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夢幻  作者: 遊。
第六巻第三章

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今日もホラー研究会は平和です(断言)


 「はぁ、やっと来たんですか。」


開口一番。


盛大なため息と鋭い目付きで不機嫌全開の声を上げるのは金城さん。


「ま、まぁまぁ…ちゃんと戻ってきたんだから良いじゃねぇか。」


そう横でフォローするのは蟹井。


「蟹井先輩は黙っていてください。」


「うっ…。」


相変わらず弱いなぁ…。


木葉の家に行った翌日の月曜日。


その日木葉は学校に来ていて、今も部活に顔を出している。


「木葉ちゃん、お帰り。」


そう言って不気味に…おっといかん…微笑むのは御手洗さん。


「ただいまかこちゃん!会いたかった会いたかったイエス君に~。」


お前はどこぞのアキバ系アイドルか…。


「あ、かこちゃん。


今日はこれを入れてくれる?」


「え、うん分かった。」


早速紅茶の用意を始めようとしている御手洗さんに、そう言って差し出したのは茶葉の入ったジッパ付きの袋。


それを見ると激しく嫌な予感がするのは俺だけか…?


受け取って御手洗さんがポットにそれを入れ、お湯を沸かし始めると、昨日飲んだ紅茶と同じ匂いが立ちこめてくる。


「やっぱり!」


そんな俺の反応に、木葉はテヘペロポーズだ。


こいつ…!


「ん、なんだ?


今日の紅茶はいつもより良い匂いだな。」


蟹井も異変に気付いたらしい。


「言われてみれば…確かにそうですね。」


金城さんも気付いたようだ。


「あ、本当に良い香り。


木葉ちゃん、これ何処の紅茶なの?」


御手洗さんも全員分のカップを棚から出しながら聞いてくる。


「こ、これは!」


そう言って鼻をスンスンしながら部室のドア

を勢い良く開けて入って来たのはちなっちゃ…いや臨時さんだ。


「先生…旧校舎の教室のドアは壊れやすいんですからゆっくり開閉してください。」


「あ、はい…すいませんでした…。」


ほら…また金城さんに怒られてるじゃないか…。


でも今日の臨時さんは、それでもめげないいじけない。


「こ、この匂い。


ろ、ロンネフェルトじゃないか!」


気を取り直した臨時さんは驚きの表情でそう叫ぶ。


それに木葉以外のメンバーは何の事やらと呆然だ。


「その中のダージリンスーパーファイン。


なんでこんなへんぴな所でそんな匂いが…。」


「へんぴなとこで悪かったっすね…。」


そうぼやくのは蟹井。


「い…いやすまん。」


「ダージリンって…確か世界三大紅茶の一つでしたよね。


私も一応名前くらいは聞いた事ありますけど…。」


と、金城さん。


「そう、それだ。


ロンネフェルトは百九十年の歴史があるドイツの紅茶メーカーの名前でダージリンスパーファインはその商品の一つだ。


五月から六月頃に生産された紅茶を使用していて、味、香り共に充実した時期のものだ。


味わいは優しく渋みもほどよい。」


「へ~ちなっちゃん詳しい~。」


持ってきた本人である木葉は、実にあっけらかんとしている。


「ま、まぁ私も紅茶は好きだし自分へのご褒美に高い茶葉とか調べたりしてるからな…。


ってそうじゃない!


ロンネフェルトは一流ホテルやレストランで使うのが主流なんだぞ!


なんでそんな高級品がこんな場所に…。」


「だから…こんな所って…。」


おぉう…部長の蟹井がいたたまれない…。


「染咲先輩…これはどう言う事ですか…?」


さっきよりも目が険しくなる金城さん。


「まさかそんな高級品で私達を釣ろうと?」


対する木葉はこれまたあっけらかんな表情を崩さずにこう言うのだ。


「うーん…そう言う気持ちが全く無いって訳じゃないけど…。」


「ちょ…あっさり認めましたね…。」


それには金城さんもいかにも拍子抜け、と言った表情だ。


「でも一番はさ、知ってほしかったんだ。」


「あ…。」


思わず声を漏らしてしまった。


多分木葉は、俺と千里にしたように、ここに居る皆にも自分がどんな人間であるかを示そうとしているのだ。


「どうかしましたか?」


そんな俺の反応を見て、金城さんが聞いてくる。


「あ、いや。」


「キリキリと千里っちにはさ、昨日もう話したんだ。


私が実は有名な財閥の一人娘だって。」


「っ…な、何を言って。」


それに金城さんは言葉の意味が分からない、と言う表情だ。


「じょ、冗談だろ?」


蟹井も意外そうに聞き返す。


「いや…嘘だと思うだろうけどこれ本当の話…。


実際俺もこの目で見てきたし。」


実際この反応は普通だ。


俺もあんな風に家に招待されてなかったらすぐには信じていなかったかもしれない。


「やっぱおかしいって思う?


