ホラー研究会と言えば肝試し!
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その夜。
「それじゃ!また皆無事に揃った事だし!
良い感じに暗くなってきた事だし!
ホラー研究会の醍醐味!肝試しを始めるよーん。」
懐中電灯を使って下から顔を照らすお馴染みのあのポーズをしながら木葉が言う。
「確かにそれっぽいけどそんな醍醐味うちでは初めて聞いたぞ…?」
「にはは~これから醍醐味にしていけばいいんだよ~。」
俺達が木葉に連れてこられたのは、対岸沿いにある廃墟。
木葉が言うには元々ここには人が住んでいたらしいのだが、来なくなり空き家になって放置されているのだとか。
ちなみにその持ち主と木葉の親戚は知り合いで、今回の事も了承を得ているらしい。
まぁ事故物件ではないと分かっただけでまだマシか…。
とは言え、時間帯的にも暗さは充分。
明かりはそれぞれが持たされている懐中電灯のみで、肝試しには最適と言える環境ではあるが…。
無理に付いてきた千里は今にもひっくり返りそうだ。
「おいおい…大丈夫かよ…?」
「が、頑張る。」
「それじゃ!張り切って行ってみよう!」
場の雰囲気にそぐわないハイテンションで木葉は回るメンバーを決めるくじを差し出してくる。
「一つのチーム三人構成ね!
くじにアルファベットが書いてあるからそれが同じ三人って事で!」
「おう。」
それぞれにくじを引く。
早速中を確認すると、大きくAと書いてあった。
「あ、桐人君一緒だね。
良かったぁ…。」
それを覗き、安堵の息を漏らす千里。
「お、千里と一緒か。」
まぁ実際中で千里が倒れたらシャレにならないし…なぁ。
一緒の班でとりあえず安心する。
「それでもう一人は…。」
そう言って辺りを見回す。
「あのぉ…。」
「「ひう!?」」
突然背後から聞こえて来た声に二人して驚く。
その声の主を見て更に驚く。
「「で、出たぁぁ!!」」
二人して大声を出すと、
「ひ!?」
その大声に相手も驚く。
「ちょっと二人とも~!
その反応酷くない?かこちゃんが可哀想じゃん。」
と、そこで木葉が文句を言ってくる。
「いえ…良いんです…。
慣れてますから…。」
「ご、ごめん。」
いきなり背後から現れた花子さん、いや御手洗さん。
これから肝試しだってのに、早速もう肝を冷やされてしまった…。
どうやら彼女がもう一人のメンバーらしい。
「あの…ごめんなさい。
よろしくお願いします…。」
「あ、おう。
その、さっきは大丈夫だったか?
戸惑ってたみたいだけど。」
考えてみたら御手洗さんとはあの後話せてなかった。
彼女も戸惑ってたみたいだし、この機会に話を聞いておこうと思ったのだ。
「あ…はい…私もまだあんまり信じられてないですけど…。」
それに御手洗さんはおずおずと答える。
「だよなぁ…。
まぁ…あんまり気にしないで接してやってほしい。」
「はい、私は良いですけど…。
金城さんはあまり納得してなかったみたいですね。」
「だよなぁ…。」
まぁ、そこはゆっくりやってくしかないよなぁ…。
ちなみに後の班はと言うと。
「折角肝試しするんだし一人は女子が欲しいよなぁ。
丁度男三人だし流石にその三人はキツいよなー。」
と一番最初にくじを引いて期待しながら紙を広げる蟹井。
で、結果。
白石、金城、蟹井。
「どうしてこうなった。」
おう、神様はバッチリお前の願いを叶えてくれたぞ。
しかも最悪な形でだ。
昼飯の時の悪夢再来。
哀れ蟹井…。
「わー!私は木葉さんと臨時さんなのですー。」
と光。
「お、珍しい組み合わせだね~。
光ちゃん、臨時さん、よろしく~。」
「お、おう、お、大船、いや豪華客船にでも乗ったつもりで私に付いてこい!」
「「おー!」」
さっきの挽回も兼ねて頼もしく言ったつもりなんだろうがめっちゃびびってんじゃん…ちな、いや…臨時さん。
嫌な予感しかしないと言うよりもはやフラグだろう…。
「あれ、そう言えばあいつらは?」
気が付くとここに来るまでは一緒だった筈の巫女三人と雨が居ない。
「あ~実はね、四人には驚かす役をやってもらう事になったんだ~。」
「なん…だと?」
「凪っちがさ、誘ってくれたお礼にって事で引き受けてくれてさ、だから私も参加者として参加出来るって訳。」
とりあえず経緯は分かったが、あいつらが驚かす役って嫌な予感しかしないぞ…。
「と、言う訳で~!
