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夢幻  作者: 遊。
第四巻第二章

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いざ、夏合宿!


 合宿当日。


「おーい、光!準備出来たかー?」


今日の天気は雲一つ無い快晴。


最高の合宿日和り。


と、言いたい所だが…。


夏真っ盛りの晴れ間と言うのもあってこの日の気温は余裕で三十度を超えていた。


今は光が出てくるのを玄関で待っているのだが、外に出る前から既にもう暑い。


出たらもっと暑いんだろうなぁ…。


「桐人さん!お待たせですー!」


「おう。」


出てきた光は母さんに買ってもらったらしい白無地のワンピースに水色リボンの麦わら帽子と言うコーデで玄関に出て来た。


元々清楚なイメージが強い光には白のワンピースがよく似合う。


「えへへ、どうですかー?」


「あーはいはい。


我が家一可愛いよ。」


「返事が適当ですー…。


それに一番の規模が狭過ぎではないですかねー…?」


「何言ってんだ、我が家で母さんを超えるのは偉業なんだぞ?


もっと喜べって。」


「むー…素直に喜んで良いのかどうか分からないのですー…。」


「それよりさっさと行くぞ。


木葉は多分…いや絶対遅れて来るだろうけど他の奴らはもう来てるかもしれないし。」


「何だか上手く交わされたような気がするですー…。」


「気のせい気のせい。」


適当に返し、ドアを開く。


想像以上の熱気と日照りで一瞬またドアを勢い良く閉めたくなる衝動に駆られたが、覚悟を決めて外に出る。


「えいです!」


「うぉう!冷た!」


急にほっぺたに押しつけられたのは凍っているお茶のペットボトル。


「びっくりさせんなよ…。」


「桐人さんが悪いのですー!」


そう言ってわざとらしく口を膨れさせた光は、俺を置いて先々スタスタと歩いて行ってしまう。


「やれやれ…。」


とは言えそのペースはゆっくりで、それに俺もゆっくりと続く。


「良いお天気ですね、桐人さん。」


ふと、背を向けたままそう言ってくる。


「…そうだな。」


「上手くいくと良いですね。


合宿も、茜さんの事も。」


「あぁ。」


そう言う光の表情は見えない。


でも語り口は真面目な時のそれで、光自身もそれを強く願っていると言うのがよく分かった。


「絶対に良い物にする。


俺達にとっても、あいつにとっても。」


「ふふふ、頼もしいですね。」


そう言って再び無言のまま歩き出す。


とは言えそれは居心地の悪い無言と言う訳じゃない。


その証拠に、光に至ってはさっきまでの拗ねた態度など一切無くなって今では呑気に鼻歌なんか歌っている。


「沢山思い出、作りましょうね。」


振り返った光は笑顔だった。


それは照りつけて暑苦しい真夏の太陽なんかじゃなく、肌寒い冬に差し込んでくる温かい日差しのようで。


どこか安心さえするような、そう言う確かなぬくもりを感じられる物だった。


「おう。」


それに俺も短く返す。


そのまましばらく歩いていると、集合場所である神木駅が見えてくる。


「あ~!キリキリおっそい!」


「ま…マジかよ…。」


馬鹿な…。


木葉が俺より早く来てるだと…?


