


「ぐっ…。


おい茜、そこまで言うならお前のもよこせよ。」


「断るわ…。」


「相変わらず即答だな…。


なんだよ、また面倒くさいからか?」


「勿論それもあるけれど…。」


そこで茜は言葉を切った。


今茜が、どう言う気持ちで俺達と行動を共にしているのかは分からない。


でも日向誠を裏切る事に抵抗があると言うのは間違いない訳だし、渋ってる理由はその辺りかなと思う。


それに何だかんだ面倒くさいからって言うのは否定しないのかよ…。


「間違いではないもの…否定する必要はないと思うのだけれど…。」


「あぁそうかよ…。」


「あぁ…それとあなたの言う通り、と言うのは不本意だけれどもう一つも間違いじゃないわ…。


実際今の自分の立ち位置がどう言う物なのかなんて私ですら計りかねてるもの。」


「まぁそうだろうな…。


でも言う事言う事一言も二言も余計なんだよなぁ…。」


「あなたにとってはこれが本来の私なのでしょう…?」


「まぁ…それに関しては否定しねぇよ…。」


「ほら、あなただって否定しないのでしょう。


人の事を言えた義理かしら…?」


「ぐっ…。」


悔しいけど何だかんだいつもド正論だから言い返せないんだよなぁ。


「それより、目の前の敵を倒すことに集中したらどうかしら…?」


これも最初に皮肉言ってきたのはお前だろ、なんて言っても駄目だろうなぁ…。


「相変わらずそう言うどうでも良い察しだけは良いのね…。」


ほらね…。


いい加減目の前の敵に集中するかと目を向けると、茜が俺の横すれすれに札を投げてきた。


それが地面に突き刺さる。


「危ねぇな!?」


「ふぅ…その札なら余ってるから好きに使うと良いわ…。


どうせもうあなたに本来の武器を隠す必要はないのでしょうから。」


いやこれ素直じゃないとか可愛い感じで片付けられる感じじゃねぇぞ…。


これガチで殺しに来てるやつじゃないか…。


「あら、お望みなら次は外さないけれど?」


「いや…良い。」


くそ…やっぱり意図的じゃねぇか…。


とは言え、一番の実力者であろう茜が描いた札だ。


これは期待出来そうだ。


早速刀に取り付けると、刀が炎を纏った。


「うお~!すっげ~!」


木葉はそう興奮して叫ぶも、当の俺の感想は一つだった。


「うわっちぃ!?」


思わず刀から手を離す。


「え~…台無しじゃん…。」


そんな俺の反応を見てその興奮も萎えたようで、そう言ってぼやいてくる。


「知るか!マジで熱かったんだよ!」


そして茜は茜で、そんな俺の反応を見てお馴染みの鼻笑いを披露してくださった。


「言った筈よ?


強大な力を使いこなす為には、それなりのリスクが必要になる、と。」


「だからその為に両手を火傷しろってか…?


リスクがデカい割にメリットが全くないじゃねぇか…。」


「ふぅ…そもそも触れすらしない地点でおかしいと思わないのかしら…。」


「っぐ…。


お前…やっぱ殺す気満々だっただろ…?」


「そうじゃないわ…。」


「桐人さん、浸透?


すれば火もまたほにゃらですー。」


ここで、光が割り込んでくる。


「全く言えてないじゃないか…。


それを言うなら心頭滅却すれば火もまた涼しだろ…?」


「それですー!


桐人さん頭良いのですー。」


「なんでお前フランス語ペラペラの癖に日本語はそんなにうろ覚えなんだよ…?」


「むー難しい事は分からないのですー…。」


いや…フランス語の方が絶対ムズいだろ…。


「で、どうすんだよ?」


「茜ちゃんの力は強大ですから、受け入れるには相応の精神力が必要になります。」


「まぁ確かに…。」


「つまりは気の持ち方次第ですよ。


普段の桐人さんなら無理かもしれないですけど今の桐人さんなら私の力がありますから大丈夫ですよ。」


「そんなもんかね…。」


「そんなもんです。」


そう言って光は一度笑う。


まぁ確かに、これまでだってそうやってやってきたんだ。


今ならなんだって出来る気さえする。


そう気を強く持ってみると、さっきまでの熱さが和らいでいく気がした。


茜は思っていた。


そんな風に彼はいつも不可能を可能にしてきた。


何もしなかった私と違って、彼はいつでも何だかんだ前進し、結果を出してきた。


そんな彼が私には眩しかった。


暗闇に慣れた私にはそれを受け入れる事なんて出来なかった筈なのに。


そんな私に、彼はいつだって遠慮なく堂々と踏み込んでくるのだ。


だから私は今こうして全てを思い出してここに居る。


飛び上がって神流裂波斬の体制で剣を振ると、巨大な衝撃波が火炎を纏いながらモビルスーツに激突して貫通し、そのままドアも破壊する。


「まさかドアまで壊してくれるとはね。」


着地した所で、日向誠がドアの向こうからため息を吐きながら言ってくる。


そうして遂に海真桐人は日向誠と対面したのだ。


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