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夢幻  作者: 遊。
第四巻第一章

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42/142

突然の警告と決意


彼女のクラスである一年四組の教室を覗くと、すぐにその姿が見付ける事が出来た。


と、同時に俺の顔を見たそのクラスの女子達がひそひそと事実無根な噂話を始める。


「あ…あの人ロリコンって噂の…。」


っぐ…!?そう、大変遺憾ながら…。


今俺は訳あってそう言う風に噂をされているのだ。


そして…その主な原因がさっき説明した光。


あいつが学校にまでついて来て勘違いされるような事を言いやがったからなのだ。


誓って俺自身がロリコンだからではない!


まぁ…一応今のところは木葉の案で親戚と言う事にして噂を広めてもらっているのだが…。


まだ日も浅いし学年も違うし、疑惑は解けてないらしい。


「あ~えっと、そう言うのじゃないから…。


そこに居る金城さん呼んでもらえる?」


「あ、梓を!?どうする気ですか!?


梓は小さくないですよ!」


「いやちげぇよ!?


どうもしないし別に小さくなくても良い!」


「ど…どこを見て言ってるんですか!?


やっぱりどっちみち変態なんですね!?」


「理不尽!」


別に俺は何も見てない!てかそれ誘導尋問だろう!?


「あの、私達は彼女がホラー研究会の部員だから集会があるって言う事を伝えに来たんだけど…。」


と、そこで見かねた千里が代わりに要件を伝えてくれた。


「あ、そうだったんですね!」


おい見ろ…。


この雲泥の差の扱いを…。


「そう言う事でしたら呼んできますね。


少々お一人でお待ちください。」


俺ナチュラルに除外されてる!?


しばらくしてたっぷりの舌打ちを浴びたもののなんとか金城さんを呼んでもらえた。


「えっと…何か…?」


ほら!?金城さんの目が怖いんだけど!?


「あ、あのさ…実は今日この後ホラー研究会の集会があって家に荷物を置いたらソイゼに来て欲しいんだけど…。」


「…あぁ…はい…でも…。」


うわぁ…めっちゃ警戒されてんじゃん。


「いや、そんな警戒しないで良いよ。


もしさっきクラスの人達がしてた噂話しが気になるって言うんならあれは誤解なんだ。


こないだ連れてきたのは俺の親戚だしそう言うのは全く無い。


で、こないだからの事が気になるんなら木葉はちょっと…いや…かなり変な奴だけど悪い奴じゃないから。」


「…ちょっと信じられないです。」


え、それってどっちが?


場合によっては俺が泣くぞ?


「だってこないだからずっと白石君様子がおかしいし…。」


うん、それは間違いなくあいつのせいだ。


白石には悪いが、そっちの事だと分かって少し安心する。


「この間も…その、白石君…。


気絶させられてなかったですか…?」


「あ…あぁ…。」


うん、これ言い逃れのしようがないわ…。


「そう言うの…あんまり良くないと思います。」


う~ん…。


そこを突かれたら正直反論のしようがないぞ…?


ここは一つ攻め方を変えてみるか。


「あのさ、金城さんはその…ホラー研究会に全く興味無い?