あり得ない光景に俺は戦慄し、その場に立ち尽くす。


「ぶふぉww反応失礼過ぎじゃねwwww?」

                                                                「だってお前…こないだも遅刻してただろうが…。」


「だから~あの時は止むに止まれない事情があったんだってば~。」


「あぁ、そうだな。


その止むに止まれない事情がどっかで聞いた事のあるパロディーじゃなかったらもう少し説得力があったんだろうがな…。」


「あはは、そう言えばそんな事言った気がするわwww」


「てめぇwww」


「それに今回は一応発案者なんだからさ、そりゃ一番に来るよ~。」


「まぁ、普通はそうだよなぁ。」


こいつって実は結構適当な様に見えて意外と律儀な所もあるのかもしれない。


「ってちょっと待て…。


こないだの呼び出しもお前の発案じゃなかったか…?」


「キリキリこまか~い。


それはそれ、これはこれだよ~。」


「どれはどれだってんだよ…。」


「それはそれだよ~。」


駄目だこれキリがねぇ…。


今日の木葉のコーデも、前回同様ボーイッシュで統一されている。


黒のキャスケットに、半袖シャツとショートパンツ。


で、それより明らかに目立っている巨大な鞄。


「一応聞くけどその鞄はなんだ…?」


「え?ひ、み、つ。」


「お菓子だな。」


「違う違う。


お、や、つ。」


「同じだ馬鹿…。


それに言い方をわざわざ揃えんで良い…。」


「だって六食付きって言ったじゃん~。」


「いやそれお前が手で持ってくる感じだったのかよ…。」


と言うかその大きさだといくら全員分のおやつ(二回分)にしたって多過ぎやしないか…?


「はぁ…貸せよ、持ってやるから。」


「わ~お!キリキリやっさすぅい!」


言いながら俺にそれを差し出してくる。


一瞬それをそのまま海に放り込みそうになったが、まぁ…それはそれだ。


「木葉さん、おはようございますですー!」


「お、光ちゃんおはよ~。」


そう言ってハイタッチする二人。


すっかり仲良くなったよなぁ…この二人。


何だかんだ相性が良いのかもしれない。


「あ、てかお前!光に変な事吹き込んでんじゃねぇよ!」


危ない危ない、文句言うのを忘れていた。


「え~…面白いと思ったんだけどな~。」


「とても勉強になったですよー?」


「なるか馬鹿…。」


「あ、桐人君おはよう。」


「おう、おはよう。」


次に来たのは千里。


相変わらず可も無く不可も無くの地味コーデの千里は、水色シャツに水玉ミニスカート。


「今日も暑いね。」


「だよなぁ。」


とりとめない会話を交わし、心が落ち着く。


本当に千里と居るとのんびりと粗茶を飲んでるみたいな感じで和むよなぁ…。


それは長い時間をかけて築いてきたお互いにとって良い感じの居心地。


やっぱ幼馴染ってこうだよなぁ。


「海真先輩、おはようございます。」


そう言って次にやってきたのは金城さんと白石。


白石はすっかり鼻の下を伸ばしてるが、金城さんは涼しい顔。


普段のすらっと長い黒髪はシュシュで腰辺りの所に纏めてある。


キリッとした目元が覗く黒縁眼鏡に、半袖白シャツとチェック柄ミニスカートを合わせたコーデ。


「今日からよろしくお願いします。


…一応染咲先輩も。」


言いながらチラリと木葉の方に目を向け、すぐに反らす。


「な~んで発案者の私への挨拶が一応なのかね…?」


「あぁ、居らしたんですか。


眼中に、ありませんでした。」


「へ~…良い度胸だね~…。」


遭遇してから一分としない内にこれだもんなぁ…。


ちなみに眼中にの後の句読点はけして誤用ではない。


そこで区切る事によってよりその言葉を強調する為であろう金城さんの意図がありありと伝わってくる。


本当…仲悪過ぎだろう…この二人…。


「皆さん、お久しぶりです。」


「どわ!?」


急に背後から声をかけられ、思わず声が裏返る。


おまけに振り返って見たその人が、かの有名なトイレの花子さんにそっくりな女の子だったらその驚きもひとしおだろう。


「あ…あぁ…御手洗さん、おはよう。」


彼女こそ、御手洗花子。


赤のサスペンダースカートに白シャツとまんまそれなコーデで現れた彼女は、にこやかにお辞儀をしてくる。


そして俺もそれにつられてお辞儀する。


雰囲気こそそれっぽいが基本悪い子じゃないんだよなぁ…。


ただ見た目の雰囲気で悪く見られがちなだけなのだ、本当に。(強調)


「お、かこちゃんおはよ~!」


御手洗さんの到着に気付いてさっきまで金城さんと火花を散らし合っていた木葉がにこやかに手を振る。


「うん、おはよう。


今日は誘ってくれてありがとう。」


「へへへ~良いって事よ~。


あ、ちなっちゃん!こっちこっち~!」


「え、ちなっちゃんも来んのか?」


「こらぁ!ちなっちゃんって呼ぶなって言っただろうが!」


自慢の赤髪をツインテールにしたちなっちゃんは、また暑いのにわざわざスーツ姿だ。


「私の事は校長かっこ臨時かっこ閉じると呼べって言っただろう?」


「え~!長くてめんどくさ~い!


