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夢幻  作者: 遊。
第五巻第二章

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突然の来訪者



 俺がその事実を知ったのは、ヴァンパイア騒ぎがあった翌日。


学校の昼休憩の時の事だ。


休憩時間に自分の席からぼーっと空を眺めていると、廊下の方がなんだか騒がしい気がした。


「ロリコンは居るの!?」


まさかまた学校に化け物が!?などと思ってた所でそう大声を出しながらドアを開けて入ってきたのは雫。


「その口を閉じろぉぉぉぉぉ!!」


思わず俺も悲鳴にも似た大絶叫を上げた。


シリアスな雰囲気なんぞ何処かに吹き飛ぶぐらいの大爆弾が投下された…。


「あ、居たの。」


そう言って俺の姿を見付けた雫が歩み寄ってくる。


「ちょっと…また海真…?」


「やっぱりそうだったの…?」


それを見て、クラスの女子がひそひそとそんな事を言っている。


「だぁぁぁ!!折角あらぬ疑いが晴れてきたばっかりだってのに!」


「あ~あ…ご愁傷様。」


絶叫する俺を見てそんな事を言いながら哀れみの視線を向ける木葉。


そしてそんな俺の状況にもお構い無しでふんぞり返る雫。


「違うっての!こいつは光の友達だ!


別に俺は何もしてない!」


そう叫ぶも、あまり当てにされてない感が出ている。


くぅ…どうしてこうなった…。


「で…何だよ…?


何しに来たんだよ?」


ちょっと涙目になりながらそう聞き返す。


「そうだったの!


大変なの…茜が昨日から帰ってこないの。」


「…は…?」


言われて一瞬固まる。


「え…茜っちが!?」


横で聞いていた木葉もそれに驚きの声を漏らす。


「茜さん…何かあったのかな…?」


千里も心配そうにそう問いかける。


「分からないの。


桐人達が帰った後にはもう居なかったの。」


「まだ一日だし…ただ出かけただけ…って訳でもないよなぁ…。」


「茜はそもそも自分から出かけると言う事をしないし、まして日付が変わっても帰らないなんてある筈ないと思うの…。」


「そうだよね…。


茜っち…どうしたんだろう…。」


そう言う木葉は本当に心配そうだった。


雫が言うように、そもそも茜は自分から外に出る事を良く思っていなかった。


本人いわく、出られないんじゃなくて出る必要がないからだと。


そんな茜を無理矢理に連れ出したのは俺達だ。


でもそれによって茜は最初と比べて随分普通の人間に近付いていったように思う。


まぁ…それを雨は良く思ってなくて、茜と今以上の関係になるなと警告を出してきた訳だが。


それに背いてまで、俺はあいつに変化を求めた。


それがあいつにとっての幸せだと信じて。


そしてその変化は、今俺達の目の前にはっきりと形になって表れたのだ。


雨の言う通り望まない形で、だが。


「凪は一応今日一日待ってみようって言ってるの。


それで戻らなかったら一緒に探してみようって。」


「そっか…。」


それに俺も小さく返す。


「でもさ…偶然にしては出来過ぎてるよね…。


あのタイミングで居なくなったって事はやっぱそう言う事なのかも…。」


「…。」


木葉のその言葉に、俺は口ごもる。


茜の奴…本当にどうしたんだよ…。


いつの間にかクラスメートも空気を読んでひそひそ話をやめ、中には気まずそうに教室を出て行く奴らの姿も見受けられる。


そうして出て行く一人の背中に、あの日の茜の背中が重なる。


「とりあえず…茜っちが戻らなかったら私達も探すの手伝うよ。」


何も言えずにいる俺を見兼ねてか、自分も辛いだろうにそう言う木葉。


「ありがとうなの。」


それにそう素直に返事を返す雫。


ついこないだまではうるさい奴だって嫌ってたのになぁ…。


「あとそれと…。


茜がどうかは分からないけど、私と凪はこないだの合宿とっても楽しかったの。」


「あ…。」


言われて思わず声が漏れる。


「確かに合宿の後に茜の様子がおかしくなったのは事実なの。


けど…それはきっとお前らがした事が悪い事だからじゃないと思うの。」


その言葉に救われた気がした。


茜の突然の失踪、雨の言葉ですっかり失いかけていた自信が、ほんの少しだがまた戻った気がする。


「そっか、そうだよね!