今は、その…好きじゃないよね?ここの部活。


今後も来たいって言う気にはならない?」


「それは…。」


俺の言葉に少し考え込む仕草を見せる。


とりあえず、即答ではいって言われたら流石に立ち直れなかった…じゃない。


望みは無かっただろう。


でもとりあえずそうじゃない。


迷っていると言う事は、どこかで来たいとも思っている筈だ。


なんだかんだそう言う思いがあるからこそこれまで顔を見せようとしてくれてたんじゃないか。


まぁそのタイミングのせいで変な誤解(いやこれ本当に誤解なのかなぁ…?)を受けてきた訳だが。


とにかく、そう言う意志が全く無いなら多分とりつく島も無かっただろうし、なら今俺がすべき事は、必死に未練がましく説得する事じゃない。


そんな女々しくて女々しくて辛いよ…なんて事をしたら、今より酷い噂が立っていよいよ学校での俺の地位が危うくなる…。


多分今俺が彼女に口でどんなに説明しても伝わらない物はあるだろう。


そして、それが許せない程俺も横暴では無い。


それなら、


「もし、その気が全く無い訳じゃないならさ。


集会もだけど…合宿、来てみない?」


俺の言葉に金城さんははっと目を見開いて口ごもる。


「俺達の部活の事はさ、多分俺がどんなにじっくり説明しても伝わるもんじゃないと思う。


仮に伝わったとしてもそれは俺が楽しいと思ってる姿だし金城さんにとってはそうじゃないかもしれない。


だからさ、実際この部活がどんなものなのかってのは金城さん自身が見て決めてほしいって言うか…。


その為に合宿は良い機会だって思うんだけど…。」


「なんだか良い様に言いくるめようとしてませんか…?


白石君の事だって結局何も解決してないし…。」


くぅ…!中々手強い…。


「べ…別にそう言うつもりじゃないって。


嫌なら嫌で全然構わないし、迷ってるんなら考えてみてほしいってだけだから。」


「そう…ですか。」


一つため息を吐く彼女。


「もし先輩が、自分の価値観ばかりを押し付けて、おまけにそれを強制までしてくる横暴な人なら正直門前払いで良かったと思うし、多分実際にしてると思います。


そう言う人、本当に無理なんで。」


「うっ…。」


中々きっつい子だなぁ…。


「でも先輩は価値観の決め方も、行く行かないの選択も自分で決めて良い、強制しないと言ってくれました。


正直染咲先輩の事に関してはあまり信用出来ませんが…。


海真先輩の事はひとまず信じてみます。


だから今日の集まりには参加してみますね。


合宿に参加するかはそれ次第と言う事で考えさせてください。」


「…そっか。


了解、そんじゃ、後でな。」


「はい。」


合宿の参加は分からないにしろ、とりあえずソイゼには来てくれるみたいだ。


ひとまず結果としては問題無かろう。


その場で金城さんと別れ、再び千里と歩き始める。


「金城さん、来てくれるみたいだね。」


「そうだな。」


「合宿にも来てくれると良いね。


折角の合宿だもん。


やっぱり皆で行きたいよね。」


「だよなぁ…。」


去年は部活の合宿なんて無かったし、考えてみたらあいつらと泊まりに行くってのは初めてになるのか。


うーん、嫌な予感しかしない。


あの馬鹿(木葉)が何しでかすか分かったもんじゃない…。


とは言えそれを含めても楽しくなるんだろうなぁ。


あいつらと一緒なら。


そうやってこれまでもやってきたんだから。


そしてこれからもきっと。


〈楽しそうだね、ロリコンさん。〉


「んな!?」


「き、桐人君?どうしたの?」


「あ…いや悪い千里。


付き合ってもらっといて悪いんだけど先に帰っててくれるか?」


「あ、うん。


別に良いけど何かあったの?」


「ちょっとな。


そんじゃ、後で。」


「うん。」


千里と別れ、誰も居ない教室に入る。


とりあえず手近な机に鞄を置き、その場に腰掛ける。


「…何の用だ?」


〈幼馴染を帰らせてこんな人気の無い所に私を連れ込もうだなんて…。


相変わらず救いようのないロリコンさんだね。〉


「あほか!!連れ込んでないしそもそもお前はこの場に居ないだろうが!」


〈居たらしてたんだ…。〉


「いやしねぇよ!?」


くそ…言いながら後ずさってる姿が目に浮かぶぞ…。


こいつの名前は雨。


占いの店を一人で開いてる少女。


訳あって協力関係を結んでいる。


ちなみに占い師って言ってもこいつの場合は占うんじゃない。


実際にこれから起こる未来をその目で見ているのだから本来なら予言と言った方が正しいだろう。


今こうしてこの場に居なくてもこいつと普通に話せているのは、こいつが持ってる力のテレパシーによるもの。


どう言う訳か普通に口で喋る事が出来ない雨は、目の前に居てもホワイトボードなどを使った筆談での会話が基本だ。


「お前なぁ…こないだも急に話を打ち切りやがって…。


おまけに戻ってきてみたらもう居なかったし。」


〈あの時は邪魔が入ったからね。〉


「でもだからって急に帰る事ないだろ…。」


〈急に帰られて寂しかったって?