もう臨時さんで良い?」


「ふむ、それなら良し。」


いや…良いのかよ…。


「それじゃ、臨時さん。


今日来た経緯の説明をどうぞ~。」


そう言って木葉が促すと、


「いや実はさ、私こないだ倒れたじゃん?


その後の職員会議でそれは私に任せっきりにした教頭のせいだって話になった訳。」


うん、誰だか知らんがその意見を出した教師、グッジョブ。


「で、その罰として、夏休み中の活動に関しては教頭が校長の代わりを務めるって事になって私は夏休みを貰えた訳ね。


でも折角臨時でも校長になったのに何もせずに夏休みってのもどうかと思うじゃん?


そこで染咲さんから合宿の引率をしてほしいって言われて引き受けたって訳。」


哀れ教頭…。


もう最初からそうしたら良かったんじゃね?


とか言わないでおいてやろう…。


「へぇ、引率はちなっちゃんか。」


そう言って顔を出したのは部長の蟹井。


「だからちなっちゃんって呼ぶな!」


「悪い、色々事情があって遅くなった。」


「うん…良い…。


お前に関しては大丈夫だ。」


「ちょww私との扱いの差ww」


蟹井の口に出せない要件を察して言った言葉に木葉が不満の声を漏らしているが、知った事か。


お前と蟹井とじゃ要件の重みが違うのだ…。


さて、これで俺達白神高校のメンツは勢揃いと言う事になるのだろう。


あとはあの四人だよなぁ…。


「あ、遅くなってごめん!」


そう言って駆け寄ってくる凪はウエストまでざっくりスリットが入った白のTシャツワンピにデニムブルーのジーンズを合わせた爽やかで大人っぽいコーデ。


三人の中では最年長と言うのもあり、イメージにもピッタリだ。


「あ…こそ泥なの!」


「おう、お前も居たのか。」


その横にはもじもじと凪の背中にしがみつく雫。


可愛らしいキャラ物のシャツにミニスカートと言った子供らしいコーデ。


トレードマークの黄色のデカリボンも勿論忘れない。


「雫、あんまり大勢の人に慣れてないから人見知りしてるんだよ。」


と凪が一度雫の方にちらっと目を向けてから教えてくれてる。


「なるほど。」


こう言う所は本当に子供っぽいよなぁ…。


「お~!二人ともおはよ~!


