日向誠の秘密基地。
2
中に入ると、まずドーム状の広い部屋に出た。
「うはぁ…。」
思わず声が漏れる。
「何かの部屋…みたいだね。」
その後ろから凪が続く。
「研究室…って感じではないな。」
更に康一が続く。
「う~ん…これ多分研究室って言うより実験室じゃねww」
その後ろから続いて草生やしてる奴はまぁ…さておき。
「ちょっとwww」
「ね…ねぇ、何か音がしない?」
と、その後ろから入ってきた千里が呟く。
それに全員が反応し、耳を澄ます。
そしてその音の正体が、俺達の前に現れたのはほぼ同時。
唐突に地面を突き破って現れたのは、鼻と全ての指先の部分にドリルが生えている巨大モグラだった。
「ナニコレ!」
某バラエティーっぽい木葉のコメントはさておき…。
「さっきから私の扱い雑過ぎじゃねwww?」
「言ってる場合か!?」
と、そこで。
「僕の研究所へようこそ。
歓迎するよ。」
天井のスピーカーから声がする。
よく見ると監視カメラもいたる所に付いており、俺達が来た事はお見通しの様だ。
「お前が日向誠か…?」
「いかにも。
まぁ、ゆっくりしていきなよ。
する余裕があるのなら…ね。
紹介するよ。
こいつは僕の一番のペットのドリーだ。
どうにも僕以外の人間には懐かなくてね。
オマケに手加減と言うのを知らないから勢いで殺されてしまうかもしれないね。」
「くっ…てめぇ…!」
「ふふふ、生きていたらまた会おう。」
「あ!待て!」
そう呼びかけるも、そこでスピーカーからの声は途切れる。
「くそっ…。」
「ドリルは男のロマンだよね~。」
相変わらずこいつは…。
「いやお前女だろうが…。」
「キリキリ細か〜い。」
「桐人、ここは私に任せて。」
そう言って前に出てきたのは凪。
「凪。」
得物のかぎ爪を付け、戦闘態勢に入る。
それとモグラが凪に向けて指先のドリルで引っ掻こうとしてきたのはほぼ同時。
「こいつ…この図体の割に意外とすばしっこいみたいだな…。」
それを得意の高速移動で躱し、逆に引っ掻く凪。
「引っ掻き攻撃なら負けないよ!」
命中したものの、大した傷にはなっていないようだった。
「成程、一筋縄じゃ行かない訳ね。
面白いじゃん。」
「くそ…出来ればあの雑魚よりこっちと戦いたかったぜ。」
それを見てそうぼやくのは康一。
いや…やめとけ…お前がやると折角の見せ場がなくなってしまう…。
うーんでもどっちみち今回も凪だからなぁ…。
そろそろ終わってるんじゃないかと思って再び凪の方に目を向けると…。
「っ…。」
思いのほか苦戦しているようで防戦一方のようだった。
実際モグラの体格差は凪の倍以上だし、パワーの差も歴然だ。
普段なら戦隊ヒーローのように全員で一斉攻撃を仕掛けるところだが…。
モグラの攻撃が再び襲い、それを躱してからカウンターとばかりに攻撃するも、大きなダメージを与えるに至っていない。
「おい…やっぱり俺も…。」
そう言って刀を構えると、それを凪は制止した。
「良い…特に桐人は茜と戦うんだから体力を温存しとかないと…。」
「そうだけど…。」
そんな事考えてたのか…。?
「でもお前…。」
「良いって言ってんじゃん。
私の事、信用出来ない?」
「いや…そう言う訳じゃないけど…。」
「あんまり見くびらないで。
私だって死神神社の巫女なんだから。」
「分かったよ…。
でも無理すんなよ?」
「はいはい。」
そう短く返して、凪はまたモグラに向き直る。
「ここからは本気で行くから。
皆、ちょっと離れてて。」
「お、おう。」
言われて全員で後ろに下がる。
すると、凪の爪が一瞬光る。
「な、なんだ今の?」
「桐人さん、さっきまでの高速攻撃はただの
無駄打ちじゃなかったと言う事ですよー。」
ここで、凪の代わりに光がそれに答えてくれる。
「どう言う意味だ?」
「あれを見てくださいですー。」
言われて再び凪の方に目を向けると、爪がバチバチと電気を放っていた。
「あれ…!」
「はい、あれは静電気ですー。
彼女の場合、摩擦する回数も速度も短時間で出来る回数が桁外れですからこんな事も出来ちゃう訳ですー。」
「なるほど…。」
そのまま両手を重ねると、その電気は巨大な物になり、上空に舞い上がる。
「サンダーボルト!」
それがモグラの頭上まで移動し、勢いよく降り注ぐ。
同時に激しい叫び声を上げながら化け物は消し飛ぶ。
「ふぅ…ざっとこんなもんよ。」
「すげぇ…。」
ヴァンパイアの時も思ったが…マジで敵に回したくねぇや…。
「へぇ…これは驚いた。
まさかドリーを倒すとはね。」
ここでまたスピーカーからの声。
「日向誠…!」
「さぁ、次の部屋に来なよ。
まだまだ始まったばかりだよ。」
その声の後に、奥の扉が自動的に開く。
どうやらその部屋のボスを倒さないと先に進めないと言うシステムらしい。
「上等じゃねぇか…。」
言いながら全員でその扉をくぐると、また同じような広い部屋に出る。
「見た感じはさっきと一緒みたいだな。」
康一が部屋を見回しながら言う。
「だな…。」
「桐人さん!危ない!」
「っ…!?」
慌ててよけると、爪が真横の壁に突き刺さる。