お金持ちの家柄の私がこんな普通の高校に居るのが。」


そう言う表情は実に優しい物だった。


多分木葉は言いづらいであろう批判的な意見も受け入れるつもりでいるのだろう。


「まぁ、普通ではないんじゃないですか?」


一つため息を吐き、そう呟く金城さん。


それを聞いて、木葉は一瞬肩を震わせる。


「私にはどう言うつもりでそれを隠してまでこの高校に通っていたのかなんて分からないですけど。


それは確かにイヤミかぐらいには思いますよ。」


「っ…!だ、だよね。」


そう言う木葉は一度動揺してから苦笑い。


見てられない…。


「いやでもこいつはさ…。」


慌ててフォローしようとすると、金城さんがきっと睨みつけてそれを制止する。


「別に…だから駄目だなんて言ってないじゃないですか…。


今のはただのその話を聞いた感想です。」


いやいや…それにしたって言い方がキツいんだよなぁ…。


「こんな高い賄賂で気を引こうとするのも気に入らないですしね。」


うん、口悪いどころか間違いなく悪意あるやつだわこれ。


「いやだからそれは賄賂ってだけじゃ…。」


さしもの木葉もこれにはいつものように言い返す事が出来ずにもごもごと口ごもる。


「ちょ…金城さん、ストップ!」


流石に見かねて止めに入った。


「はぁ…散々ほったらかしにしておいてお詫びの言葉も何も無いんですから、これぐらいの皮肉ぐらい言ってもバチは当たらないと思いますけど。」


ぐうの音も出ない程正論じゃないか…。


セイロンティーだけに。


あ、これダージリンだっけか。


「うっ…そ、それはごめん。」


俯きながら素直に謝る木葉。


「ま、金城の言い方はキツいけどさ。


実際その通りだわな。


ほったらかしてたのは事実だし。」


そう言って肩を竦める蟹井。


「うぅ…だから謝ってんじゃん…。」


「でも俺もだけど金城は多分戻ってきて良かったって思ってると思うぜ。


そんだけこのホラー研究会にはお前が必要って事だな。」


やれやれ…普段頼りない癖にこう言う所でしっかり纏める辺りはちゃんと部長やれてるよなぁ…。


「べ、別にそんな事言ってません。


ただ居ないと退屈だから居ても良いとは思わない……事もないですけど…。」


そう言う金城さんは言葉が終わりに近づくに連れて小声になってる。


「ぶはwww金城ちゃん照れ隠し下手過ぎワロタww」


それを見て盛大に吹き出す木葉。


「ちょっ…!そうやってすぐ調子に乗るのはどうかと思いますけど!」


「あーはいはい分かった分かった。


でもありがと。


こんな私を許してくれて、受け入れてくれて。


皆に会えて本当に良かった。」


そう言って木葉は今度こそ精一杯笑って見せた。


何はともあれ木葉に関してはこれで一先ず一件落着だろう。


勿論根本的な解決ではない


家庭の事情にはまだ根深い溝が残っているがそれは一朝一夕でどうにか出来る問題じゃないし、俺達が下手に介入してどうにか出来るような問題でもない。


それにそれはきっと時間をかけてでも木葉が変化を望んで変えていくしか無い事だと思うから。


「そんじゃ久しぶりにメリカで一勝負と行こうか!」


「ふん、今日こそは目に物を見せてあげますから。」


「ふふふん、言ったね?


後で吠え面かかせてあげるよ。」


そう言う二人はいつも通り何だかんだ楽しそうな表情をしていた。


そして俺もそんな二人を見て、これでこそホラー研究会だな、と思った。


「ちょ!それは反則ですよ!」


「へへへ~勝ちゃ良いんだよ…。」


うん、今日も平和だ…。


そう言えば今回びっくりするぐらいノータッチだったが白石が居ないな…。


「あ、白石君なら今日風邪で休みですよ。」


と、金城さん。


「ちっ…。」


舌打ちする木葉。


うん平和平和…。

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