私達が早速トップバッター!
いっきま~す!」
またそんな某ロボットアニメの主人公みたいに…。
「うえ、ま、マジで!?
と、トップバッター!?」
ほら…動揺しながら大見栄切ってたちなっちゃ…臨時さんが固まってんじゃねぇか…。
「ゴーゴーですー!」
ノリノリな二人に無理矢理引っ張られていくちな…いや…臨時さんを目で見送り。
それから数秒後に絶叫が聞こえてきて耳を塞ぐ。
あぁ…これ大丈夫かなぁ…?
ちなっちゃん…じゃなかった臨時さんと、その絶叫を聞いて入る前から泣きそうな千里の無事を祈りつつ、三人が出てくるのを待った。
待つ事十分程。
ぶくぶくと泡を吹いて気絶しているちっ…臨時さんを引きずりながら木葉と光が出てくる。
やっぱりじゃないか…。
そうやって引きずられる様はまるで墓場から掘り起こされたゾンビだ。
差し詰め二人はゴースト○スターズと言った所か…。
「面白かったのですー!」
満足そうな光。
「だよね~!そこらのお化け屋敷じゃ絶対味わえないクオリティだった!」
同じく大興奮な木葉。
「一人全く面白くない状態の人が居る気がするが気のせいか…?」
「いやぁ、入って早々倒れちゃってさ。
参った参った~。」
などと頭を掻きながら言う木葉。
この人残念過ぎるだろう…。
「さ~て、じゃ次、どっち行く?」
「ん、じゃぁ俺らが行くよ。
早く終わらせないと千里が耐えられないだろうし…。」
「あ~…そうだね…。」
顔面蒼白な千里を見て同意する木葉。
「と言うか千里っち本当に大丈夫?
あんまり無理しない方が…。」
そう聞かれた千里は、勢い良く首を縦に振る。
相変わらず変なところで頑固だなぁ…。
「そっか~。気を付けてね。
キリキリ、二人を頼んだよ~。」
「おう。」
そう返してから扉を開いて中に入る。
〈ようこそ、ロリコンさん。〉
「んなっ?」
「ひ…!こ、声?」
千里が震える。
「ち…近くに、誰も居ないですよね?」
その後ろからついてくる御手洗さん。
いやだから後ろから来ないで?本気で怖いからww
まぁとりあえず…。
「なるほど、雨はナレーションって訳か。」
イヤホンも無しに直接耳に届くナレーション。
なるほど、体感型ゲーム制作者も真っ青な技術だ…。
「でも…ロリコンさんって…。」
御手洗さんのその一言でついでに俺の顔まで真っ青になった。
「おいこら雨!!