「この感じ…。
まさか…!?」
「ご名答、アンコールに応えてまたあの時のドラキュラを再現してみたんだ。
まぁ、あの時と違って今は心がないから喋らないけどね。」
「やっぱりか…。」
あの時と同じ姿のドラキュラが俺達の前に立っていて、再び爪を向けていた。
と言うか誰だアンコールなんかした奴は…。
なんて言ってる場合じゃないか…。
「こんな奴、私一人で充分なの。」
などと思ってたところで次に名乗りを上げたのは雫。
そう言うと、俺と戦った時の様にまた氷でハンマーを作る。
「これでも喰らいやがれなの!」
でもそれを勢いよく振り下ろすも、実にあっさりと躱されてしまう。
「ま、当然だな。
武器的にパワー重視の雫と、スピード重視のドラキュラだからな。」
そう冷静に分析するのは康一。
「ぐぬぬ…生意気なの…!」
それからしばらくモグラ叩きのような状況が続く。
うーむ…モグラはさっき凪が倒したんだが…。
まぁでも流石にあれでモグラ叩きは無理か…。
いくらなんでもデカ過ぎる…。
「はぁ…はぁ…しぶとい奴なの。」
「パワー重視はその分体力消費が激しい。
だから長期戦に持ち込まれると不利だ。」
「確かにな…。」
「何よりただでさえあいつは短気だからな。
躍起になって冷静になれなくなってる。
あのまま戦わせてたらマズい。」
「っ…おい!雫!落ち着け!」
言われて状況が悪い事を知り、慌てて雫にそう叫ぶ。
「うるさいの!私は充分落ち着いてるの!黙ってろなの!」
でも雫はそれを苛立たしげにあしらう。
「くっ…。」
こうなると他人の話しを一切聞かないというのは身をもって立証済みだ。
あの時はそのせいでマジで殺されかけたからなぁ…。
「あのドラキュラがあえて攻撃せずによけてばっかいやがるのもだからだろうな。
充分に疲れさせてから悠々と勝負を決めつけるつもりなんだろう。
心は無くても作戦を考える頭は今の雫よりよっぽど良いみたいだ。」
康一の分析の通り、雫の呼吸は次第に荒くなっている。
動きも鈍くなり、次の攻撃を放てずに居る。
言っても聞かないのは分かってても見てられないだろ…。
「雫!無理すんなって!」
「うっ…うるさい…の!」
くそ…どうしたら…?
「いい加減にしなよ雫!」
と、ここで突然の怒号。
それに康一と同時に振り向くと、その声の主である凪が小刻みに体を震わせながら雫を睨んでいた。
「な、凪…。」
怒鳴られた雫は、戸惑いを隠せずに口ごもる。
「このままじゃ…負けちゃうんだよ…?」
「っ…。」
「躍起になる気持ちは分かる。
でもただ怒りをぶつけるだけが戦いじゃない。
そう信じてここに来たんじゃないの?」
「そう…なの。
でも私…こんな奴に負けたくないの!」
「なら落ち着けって。
どんなに強い奴でも冷静さを失ったらただの雑魚だ。」
と、ここで康一がため息を吐きながら口を挟む。
「分かったの。」
そう言う目は、さっきまでの苛立ちを隠せずに居たそれとは違っていた。
と、その時。
ここぞとばかりにヴァンパイアは爪を伸ばしてくる。
「あ、危ない!」
俺がそう叫んだのと、その爪が命中するのはほぼ同時。
全員が固唾を飲む中、そこにあったのは…雫の形の氷像だった。
「ヒヤヒヤさせやがって…。」
恐らく全員が思ってるであろう言葉を俺が代表して言う。
全く…どうやら力で肝まで冷やしてくるのは相変わらずらしい。
「クリスタルアイ!」
流石にヴァンパイアも予想外だったらしく、辺りを探していたところでその上空数メートル先からそう叫ぶ声。
同時に巨大なクリスタルが現れ、落ちてくる。
「かぁー…。
あんだけ疲れた顔してたってのにどんなジャンプ力してんだよ…。」
呆れた表情で頭を抱える康一。
「言ったでしょ?
死神神社の巫女をあんまり見くびるなって。」
「ははは、そうだったな。
ヴァンパイアはそのクリスタルを素早く避けるも、地面で弾けたクリスタルアイは瞬時に辺りを凍り付かせてヴァンパイアの足も凍り付く。
「とどめなの!」
そう言って凍り付いていくヴァンパイアに指を向ける。
すると冷気の固まりが指に集まり、レーザーのように放たれる。
「アイスガン!」
待って?なんか激しく見た事ある気がするんだけど!?
それコインとか使うやつか…?
それとも霊気を集めて放つやつ?
いや違うこれ冷気だわ…。
とは言え言いたい事(主にツッコミだが)はいっぱいあるが…。
とりあえず命中したレーザーがヴァンパイアの心臓部分に命中し、それが巨大な氷柱になって突き刺さる。
同時にヴァンパイアは消滅する。
「ざ、ざっとこんなもんなの…!」
「はいはい、無理して強がらないの。
もう立ってるのもやっとなくらい疲れてる癖に。」
そう言って凪が雫を小突く。
「あう…!うぅ…。」
「まぁでも…お疲れ様。」
「うん…なの!」
「桐人、悪いんだけど先に行ってくれない?
雫はしばらく動けそうにないし、落ち着いたら追いかけるから。」
「おう、分かった。
じゃあ後でな。」
「うん、気を付けてね。」
そう言って別れ、凪と雫と、別れ、次の部屋の扉を開く。