聞きしに勝るロリコンさんだね。〉


「お前は何処の武将だよ…。


それに俺はロリコンじゃない!


ただお前が言った言葉が気になったから真意を聞きたかっただけだ!」


先日、こいつは俺に言ったのだ。


言ってみれば茜が死神神社の巫女になったのは私のせいだと。


〈真意…ね。


別に聞いたままの意味だけど?〉


「じゃあこうして話しかけたのはその話をする為なのか?」


〈違うよ。〉


見事なまでの即答だな…おい…。


「…ならまたからかう為だけに出てきたとでも言うのか…?」


〈なんで分かったの…?もしかして読心術でも習得したの?〉


「わざと言ってるよなお前…!?」


〈…まぁ冗談はこのくらいにしとこうか。〉


こいつ嫌い…!!


〈単刀直入に聞くけど、あなたは茜と今後どうなりたいの?〉


「…また随分唐突な質問だな…?」


急にそんな事言われてもなぁ…と考えていたところで、


〈茜だけじゃない、凪も雫も。


三人とどうなっていきたいと思ってるの?〉


「どうなってって言われても…。」


これは前にも思った事だが、俺と茜達の出会いはそもそも前提がおかしいのだ。


何故なら彼女達死神神社の巫女三人は、生前に自殺した魂が無理矢理死神の手で生き返らされた存在だからだ。


先日光の口からその事実を伝えられた俺は、ただひたすらに納得がいかなかった。


茜が自殺していたと言うのは前に聞いていたから知っていた。


でも他の二人、そんなそぶりを見せない凪や、まだ小さな子供である雫もそうなのだと言われて素直にはいそうですかだなんて言える筈がなかった。


いや、まぁ勿論茜ならしかねないと思ってる訳でもないのだが…。


話を戻そう。


もし彼女達が、本当に自殺していたなら。


本来俺と出会う事なんて無かったし、死んでしまえばそもそも先が無いのだ。


なのに俺は彼女達と出会った。


まるでそうなる事が最初から決まっていたかのように。


「そりゃ…今よりちょっとは良くなれば、とは思うよ。


折角出会って仲間にもなれたんだし。」


〈仲間、ね…。


あなたに一つ警告をしておく。


彼女達と今以上の関係にはならないで。〉


「…は?」


〈前にも話したと思うけど、私は光のやり方に納得した訳じゃない。


今だって私一人で充分だと思ってるし、何より今以上の関係をあなたと茜が築く事も私としては賛成出来ない。〉


…ちょっと待てよ…?


これってまさか主人公が自分以外のヒロインと仲良くなるのが嫌だからって感じのヤキモチイベント?


〈こんな年端も行かない少女まで妄想ギャルゲーのヒロインにするなんて…。


本当に万夫不当のロリコンさんだね…。〉


「だからお前は何処の武将だっての…。


ちょっと冗談で言っただけだって。」


〈真面目な話しに冗談で返すのはどうかと思うよ?〉


「お前が言うな…。」


〈それに私はあなたが三人と今以上の関係にさえならなければ別に他の誰とどうなろうが構わない。


あ、出来れば私とも無しの方向で。〉


「だから別に求めてねぇよ…。


でもそこまで言うならその根拠を教えろよ。


お前がそう言うからにはそう確信出来るだけの根拠が有るんだろ?」


〈まぁね。


それが何かは今言わない。


でもこの警告を無視したらいずれ取り返しがつかない事になるよ。〉


「っ…。」


一切の迷いも躊躇も無いはっきりとした口調に、思わず身震いする。


〈この警告を聞くも聞かないもあなた次第。


でも聞けないと言うのなら私は今後あなたに力を貸す事は出来ない。


後はあなたのとても頼れるボディーガードにでも助けてもらえば良いと思うよ。〉


「…絶対皮肉で言ってるよな…?」


〈あ、でも仮に三人と今以上の関係にならなくても光とそうなったら別の意味で問題になるから気を付けた方が良いよ?〉


「なるか馬鹿!?


