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夢幻  作者: 遊。
第四巻第三章

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バーリトゥード?いいえビーチバレーです


 「死ねぇぇぇぇ!」


昼前の砂浜。


太陽の日差しが照りつけるビーチで静かに寄せて返す波のように……ちっとも穏やかじゃない、なんなら静かですらない、落ち着いて聞く事も出来ない実に物騒な叫び声が響く。


え?何故そんな物騒な声が響いてるのかって?


さっきまでのシリアスは何処に行ったのかって?


まぁ待て、一つずつ答えよう。


まず一つ目に何故そんな物騒な叫び声が響いているのかだが、それは現在木葉と金城さんがビーチバレーをしているからだ。


え?それでなんでそんな物騒な単語が出てくるのかって?


それに関しては逆に説明しているこっちが聞きたいくらいだ。


とりあえずさっきまでのシリアスが何処に行ったのかと言う問いと合わせて答えると、事の発端は、ち…臨時さんのこの一言だ。


「と言うかお前ら二人。


そんなに仲が悪いんならさっきみたいな喧嘩じゃなくて正当な勝負で決着を付ければ良いだろう。」


「「勝負?」」


二人が同時に返事をする。


一応光に場を納めてもらった訳だが、居ない所でいつまた喧嘩するとも限らない。


そんな二人の関係を見かねての提案だろう。


「うむ、折角海に来た訳だし皆でビーチバレーをして決着を付けると言うのはどうだ?」


「面白いじゃん。」


「ふん、後悔しても知りませんからね。」


とそれに木葉と金城さんがそれぞれ返す。


ってな訳で…。


一対一、ボールを落としたら相手に加点。


先に五点先取で勝ちという特別ルールで現在試合を行っている訳だが…。


二人ともガチだ。


それも手伝って、隣でキャッチボール(ビーチボールで)している凪と光と雫が実に微笑ましく見える。


何なら俺もそっちに加わりたい所だが、発案者のちな…臨時さんが今度は潮風に酔ったとかでぶっ倒れて千里と御手洗さんの看病を受けてるし、白石は絶対金城さんびいきすると除外され、蟹井は早々に逃げ出して。


流石だ、普段妹から逃げてきただけにこう言う時の危険予知能力と逃げ足は称賛に値するだろう、などと悠長に分析していたのが災いした。


「勿論キリキリは公平にジャッジしてくれるよね?よね?」


その語尾を繰り返す喋り方やめて?


今の君、それにピッタリなくらい目つきが怖いよ? 


「海真先輩、染咲先輩にひいきしないですよね?


信じて良いですよね?」


うん、こっちも更に怖かった!


下手したらこれ真面目に判定しても殺されるんじゃないの?


と、こんな風に迫られたら断る訳にも行かないだろう…?


だから渋々引き受けた訳だが…。


繰り広げられるそれは、もはや球技ではなく格闘技。


もはやバーリトゥード。


ボールの弾き返し合いが、いつの間にやらいかにして相手にボールをぶつけるかと言う攻撃的思考に切り替わってしまっている。


本当にこれが柔らかいビーチボールでの戦いで良かった。


これが雲丹みたいにトゲだらけのフレイルとかだったらがちの殺し合いだった。


さっきのシリアスなんかよりよっぽど見せられない惨状に早変わりしてた所だ。


と言うか金城さんは木葉と違って何処か落ち着いた怒り方をする人だと思ったが…その考えは一瞬で覆されてしまった。


見ろ、さっきまで分かり易くデレデレしていた白石がビクビク震えてゴミの様だ!