三人共通音声で勝手な事言ってんじゃねぇ!!!」
そう何処にとも無くツッコミを入れると、
〈その方が面白いと思ったのに。〉
「アホか…。」
お化け屋敷に面白さは別に求めてない。
いや、実際ヒヤヒヤもあったけどそれは求めてたのと全然違うぞ…。
〈まぁ、気を取り直してようこそお化け屋敷(笑)に。〉
「笑いを付けんなよ…。
と言うか最初の入りのせいで全然緊張感無くなったわ!」
〈それじゃ、まずは最初に左側の扉から行ってみようか。〉
今俺達が居るのは玄関。
その正面から間取りを見ると、廊下は玄関も入れてちょうど十字型のようになっている。
扉は三つ。
真っ直ぐ奥にある扉と、玄関の近く左右突き当たりに一つずつ。
言われた通り左側の扉を開ける。
三人で恐る恐る踏み込むと、中は片付けられて何も無い居間だった。
だと言うのに。
ぽた…ぽた…と、何処かから水滴の落ちる音が聞こえてくる。
「み、水!?」
と千里。
それを聞いてキョロキョロと辺りを見回す御手洗さん。
なるほど…これは雫の仕業だな。
それを知らない奴からすればこの部屋には水を扱う物が何も無い筈だから不気味だろう。
でもそれよりも…。
「き、桐人君。
この部屋何だか寒くない?」
「え、あぁ…言われてみれ…さむっ!?」
思わず叫ぶ。
何も無い部屋で肝だけじゃなくて体まで一気に冷やしてくれるこのリアリティ!
ってやかましいわwwwwww!
「おいこら雫!
このままじゃ俺らが凍死すんだろうが!」
一番隠れやすそうなクローゼットに向けて叫ぶ。
「げ、バレたの。」
すると、そこからヒョコッと顔を出したのは雫。
「人間は悪寒が走る様な感じを恐怖と言うって凪から聞いたの!
でもそう言うのよく分からないからとりあえず思いっきり冷やしてみたの!」
凪の奴…!絶対悪意を持って教えただろう…。
〈さて、次は右の扉に行ってみようか。〉
「また嫌な予感がするな…。」
雫が居た部屋を出て、今度は右の扉を開く。
中に入ると、早速二つの火の玉に出迎えられた。
おっと、最後かと思ったが次はもう茜か。
「ひ、火の玉!」
それに大袈裟に驚く御手洗さんと千里。
釣り糸なんて有る筈も無く浮いている火の玉。
なるほど、これも普通じゃない技術だ。
もしかしたらこれは…今度こそ期待できるかも!
と更に奥に踏み込むと、
「あら、遅かったわね…。
てっきりもう雫に凍り人形にされたかと思ったわ。」
普通に茜が火の玉を明かりにして椅子に座りお茶を飲んでいた。
と言うかそれは蝋人形だろう…。
本来お前の役目だろう…。
「嫌よ…面倒だもの…。」
「いや…お前…せめてもうちょっとやる気出せよ…。」
「それも嫌…理由は以下同文よ。」
いやそんな卒業証書授与式みたいに…。
しかも面倒くさいから略した癖に文字数最初より増えてんじゃねぇか…。
「さぁ…最後の部屋に行くと良いわ。」
「結局何も無しかよ…。」
「だから火の玉を出してあげたじゃない…。
それでもまだ足りないのかしら?」
「いや…足りないのはホラー要素じゃなくてお前のやる気だ…。」
「それなら…早く次に行きなさい。」
「この流れだと最後は凪だろ?
そんだけ怖いのか?」
「さぁ…?それは知らないけれど…あなた達が居たら落ち着いてお茶が飲めないじゃない…。」
「いや…理由はお前の本音かよ…。」
仕方無く部屋を出る。
〈じゃ、最後は一番奥の部屋ね。〉
「おう。」
「さっきのは何だったんですか…?」
と御手洗さん。
「気にするな…。
あいつはあぁ言う奴だ…。」
「あ、はい…。」
ゆっくりと扉の前まで歩いて行き、そのまま開く。
まぁ…ここまでこれだけグダグダった事を思うと今後の展開が読める気もするが…。
などと気楽に考えながら中に踏み込む。
と、同時に扉が勝手に閉まる。
「ひ…と、扉が。」
言いながらペタんとその場にしゃがみ込む御手洗さん。
「み、御手洗さん?」
「わ、私暗くて狭い所に閉じ込められるの本当に駄目なんです…!」
そのままなんとかすり寄って、扉を開こうとする御手洗さん。
「あ…開かないよぅ…。」
ガチャガチャとノブを捻るも、びくともしない。
やっぱり花子さんじゃん!?
