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夢幻  作者: 遊。
第七巻第二章

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望まぬ再会


 次に通された部屋は普通の広い部屋だった。


「なんだ?ここだけ普通の部屋だな。」


辺りを見回しながら呟く。


「やっぱり来たのね。」


「茜!」


そう、そこに立っていたのは茜。


恐らく日向誠が居るのであろう部屋の扉の前に立ち塞がり、俺達を見据えていた。


「茜っち!お願い…私達の話を聞いて!?」


その姿を見るや、木葉はそう強く訴える。


「話す事なんてない。


そう言った筈よ…?」


その悲痛な叫びを一蹴し、茜は慣れた手つきで槍を出現させる。


それは茜の真の武器である焔牙。


茜が持つ炎の力で作られた槍で、実際に槍から炎を放つ事も出来る。


「どこからでもかかってきなさい。


言っておくけれど私はあんな竜巻では倒せないわよ…?」


「相変わらず余裕だな。」


「えぇ、実際あなたに負ける理由が私には無いもの。」


「っ…言うじゃねぇか…。


でもな、俺だって強くなったんだぜ?」


「あらそう…?」


「桐人さん、やるんですか…?」


後ろから光が聞いてくる。


「いや、良い。」


それを俺はすぐにそう返す。


「そうですか、分かりました。」


光は特に不審がる事もせず、そう短く返す。


多分俺が考えてる事が分かったのだろう。


「へぇ…?強がっている場合かしら?」


そんなやり取りを見て、茜はため息を吐きながら呆れた表情で言ってくる。


「別にそんなんじゃねぇよ…。


今日俺はお前と戦いに来た訳じゃない。


お前を一発ぶん殴りに来たんだ。」


「相変わらず訳が分からないわね…。


まぁ良いわ…。


こちらは一切手加減しない。」


そう言って振り下ろしてくる槍を、刀で受け止める。


「元々お前がそんな事律儀にしてくれる奴だなんて思ってねぇよ。」


「相変わらずあなたは私の事を勝手に決めつけるのね…。」


「そうだな…でも今ならちょっとはお前の事が分かってきたんだぜ。


意外と押しに弱い所とかな!」


つばぜり合いの体制から思いっきり蹴り飛ばす。


「っ…!ちょこざいなのも相変わらずみたいね…。」


「お前も大概決めつけてんだろうが…。」


「言った筈よ…?


先に決めつけたのはあなたなのだから今更文句を言われる筋合いはないと。」


「屁理屈も相変わらずじゃねぇか…。」


「あなたにだけは言われたくないわ…。


それに私の理屈はちゃんとした理屈に基づいた物よ…。


だから屁理屈ではないわ」


「理屈と皮肉に基づいた…だろうが…。」


「否定はしないわ…。」


そう言って鼻で笑ってくる。


「なんか…いつも通りだよね、二人。」


部屋の端からその様子を見守っていた木葉が呟く。


「そうだね。」


それに凪が答える。


木葉は思った。


話すつもりなんてない。


でも知ってる。


いつだって無理矢理でも踏み込んでくるのがキリキリだから、そう思っていても気が付いたら話してるんだよね。


だからやっぱ、茜っちを止められるのはキリキリだけだな、と。


「そう言う所で否定しないのも相変わらずだな。」


「事実を述べただけだといつも言っているじゃない…。」


「あぁそうかよ…。」


「あなたならそう返すだろうと思ったわ…。」


「そうだろうな…。


散々そう言わせてきたんだからな。」


「あなたが勝手に言っただけでしょう…?」


相変わらず友好的ではない。


最初から今までずっとそうだ。


でもだからこそ、その時の二人の姿は友好的じゃなくても普段通りなような安心感とか微笑ましさと言うかそう言う物があり、木葉も千里もそれをどこか安心して見つめていた。


「どうしても戦うんだな…?」


「愚問よ…。


あなたが夢幻の試練を乗り越えた日から

運命は決まっていた。


だから今こうしてあなたと戦うの。」


「迷いはないんだな?」


「同じ事を何度も言わせないで頂戴。」


「お前の意思はよく分かった。」


「そう、なら大人しく…」


「だったら俺を殺してみろ!」


そう言って刀を投げ捨てる。


「ちょ!?キリキリ!?」


「桐人君!?」


木葉と千里が同時に声を上げる。


「…ふざけているのかしら…?」


「別にふざけてねぇよ。


俺はお前の事を今でも仲間だって思ってる。


だから殺すつもりはない。


一発蹴りを入れてやれて満足だ。


もしお前が俺を仲間だと思ってなくて、そんな物必要無いからって本気で殺し合うつもりでいるのなら俺を殺せ。」


「私があなたの事を仲間だと思っていて、だから自分を殺せないと…?


そんなはったりが通用すると思っているのかしら…。


言った筈よ…?


信じる物は殺されるの。」


「だからそれは信じる物は救われる、だっての。


それなら俺も最初に言った筈だぜ?


疑って死ぬよりよっぽど良いって。」


「相変わらず甘いわね。


それが遺言になるわよ…。」


「上等だ。」


俺の言葉を受け、茜は改めて槍を構える。


「キリキリ!確かに戦って欲しくないし二人が傷付け合う姿だって見たくない!


でも…そんなの間違ってるよ!茜っちもお願いだから目を覚ましてよ…!」


さっきの安心した表情から一転してそう叫ぶ木葉の声からは必死さが伝わってくる。


「私は最初から目を覚ましてるわ。


むしろ…今まさに目を覚ましたと言うべきかもしれないわね…。」


「そんな…!」


それ以上何も言えずに悔しそうに歯噛みする。


そんな状況を鼻で笑うかのように、茜は俺の首筋に槍を突き付ける。


「桐人君!」


それを見て千里が叫ぶ。


「哀れね…。」


「良いからさっさと来いよ。」


「言われなくても分かってるわ…。」


「茜…。」


ここまで黙っていた凪はただ悲しそうに俯いていた。


槍を持つ手に力が込められる。


俺も覚悟を決めて目を閉じた。


…のだが。


一向に痛みを感じない。


「あか…ね?」


凪の声がした。


目を開くと、目の前の茜の手は震えていた。


「どうしたんだよ…?」


俺がそう問うと、茜はそのまま槍を落とした。


「出来ない…。


私にはこの男を殺す事なんて…。」


そしてそう言いながら、茜は涙を流したのだ。


あの日、試練を受けた日に見せたように。


…狙い通りだ!


「その涙が見たかったんだ!」


バリアが現れ、勢い良く茜を弾き飛ばす。


「っ…!」


ちゃんと茜の心には、響いていたんだ。


これまで何度も突き放されてきたけど、辛辣な罵倒を受けてきたけど…。


あの日光が言っていたように、もし俺の事が嫌いで関わりたくもないのならもっと効率の良い方法を探していた。


こうして一緒に過ごしていく中であいつの中でも手放しがたいと思えるような感情が芽生えていたのだ。


だから俺を殺す事が出来なかった。


「茜、やっぱお前は俺達の仲間だ。」


「違う!私は…!」


「良いから話せよ。


なんでこんな事したんだよ?」


「だから別に…」


言いかけて茜は深いため息を吐く。


言っても聞かないと分かったのだろう。


「良いわ…。


私がここであなた達と戦う理由は一つよ。


生前の私が、日向誠の妹だからよ。」


「なっ…なんだって!?」


全員が同時に驚きの声を上げる。


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