私も茜っちと凪っちと雫っちが来てくれてすっ…ごく楽しかった!」


嬉しそうに声を弾ませる木葉。


多分木葉も俺と同じように何処かで負い目を感じていて、その言葉に救われた所があったのかもしれない。


「あのお化け屋敷とか三人が居なかったら絶対味わえなかったもん!


だから私の方こそありがとうだよ~!


ね、キリキリ!」


「あぁ、そうだな。


まぁ…ちょっとばかしやり過ぎ感はあったがなぁ…。」


実際千里や同じくペアだった御手洗さんもびびってたもんなぁ…。


え、僕はびびってませんよ?


本当ですよ?


「茜っちもそう思っててくれてたら良いな~…。」


そう呟く表情は何処か寂しそうで。


でも俺は、そんな木葉に絶対思っててくれてるよ、なんて無責任な励ましは出来なかった。


そして木葉もそれを望んでは居なかった筈だ。


結局それは自分がそうだと信じたいだけ。


だから共感はしてほしくても、根拠のない慰めなんていらない。


今の俺達に必要なのは確かな答えなのだ。


一緒に信じれる仲間と、掴み取った幸せな未来だ。


俺達はこれまで、その為にずっと戦ってきた筈なのだから。


そしてこれからも。


「それじゃ、私は茜が戻ってるかもしれないから一度戻るの。


だからまた何かあったら教えるの。」


「あぁ…その時は出来ればもっと穏便に来てくれ、マジで。」


「あ~…ははは。」


ちょっと木葉さん?苦笑いやめて?


「うーん…やどかり?ザリガニ?なおざり…?にするの。」


「おいこら…そこは善処しろよ…。


わざわざそんなすっと言えもしない難しい言葉引っ張り出して対義してんじゃねぇよ…。」


「あ、そうそうそれなの!


残暑するの。」


「いやそれ絶対対義する気だったよな!?


しかもそうそうそれだって言っといて間違えてんじゃねぇか!」


「むぅ…難しい言葉は分からないの…。」


「そうだろうな…。


でもその間違いに悪意を感じるのは気のせいじゃないよな…?」


「雫っちは強いし大丈夫だと思うけど気を付けて帰りなよ?」


「分かったの!」


そう言って走り去る雫。


「廊下を走るなよぉ…。


ってもう聞いてないか。」


「ね、今日三人でかこちゃんの店に行ってみない?


もしかしたら凪っちも居るかもだし。


あ、そう言えば光ちゃんは?」


「え、あぁ…あいつ俺が千里の家に迎えに行った時も今朝出る時もずっと寝てたから実はまだ話せてなくてさ。」


「ありゃ、そっか~…。


一度キリキリの家に様子見に行こうか。


キリキリも心配っしょ?」


「まぁな…。」


「あれだったらさ、光ちゃんも一緒に連れて行こうよ。」


「そうだな。


…千里は大丈夫か…?」


言いながら千里の方に目を向けると、千里は無言で首を勢いよく何度か縦に振った。


本当…頑張るなぁ…。


でも毎回その後のパターンが見えてるんだよなぁ…。


そこで昼休み終了のチャイムが鳴り、それぞれ自分の席に着く。


正直本調子ではない。


まぁ昼休み明けの眠くなる授業は、どちらにしろ真面目に聞こうと言う気にならないのだが。


何もしないよりはマシ…か。


寝たらまぁ…その時はその時だ。


昨日もそんなに寝れなかったし。


などと思いながら、俺は残りの授業を受ける事にした。


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