こうなるともはやよほどの事が無い限り止められないだろう…。


げんなりとその行く末を見守る。


せめてボールからガチな凶器に変わるのだけは何が何でも食い止めようと誓って…。


まぁ実際、そんな俺の心配は杞憂に終わった。


と言うか終わらされたのだ。


さっきよほどの事がと言ったが、実際によほどの事が起こってしまったのである。


「な、何…?」


キャッチボールを続けていた凪が異変に気付く。


「な…何だあれ!?」


それで俺も気付く。


海の中から俺達が居るビーチにゆっくりと迫る大きな陰に。


「え、何!?」


流石の木葉もボールを打とうとした手を止め、金城さんも


「こ、こっちに向かってきてますよ!?」


と、動揺を示す。


白石に関しては早々に逃げやがった。


それも金城さんを置いて。


「うっわ…白石さいて~…。」


「確かに…。」


ついさっきまであれだけ仲悪かったのに、ここに来て初めて二人の意見が合った瞬間だった。


やがて陸地に上がってきたそれにまた驚愕する。


それは巨大な蟹。


詳しく言うならシオマネキと言う片手がデカいタイプの蟹。


それをそのまま巨大化したような感じ。


一際目に付く巨大な右の鋏は、一度挟まれたら真っ二つにされてしまう事は間違い無いであろう程に鋭い。


「こんなとこにまで化け物が…。」


まぁ実際?前回は出て来なかったし?


光の事で色々あり過ぎてそれどころじゃなかったし?


「わー!おっきな蟹さんです!」


…だと言うのに当の本人は動揺一つしないで呑気にそんな事を言ってやがる…。


「お前…もっとキンチョール?


ん…?緊張感を持つの…。」


そんな光を見て呆れ顔で雫が言う。


「うん、それに関しては激しく同意だが一回言い間違えてるせいでお前にも全然緊張感を感じられねぇよ…。」


「言ってる場合!?


ここは私達でどうにかしないと!」


ほら…凪に怒られたじゃないか…。


「光、とりあえずお前は金城さんと二人で逃げろ。」


「ラジャーですー!さ、金城さん。」


「え、ちょ、海真先輩達は!?」


「今は事情を説明してる場合じゃないんだ!