それにその苦手なカテゴリーも絶対花子さんの設定から来てるよね!?
おっと…そんな事言ってる場合じゃない…。
「大丈夫か?」
「は…はい何とか…。」
と、そこで隙間風が音を立てて吹く。
なるほど、さっき扉が閉まったのはあいつの力で出した風か…。
そして次第にその音が化け物の鳴き声のような物に変わる。
「き、桐人君…い…今!」
「あ、あぁ…。」
そう言えば聞いた事がある。
風の音がたまに化け物の鳴き声のように聞こえる怪奇現象。
最初の語り口がどこぞのマッチョマンみたいになったが仕方あるまい、恐らくその原理を使っているのだろう。
〈あ、そろそろテレビが始まる。
後は勝手にやってね。〉
「あ、おい!」
と、そこで。
急に地面に転がっていたテレビの電源が入って砂嵐の音がさっきまで静かだった部屋に妙に響く。
「っ…!?」
「き…桐人君…私もう無理だよ…。」
涙目で震える千里。
「て、テレビが…テレビが…。」
しゃがみ込んだまま固まってその言葉をただ繰り返す御手洗さん。
や…やばいこれはガチだ…。
最後の最後に。
忘れてた…凪はやるからには徹底的にやりたがるタイプだった。
とそこで、突然の轟音と発光。
雷の音だ。
同時にテレビが消える。
「も、もう嫌!」
遂に泣き出してしまう千里。
蹲って耳を塞ぐ御手洗さん。
いややり過ぎだろう…!?
なんなら蹲ったままぶつぶつ言ってる御手洗さんも充分ホラーだよww
と、その時急に電気が付いてクラッカーが鳴る。
一瞬固まる俺達三人。
「はい、お疲れ様。
どう?楽しかった?」
入り口前に凪、茜、雫、雨の四人が立っていて、それぞれクラッカーを持っていた。
やられた…。
「うーん…その様子だとちょっとやり過ぎたみたいだね。」
などと笑いながら凪は言う。
こいつは…!
「あぁ…確かにな…。」
「いいザマね…。」
その後ろから鼻で笑ってくる茜。
「ぐっ…。」
「流石凪なの!」
と、横から雫。
「あぁ…確かにお前のが一番怖かったよ。」
凪の方に向き直って素直に認めると、
「ふふふ、そうでしょ?
でも実はそうじゃないんだなぁ。」
ちっちっちと指を振る凪。
「え?」
【つまりこれは、最初から誰が一番とかじゃ無くて全部繋がってたって事だよ。】
と、雨が補足してくれる。
「そ、雫でこんな感じって思わせて、茜で油断させて、最後に一番のを持ってくるって感じでさ。」
「そ、そこまで考えてやってたのか…。」
やっぱりこいつらすげぇや…。
でも茜に関しては実際にやる気が無かったからってのもありそうな気がするが…。
「否定はしないわ…。」
「やっぱりかよ!?」
ちなみに。
この後に入った三人、蟹井、金城さん、白石のチームは、出てきた時にはすっかり仲直りした二人の後ろからげんなりした蟹井が出て来ると言う非常に悲惨な有様だった。
後に蟹井は語る。
最初は超気まずくてげんなり。
最後の部屋で今度は男らしく金城さんを庇った白石に金城さんがさっきもそうしてくれてたら良かったのにとぼやきはしたものの…。
吊り橋効果からか良い雰囲気になりすっかり仲直り。
おかげで今度は甘い空気にげんなり。
と言う具合に無駄に疲れたらしくちなっ…臨時さんと共にさっさと別荘に帰ってしまった。
哀れ蟹井…。




