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夢幻  作者: 遊。
第七巻第一章

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その時は近づいてる


 〈もうすぐ彼らがここに来るよ?〉


私こと茜の元に、そう雨からテレパシーが入ったのはある日の昼下がり。


「そう。」


短く返し、ため息。


やはり、こうなる…か。


実際、分かっていた事ではある。


彼こと海真桐人が、臆病な癖に命知らずな無鉄砲正義馬鹿な事も、あれだけ脅しをかけて追い込んでも這い上がってくるだろう事も。


〈どうするの?迎え撃つの?〉


「当然でしょう?私はそうする事を選んだ。


彼らもそれを覚悟の上でこの場に来るのでしょう?


警告を無視したのだからもう容赦はしないわ。」


〈そっか、でも…分かってる?


もう茜に残された時間は…。〉


「そんな事は最初から分かっているわ…。


それに今更未練なんてない。」


そう、未練なんてない。


私は所詮必要のない人間なのだ。


私が居なかった事になれば、自ら命を絶たずに済んだ人間だって沢山居る。


だから私の存在が消えてもメリットこそあれどデメリットなんてないのだ。


消える覚悟なら…最初から出来ている。


そして、今になってやっと分かった。


私がそれまでに出来る事。


それは言ってしまえばささやかな抵抗だ。


それだって、もし消えてなかった事になってしまえばそもそも意味さえもなくなってしまうのだが。


でもやらずにはいられない。


多分こうする事こそ、私がこうして生まれてきた理由なのだから。


全てを知った今だからこそ言える存在意義。


だからこそ私は、彼と戦わなければならない。


そして…茜がそう決意を新たにしている頃、俺、海真桐人と愉快な仲間達は森の中を歩いていた。


「誰が愉快な仲間達やねん…。」


そう呆れ顔でツッコむのは木葉。


「楽しそうで良いじゃないですかー。」


そうニコニコと笑顔で返すのは光。


「いや…楽しそうとか言ってる場合じゃないから…。」


頭を抱えてため息を吐くのは凪。


「全く…分かってる?


