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夢幻  作者: 遊。
第六巻第三章

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共有願望


 久々の部活が終わった後。


俺達は千里を迎えに行き、光も連れて三人で死神神社に向かった。


光は、三人揃った姿を見て、何処か嬉しそうに、


「ちゃんと答え、見付かったんですね。」


と優しく笑って言った。


死神神社に着くと、雫が濡れ縁に座って足をぷらぷらしていた。


「あ…お前ら…。」


俺達に気付き、そう小さく呟く。


「お久しぶりですー。


凪さんはまだ戻ってないのですかー?」


雫の方に歩み寄り、隣に腰掛ける光。


「凪ならまだ帰ってないの…。」


「ありゃ、そうですかー。」


「私、もうお前らはここには来ないかもと思ってたの。」


雫に言われ、俺も木葉も口ごもる。


「もう大丈夫だよ。


ね、桐人君。」


「え、あ…おう。」


口ごもっていた俺の代わりに、千里が言ってくれる。


「二人ともちゃんと仲直りしたから。


ね、木葉ちゃん。」


「うえ!?あ…うん…。」


突然振られた木葉は変な声が出てる…。


「なら良かったの…。」


一方の雫はまだ元気無さそうだ。


「凪さんは何と言ってたんですか?」


「凪も私も茜とは戦いたくないと思ってるの。


あんな事をされた後でも凪は茜の事を家族だと思ってるし、私だってそう思いたいの…。」


「雫…。」


「思いたいんなら思えば良いじゃん。」


そう言って顔を出したのは康一。


「お前…居たのかよ。」


「居ちゃ悪いか?」


「悪い。」


「即答すんなしww」


「こいつ、一応お前らが来ない間毎日顔を出してたの。」


「え、何ストーカー…?」


白い目を向ける木葉。


「アホか、お前らが来ない間二人をほっとく訳にもいかねぇだろうが…。」


言いながら頭を抱える康一。


「うっ…。」


「康一さんは桐人さん達を信じて待っててくれてたのですねー。


だからその間を繋いでくれたのではないでしょうかー。」


ニコニコと微笑み、光が言う。


「べ、別にそんなんじゃねぇよ。


そのままほっといたら後味悪いだろうが。」


そう言って頭を掻く康一。


「そういう事にしておきますー。」


「ふん…こうやって戻ってきたって事はそれなりの答えを出してきたって事だろ?」


「まぁな。」


「あれ、桐人達来てたんだ。」


と、ここで帰ってきた凪が意外そうな表情でそう言う。


凪も同じようにもう来ないと思っていたのかもしれない。


「とりあえず入ってよ。


お茶ぐらい出すから。」


そう言って促してくれる。


「あ、おう。」


全員で中に入る。


ちゃぶ台を囲んで各々が座り、凪がお茶の支度に向かう。


「あ、私手伝う!」


立ち上がり木葉もそれに続く。


「あ、ごめん。


じゃあよろしく。」


そして二人でそれぞれ急須や人数分のコップ。


お茶菓子の煎餅や饅頭の入った木製の菓子鉢を置く。


「大した物無いけど、良かったら。」


準備が終わって、凪も木葉も座る。


「いやいや、いつもサンキューな。」


「へへへ、お饅頭も~らい!」


そう言って早速饅頭に手を伸ばす木葉。


相変わらずこいつは…。


「なぁ凪。


俺達は茜と戦おうと思う。


「…っ!」


凪と雫が、同時に肩を震わせる。


それに対しての心苦しさは勿論有る。


でも言わなければいけない。


「俺はさ、あいつがなんであんな事をしたのか分からない。


だから裏切られて悔しかったし、自分の正義を疑ったりもした。」


「うん…。」


凪はそれに言い返そうとはせず、静かに聞く姿勢を取った。


「でも俺は…!」


でもそれでも。


どんなに裏切られても、どんなに無愛想で、会う度に毒吐いて来るような奴でも。


「あいつを信じたい。


だからあいつと拳で語り合う。」


「ぶはwww」


木葉に盛大に吹き出された。


つられて凪も笑う。


「お、お前まで笑うなよ…。」


こっちは真面目に言ってんのにちょっと恥ずかしくなってきたじゃないか…。


「あはは、ごめん…でも桐人はやっぱそうだよね…。」


手で口元を押さえながら


「どう言う意味だ…?」


「やり方は…まぁあれだけど。」


ちょっとww?


「でも最後にはさ、こうしてちゃんと纏めてくれるんだよね。」


と木葉。


「褒められてる気が全くしねぇっての…。


こいつにも約束したんだ。


あいつの目を覚まさせて、その上で全てを終わらせたら、今度は皆で蜜柑を食べようってな。」


「うん…そうだね。」


そう言って優しく笑う。


「蜜柑ってなんなの?」


そう聞く雫も嬉しそうだった。


「甘酸っぱくてとっても美味しい果物なのですー。」


「うえ、酸っぱいのは嫌なの…。」


「酸いも甘いも有るからこそ美味しい物も有るのですよー。」


「そう、だな。」


正しくなくて良い。


間違っても良い、否定され、疑い、迷って迷って…時に苦しみ、悲しみを噛み締めて。


それでも信じれる物を見付けて、全力で信じる事。


親父は多分俺にそれを知ってほしかったんじゃないか。


やっぱり俺は誠太郎みたいにはならない。


最後まで大切な物を信じたい。


大事な場所を守りたい。


それが正義じゃ無くても、所詮はただの自己満足だとしても。


「私も、雫もそう。


ちゃんと茜と話したい。


だからそう言う事なら私達も協力するよ。」


「サンキュ。」


「いいえ。」


確かに一度俺達は喧嘩し、離れ離れにもなった。


それでもし一人で戦っていたのなら、所詮はただの自己満足だったのだろう。


でもこうして最後に集まれるなら。


同じ未来を信じ、酸いも甘いも噛み締めて最後に笑い合う事が出来るのなら。


きっとそれは自己満足なんかじゃない。


共有願望。


確かな願いだ。

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