良いから早く!」


「わ…分かりました。」


何処かまだ納得しきれていない表情で渋々背を向ける。


「で、でも…どうかご無事で…。」


そう言って何度も振り返りながら光と一緒に走り去る。


「さ~て、これで心置き無く戦えるね。」


木葉のその言葉を合図に、全員が化け物に向き直る。


まず最初に仕掛けたのは凪だ。


素早く巨大蟹に近付き、どこから取り出したのか武器であるかぎ爪で引っ掻く。


が、しかし。


「っ…!」


巨大蟹の甲羅は想像以上に堅く、傷一つ付けられないまま弾かれる。


「ならこれならどうなの!?」


次に仕掛けたのは雫。


指の先から出した水を凍らせてハンマーの形にすると、それを思いっきり甲羅にめがけて叩き付ける。


「やったの!?」


鈍い音はした物のやっぱり傷一つ付けれていない。


「そんな!」


雫が驚きを隠せずに居ると、巨大蟹は雫に向けてその大きな鋏を振りかざす。


「危ない!」


そこへとっさに俺が割って入り、それをバリアで防ぐ。


「ふ、ふん…。


こそ泥の癖に気が利くの…。」


「言ってる場合かっての…。」


「う~ん…どうやら物理攻撃は全く通用しないみたいだね。


厄介な事に水タイプだから水も効かないだろうし~。」


と、木葉がそれを見て冷静に分析する。


「一応物理攻撃以外の攻撃で攻めるんなら私の得意分野ではあるけど…。


そもそも蟹に音の力って効くのかしら…?」


「確か蟹って耳無かったよな…。」


「う~ん…なら超音波も使えないね…。」


「となると好き勝手暴れ回られるぞ…。」


「そうだね…。


まぁでも倒す事は出来なくても動きを封じるだけなら何とかなるかも?」


「本当か!?」


「うん、多分ね。


雫っち、あの蟹凍らせれる?」


「お安いご用なの!」


雫が巨大蟹に向けて巨大なクリスタルを飛ばす。


雫の必殺技、クリスタルアイ。


触れた物を瞬時に凍らせる絶対零度のクリスタルを放つ技だ。


それに当たった巨大蟹は瞬く間に凍り付く。


「おぉ!やった!」


「いや…!喜ぶのはまだ早い!」


「え?」


凪の叫び声で再び巨大蟹を見ると、なんとその氷を無理矢理打ち砕いてまた動き出したのだ。


「マジかよ!?」


「な…なんて奴なの!?」


「嘘…これでも駄目なんて…。」


驚きを隠せない雫と、作戦失敗にショックする木葉。


「くそ…せめて何処かに弱点でもあれば何とかなるのに…。」


体全体を堅い甲羅で覆われている巨大蟹。


それはまるで西洋の騎士のように完全防備。


全く死角が無い。


「万事休すか…。」


「全員揃っていると言うのに随分と情けないザマね…。」


と、その時だった。


非常に聞き覚えのある皮肉全開な声が聞こえてきた。


「茜!?」


それに気付いた凪がその名を呼ぶ。


おいこら、出番とかどうでも良いんじゃなかったのか…。


狙ったように美味しいタイミングで出て来やがってからに…。


「あら…折角雨に言われて助けに来てあげたと言うのに随分ね。」


「そりゃどうも…。」


「でも茜…。


あの巨大蟹には一切物理攻撃が効かないんだよ…?」


と凪が口を挟む。


「問題無いわ。」


それにあっさりとそう返す茜。


「問題無い…?」


「前に読んだ絵本に北風と太陽、と言うお話があったのですー。」


俺の疑問に、突然背後から現れた光がそう返す。


「光!?お前!?」


「金城さんも居るのですー。」


「あちゃ~見られちゃったか~。」


と、木葉。


「彼女、やっぱりこのまま逃げるなんて無理だと言って聞かなかったのですー。


責任感の強いお方なんですね。


だから直接見てもらったのですよー。」


「あ、あなた達は一体…。」


「まぁ…見られたんなら仕方無いだろ。


でもさっきも言ったが説明は後だ。


光、その北風と太陽が何だって?」


「このお話は、ライバル同士の北風と太陽がどちらが先に旅人の服を脱がせられるかで勝負するお話なのはご存じですよねー?」


「まぁな、昔読んでもらったし。」


北風は旅人の服を吹き飛ばそうとするが、逆に旅人は寒さから更に厚着になる。


対して太陽は、その暑さで旅人に服を脱がさせたのだ。


「…つまりはそう言う事よ。」


茜は何枚かの札を取り出し、巨大蟹に投げつける。


それが巨大蟹の体中に張り付き、茜が指を鳴らすとそれが一斉に燃え上がる。


これにはさしもの巨大蟹も耐えられずに暴れだし、そのまま海に逃げようとする。


「あ、逃げるよ!」


木葉が叫ぶ。


「無駄よ。」


茜が更に指を鳴らすと、海の水がぐらぐらと煮えたぎる。


「す、すげぇ…!巨大蟹が茹でられていく…。」


既に動かなくなった巨大蟹は、見る見る内に変色していき…。


やがて消える。


「消え…た。」


「前の蛙の時もそうだけど、こう言う化け物は倒すと消えるみたいだね。


環境に優しいじゃん~。」


それを見届けた木葉はそんな呑気な事を言っている。


「地球にはちっとも優しくないけどな…。」


「あーん…残念ですー…。


蟹さん食べたかったのにー…。」


と光。


こいつら本当に呑気だよなぁ…。


「まぁ…ひとまず何とかなったね。」


と凪が肩をすくめる。


「何とかな…。」


「お昼にしよっか。


彼女にも事情を説明しなくちゃいけなさそうだし?」


そう言って金城さんに目を向ける。


金城さんはそれに無言で頷く。


「そうだな。」


そして俺もそれに同意する。


「茜も一緒に来るんだよ。」


再び背を向けて去ろうとする茜の手を、凪が掴む。


一瞬露骨に嫌そうな顔をしたものの、諦めたのか、一つため息を吐いてから渋々それに従った。


それぞれが別荘に向けて歩き出す。

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