これから戦う相手は茜が与えた力の中で最強と呼べる力の持ち主なんだよ?」


そのままそう続ける。


「分かってるって…。」


凪が言う最強の力の持ち主である日向誠は、俺がこれまで宿敵としてきた相手だ。


その強大な力で世界征服を企んでいる。


そして俺達は今、その本拠地だと思われる秘

密基地を目指している訳だが…。


「それに、茜だって居るんだから。」


「そう…だな。」


ついこないだまで、協力関係を築いていた(向こうは不本意だった訳だが…。)茜は、先日俺達を裏切って日向誠の元に行ってしまった。


今日俺達がこの場に集まったのは、ただ日向誠の野望を食い止める為だけじゃない。


茜を説得して連れ戻す事も今回の目的の一つなのだ。


「桐人、茜から聞いてると思うけど妖刀夢幻には私達が書いた札を付けるとそれに対応した特殊能力を得られるって言う特性がある。


だからこれ、私と雫の分。


実際何があるか分からないしきっと必要になる時が来ると思うから。」


「おう、サンキュー。」


「一応聞いておくけど…何も考えなしに来た…なんて言わないよね?」


「まぁ…一応考えはあるよ。


何処まで通用するかは分かんないけどな。」


実際日向誠が強大な力を持ってるのも、茜の目を覚まさせるのも一筋縄で行かない事くらい分かってるし、昨日の夜自分なりに方針を固めたつもりだ。


「そ、なら良い。」


そんな俺を見て、凪はどこか素っ気なくも安心した表情で返した。


「さっすがキリキリ。


そこに痺れも憧れもしなければむしろ軽蔑すらするわ。」


だと言うのにここで木葉がそう口を挟む。


「おいこら…。


追加のせいで元ネタの逆語より酷くなってんじゃねぇか…。


「ここに茜さんが居るんだよね…?」


そう言って目の前の研究所を見つめるのは俺の幼馴染である前村千里。


千里の目線の先にある研究所は、死神神社に続く階段がある森の最深部に位置する。


結構な規模で、ただの研究所と呼ぶにはいささか大き過ぎる規模のそれは、もはやドームと言う方が正しいだろう。


そりゃまぁ…あんな化け物を大量に量産する設備があるくらいだしなぁ…。


「あぁ!お前ら!」


と、ここで唐突に一際大きな声をあげたのは無茶苦茶見覚えのあるヤクザ(笑)だった。


「かっこ笑いを付けるんじゃねぇぇぇぇぇ!


俺はちゃんとヤクザだ馬鹿野郎!」


なんだコイツ考えてる事分かるのかよ…。


ここ最近色んな事があり過ぎてすっかり忘れてたにも関わらず、それでも見間違えようのないほどの存在感と強調されたリーゼント。


左手に釘バット、右手に木刀を持ったヤクザもどきは、俺が力を手に入れた日に戦った日向誠の一味、日向正明。


通称はマサだっけ。


「気安く呼ぶなぁぁぁぁ!」


「え~最初におじさんが呼べって言ったんじゃん~。」


そう言って口をとがらせる木葉。


「おじさんって呼ぶなやぁぁぁぁ!」


その悲痛とも取れる叫びに、俺も木葉も同時に耳を塞ぐ。


「おっさんはおっさんなの!」


とそんなのお構いなしに言ってのけるのは雫。


「お、おっさんだと…?


お前…一番言ってはならない事を言ってしまったな!?」


いや…大して変わらんだろうが…。


「どうやらおじさんが居るって事はここが本拠地ってのは間違いなさそうだね~。」


相変わらず耳を塞ぎながら木葉が言う。


「だな…。


とりあえず面倒だがこいつをどうにかするしかなさそうだぞ?」


「みたいだね~。」


二人してため息。


「ま、ここは俺に任せとけ。」


そう言って前に出てきたのは佐久間康一。


先日一応仲間入りをしたばかりだが、実力は…まぁそれなりだ。


「キリキリ大人げな~い。」


「うっせ…。」


「お前はこんな雑魚に無駄な体力を使ってる場合じゃねぇだろ?」


そう言って康一は方を竦める。


「誰が雑魚だこの野郎!」


「まぁ確かに…任せた。」


「おうよ。」


「聞けやぁぁぁぁ…ぐあぁぁ!?」


はい、終了。


瞬きしてる間に敵が倒れちゃう簡単なお仕事はこちらですww


「とりあえずここがそうだって確定なんならさっさと行こうぜ。」


「あ、おう。」


「いよいよですね、桐人さん。」


全員で入口に向き直ったところで、そう声をかけてくるのは光。


「そうだな。」


「何を考えているのかは分かりませんが、上手く伝わると良いですね。」


「まぁな。」


茜だってそれなりの覚悟を持ってその道を選んだのだろう。


簡単に話を聞いてもらえるとは思わない。


多分戦いは避けられないだろう。


でも戦いながらでも俺はあいつに言いたい事を精一杯ぶつけるつもりだ。


もとよりただで引き下がるつもりは毛頭無いのだ。


一発ぶん殴ってやるくらいしなきゃ気が済まない。


まぁ…そう言ったら木葉に呆れられ訳だが…。


でもそれ位の気持ちでぶつかっていこうと決めたのだ。


そして今はそれを支えてくれる仲間がいる。


このまま終わらせない。


このままで良い訳がない。


必ずあいつの目を覚まさせて、今度は皆で一緒に蜜柑を食べたい。


「待ってろよ、茜。」


ドアを見つめ、ぽつりと呟く。


もしこれを本人が聞いていたら、バッサリ切り捨てられるんだろうなと小さく笑いつつ、そのドアをゆっくりと開いた。

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