再会
2
三人揃ってまず俺の家を目指す。
俺も木葉も放課後に部活に行くって言う気分ではなく、千里を待たせるのもと言うのもあって今日は部活をサボることにした。
考えてみればこうして部活サボって三人で死神神社以外の場所に寄り道して帰るのって久々だと思う…。
と言っても前にしたのは夢幻の試練を受けてる時だから他の二人に言っても分からないんだよなぁ…。
思えば本当にあれから色んな事があった。
あいつと出会って、夢幻を受けて。
現実離れした事ばっか起きたってのに妙に現実を突き付けられたり。
でもシリアスなばかりじゃない。
確かに楽しい事も笑える事だってあった。
そりゃ、最初はアイツがしてきた事が怖いとも思ったし許せないとも思った。
でも出会えた事も、これまで色んな時間を過ごした事も今は良かったと思ってる。
だからこそ、俺も千里も木葉も茜が急に消えた事に戸惑いが隠せずにいるんだ。
何処かで明日また死神神社に行けば、遅かったわね、なんて皮肉を言いながらも出迎える気ゼロの出迎えをする茜が居るんじゃないかと思ってしまう。
信じたくなってしまう。
「茜っちもさ、ハロウィンパーティーに誘えたら良いよね。」
不意に木葉がそうぽつりと呟く。
「だな。」
それに短く返す。
明日もしあいつが戻ってきていて、俺達がそれに誘ったら多分あいつはまた渋るだろう。
行く必要がない、行きたければ凪や雫を連れて行けと。
でもあの日のように何だかんだ来てくれるんじゃないか。
そしてあの日のようになんだかんだ一緒に忘れられない思い出を作る事が出来るんじゃないか。
なぁ…茜、このままじゃ駄目だよな…?
このまま居なくならないよな?
そう願いにも似た届かない問いかけを頭で思い浮かべている内に、いつの間にか家に着く。
「じゃあ悪い、ちょっと待っててくれ。」
「あ、うん。」
「おっけ~。」
「ただいま~…。」
二人の返事を聞いてから恐る恐るドアを開けると、ドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきた…。
「桐人さん!」
それとほぼ同時に光が抱きついてくる。
「うぉっと…!光…目を覚ましたんだな…。」
「はいー!もうすっかり元気ですー!」
「そっか…良かったぁ…。」
「あ、キリキリ泣いてる?」
そこで後ろに居た木葉が茶化してくる。
「うるせぇ…泣いてねぇよ…!」
本当に良かった。
ただそれだけだった
「ったく…無茶しやがって…。」
「ご心配おかけしました。
でも私、桐人さんが無事ならそれで良かったのです。」
「アホか…それでお前が死んだら…。」
「そんな勇気を私に教えてくれたのは…桐人さん、あなたですよ。」
「…っ!?」
「私はこうして見守りに来る前からずっとあなたを見てきました。
あなたが彼女と出会った時。
あなたが力を得た時。
試練を受け、それを乗り越え、大切な人の為に立ち向かう勇気に気付いたあなたはとても輝いていました。
そんなあなたを見て、私もそうなりたいと思ったのです。
そしてそう思ったのはきっと私だけじゃない筈です。
桐人さんはそんな風に沢山の人に勇気を与えてくれる存在です。」
「いや…俺はそんなのじゃ…。」
「だから、大丈夫です。
私にもしもの事があっても、桐人さんなら大丈夫ですよ。
必要な物はもう全部揃っているのですから、後はそれを組み立てるだけです。」
「だから…お前…。」
そう言う事じゃない。
俺が言いたいのも聞きたいのもそんな気休めなんかじゃない。
「ふふふ、私の事を本当に心配してくれるのですね。」
だと言うのに、こいつはそんな俺の気持ちを見透かしているかの様に笑うのだ。
「あ…当たり前だろ…?」
一緒に暮らすようになって、手のかかる妹のような存在のように思うようになって、その実俺なんかよりよっぽど頼りになる所もあって。
実際何度もそれに助けられたのだ。
だと言うのに居なくて良いなんて思えない。
代わりはいくらでも居るだなんて割り切れる訳がない。
「嬉しいです。
最初はどうして戦闘能力を持ってないこんな子供に見守られなければならないのかって疑問に思っていましたし、あまり歓迎されてないのかもとも思いましたが。」
「うっ…そりゃ最初はそう思ってたさ…。
こうやって思うのも多分一緒に暮らすようになったからだし…。」
年上としてのプライドも少し、単純に照れくさいからと言うのもあるが、ここまで思った事は口には出すまい…。
「そうですね。
そしてそれは私だけじゃなく茜さんにも言える事ですよね?」
「…!」
「日本の諺には住めば都と言う便利な言葉がたります。
きっとどんなに始まりが悪くてもそれが続けば関係は変わる。
勿論それで確実に良くなるとは言えませんが、それで良くなる関係だってきっとある。
あって良いと思うのです。」
「……。」
確かにそうだ。
俺と茜の関係は、最初も、そして今も、良好な関係と呼べる物じゃない。
でも手放したくない。
もっと良くなりたいと願ったし、このまま終わるなんて嫌だ。
「茜ちゃん、居なくなったんですよね?」
「っ…!?」
考えを読まれたような気がして一瞬驚きで肩が震えた。
「やっぱりですか…。」
でも光には本来そんな力なんて無いのにと気付いた時には、そう言われて鎌をかけていたと言うのが分かる。
「雨ちゃんから事情を聞いていずれこうなるだろうとは思っていました。」
「ちょ…ちょっと待ってよ!
それってどう言う意味!?」
俺が反応するより先に、後ろで黙って聞いていた木葉が口を挟む。
「あら?桐人、今日はお友達も一緒?
あら…あらあらまぁまぁ…。」
その声は本人も気付いて思わず口を塞ぐ程大きく。
その声を聞いてリビングに居た母さんが何事かと顔を覗かせて大変見当違いな想像をしてニマニマとされておられる。
「あ、お母様。
大声でお騒がせしてすいませんですー。」
そう言ってさっきまでの真面目顔を引っ込めてお辞儀する光。
それにつられてか木葉も怖ず怖ずと頭を下げる。
「まぁ!光ちゃんは本当に良い子ねぇ!」
ちょっと?
毎回光を褒めながら俺の方をチラ見して、しかも露骨にため息吐くのやめてくれませんかね…?
「そちらのあなたも気にしなくても良いのよ?
良ければゆっくりしていって頂戴。」
「あ、どうも…えっと…でも今日は…。」
うーむ…こいつでも人の親の前では大人しいんだなぁ…。
「場所を変えましょう。
聞きたい事、話したい事、いっぱいあるんですよね?」
「あ…あぁ。」
それに木葉も一瞬ジト目で俺を睨んだ後無言で頷く。
やっぱこいつ絶対考えてる事分かってるだろう…。
それにしても、光は一体何を知っているのだろう?
何を考えて行動しているのだろう。
ここに来て光が分からない。
だからこそ、それを確かめる為にも。
光と話さなければ、とそう思った。