…ってあれ?茜っちは?」


「あぁ…。」


木葉の問いかけにそう生返事を返し、凪は後ろに目を向ける。


「これは…違うのよ…。」


つられて俺と木葉が後ろを見ると、後方数メートル先にある電柱の陰に隠れてそう呟く茜の姿があった。


「茜…?」


近付いて声をかけると、


「だから違うと言ってるじゃない…。」


そう小さく返してまた隠れる。


と言っても隠れきれてなくて普通に見えてるんだよなぁ…。


渋々出てきた茜はいつもと全く違った印象だった。


思わず見惚れて言葉を失う程に。


麦わら帽子に花柄のワンピース。


普段の巫女服姿からは全く想像出来なかった清楚コーデは、前述した感想の通りにピッタリと似合っていた。


「そんな下卑た目であまり見ないで頂戴…。


折角の新しい服が汚れるわ…。」


「お、俺の目にそんな物理的攻撃力はねぇよ!」


うん、一瞬本気で別人じゃないかと思ったがこの毒舌っぷりは間違いなく茜だわ…。


「え~!茜っち!?すっごい!」


「似合ってるっしょ、茜。」


大興奮の木葉にそのまま茜を取られる形になり、所在なく立ち尽くしていると凪がそう横から声をかけてきた。


「ま…まぁ。」


「だって茜…私があの服を用意しなかったらいつも通りここまで巫女服で来るつもりだったんだよ?」


「うん、容易に想像出来るわww」


ついでにそのまま電車に乗って周りから奇異の眼差しを向けられるのが目に見えるわ…。


まぁもっとも、今周りからあいつに向けられている視線はそれとは全く逆の物だ。


道行く人達の中には、俺と同じように立ち止まって見惚れる通行人が男女問わずちらほら居る。


彼らのその目線の先に居るのは、沢山の人間を死に追いやった死神神社の巫女ではない。


異彩を放つ美しい一人の少女なのだ。


「勿体無いよね、元が良いのに全然おしゃれとかしようとしないんだもん。」


木葉にちやほやされている茜を遠い目で見つめながら、呟く凪。


実際、その通りだ。


前提さえ間違ってなければ茜だって何不自由無くあの場に入れていた筈なのだ。


普通に女の子らしくおしゃれしたり、買い物したりカフェでスイーツを食べたり、最近だと友達とタピオカミルクティーなんかを飲んでみたり。


そう言う何気無い日常をきっと普通に送れていた筈なんだ。


それは茜だけじゃなく凪にも雫にも言える事だが。


「いや、その…お前も似合ってると思うけどな。」


「あ…。」


言われて一瞬固まる凪。


「生意気…。」


かと思えばそう小さく呟いてそっぽを向く。


「でも…ありがとう。」


「おう。」


そんなやりとりを交わしていると、どこからか冷たい視線を感じる。


大変嫌な予感がしたので辺りを見回してみると…。


黒ワンピ姿の雨が居た。


「よ…よぉ。」


そう言えばこいつを呼ぶ事が茜の出した条件だったな…。


俺が怖ず怖ずと手を上げて挨拶すると、


真顔でそっぽを向き、ホワイトボードに何か書いて突きつけてくる。


【おはよう。


裏切り者のロリコンさん。】


「うぐっ…。」


【どうしたの?裏切り者のロリコンさん。】


分かっていた事ではあるが…。


俺は雨の警告を無視した訳で。


実際予告していた通り、あれから一切雨からの連絡は無かった。


まぁ元々頻繁にやりとりするような間柄でもなかった訳だが…。


【あ、ちなみにこの場合の裏切りは二つの意味だから。】


「一つは俺の決断の事だろ…?


一応聞くけどもう一つはなんだよ?」


【もう一つはロリコンなのに大人の女性にまで手を出すなんてって意味で。】


「あほか…。」


ほら!凪が冷めた眼差しで後退りしていったじゃないかww


【あなたがそのつもりなら、私は私のやリ方で進めていくだけ。】


「そうか。」


【あ…それに関してはロリコンの件は関係無しね。】


「いやそこは言われなくても分かってるわ!」


【さて、そろそろ書くのが面倒になったからここまで。】


いや、打ち切り方が雑過ぎんだろww


【でもこれだけは言っておく。


あなたが選んだ選択を今更責めるつもりはないけど、それでこれからどうなっても知らないよ?】


「っ…!」


【あなたにとっての幸せや喜びが全ての人間の共通認識な訳じゃない。


まして茜は知っての通り普通の人間であって普通の人間じゃない。


その辺りも含めてもう一度じっくり考えてみる事だね。】


「おう、サンキュー。」


【別に、言ったでしょ?


私はもうあなたに協力は出来ない。


これは助言じゃない、ただの警告。】


「へいへい、肝に銘じておくよ。」


その返事を聞いて、雨は一度鼻で笑うとホワイトボードを鞄に入れて茜が居る方に歩いて行った。


あいつはあぁ言ってるけどあれも多分手助けなんだろうな…。


私は私のやり方で、か。


なら俺も俺のやり方で進めて行くだけだ。


あいつが普通なようで普通じゃないなら、完璧な普通には出来なくても限りなく普通の人間に近付けてやる。


これまで苦しんできたんだ。


それぐらい許されたって良いだろ…?


「キリキリ~!何やってんの~!?


電車もうすぐ来るよ~!」


「おう、今行く!」


よっしゃ。


頬を叩き、気合いを入れ直す。


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