一々話しをそっち方面に持って行くんじゃねぇ!」


〈もしそうなったら、これで晴れて古今無双のロリコンさんだね。〉


「いやそっちかよ!?」


普通に流れで三國の方かと思ったわ…。


それになんだ、その実際に言われても達成感も何も無い最悪な肩書きは…。


〈だってここは日本でしょ?〉


そうだけど…!やっぱり意図的に言ってやがったのか…!


と言うかこいつ本だけじゃなくてゲームまでやんのかよ…。


〈ともかく、私からは以上だよ。


これからどうするべきか、よく考えてみる事だね。〉


その言葉を最後に、雨からのテレパシーは途切れて辺りは不気味な程の静寂に包まれる。


「あいつらと今以上の関係になるな…か。」


そもそも、茜と俺の間柄は関係と銘打てる程の物なのだろうか?


実際最初から親しみ易かった凪とは友達とかそう言う親しみを込めた名前で呼べるような関係になれたと思う。


でも俺と茜の関係の場合はそうじゃない。


ただお互いの未来を変える為に必要な限りで助けてもらうくらい。


茜の方から助けを求めて来る事はまず無いし、俺から助けを求めなければ、ピンチになって助けてもらったりしなければ、そもそも関わる事すら無い関係。


それは、友達と言うより仕事で仕方無く関わってるみたいに必要最低限の事務的な関係。


雨はこの関係を続けろと言う。


俺としては、そりゃちょっとはマシになればとは思う。


でもそもそも友達にすらなってない俺達の関係が、そんなに突然大きく変化したりするものなのだろうか?


そもそも雨が言うそれ以上の関係とはどれ程の関係だろう?


友人関係?それとも恋愛?


いやいや…いくら何でもそれはないわ…。


ついこないだ夢の中で散々その現実を突きつけられたばかりだろう…。


でもならせめて友達ぐらいには…。


うーん…そもそも関係と言う物自体、お互いの合意があって初めて成り立つ物だろう。


俺個人がそう願った所で悪くする事は出来ても良くは出来ないのではないか?


逆にあいつは俺とどうなりたいんだろう?


普段俺に対してあんなにも口が悪いのは、わざと関係を悪くする為なのだろうか?


まさか雨の言う事に従ってそれ以上になろうとさせない為なのか。


それとも元々の性格による無意識からなのか。


いや、そもそもあいつは俺だけに限らず一緒に暮らしている凪や雫に対してもけして良い態度で接してるとは言えないし、誰だからと言う訳でもないのか。


でもそれはそう言う性格だからと言う証明じゃない。


誰とも関係を築く気がないと言う強い意志の表れなのだろう。


つまり雨が言う取り返しのつかない事態を避ける為には、関係を維持するだけじゃなく、茜自身もそのままで居続けなくちゃいけないのではないか。


「そんなの…おかしいだろ。」


ただ人の心を試す為に生まれ、沢山の人を死に追いやる事しか生きる意味も無い。


それは絶対褒められた物じゃないし、恨まれもするし怖がられもする。


生まれただけで忌み嫌われる彼岸花のように、それを嘆いたところで、誰もその涙を拭ってさえくれない。


そんなのあんまりだろう。


彼岸花を美しいと愛でる人間が居たって良いじゃないか。


存在する事を許してくれる人間が居たって良いじゃないか。


雨は、それ以上になれば取り返しのつかない事になると言う。


でも俺は、そのままでい続ける事だって同じくらい残酷なように思う。


勿論今あいつが変わっても、これまでしてきた事実が消える訳じゃない。


でも、これ以上その犠牲者は出ないし、あいつの負担だってきっと減る筈だ。


あいつにも普通に生きて幸せを願う権利くらいあって良いじゃないか。


「帰ろう。」


起き上がって鞄を掴んでから教室を出る。


別に今はあいつとの関係に大きな変化がほしい訳じゃない。


あいつの事は今も憎たらしいけど、でもあいつはなんだかんだいつも俺を助けようとしてくれたじゃないか。


実際に協力もしてくれたあいつの為に、俺だって出来る事をしたい。


「おっと…そう言えば急がないと…。」


この後集まりがある事をすっかり忘れていた。


下駄箱まで小走りで向かい、慌ただしく上靴を突っ込んで走り出す。


そのまま校門前まで来たところで、


「あ、桐人さーん!」


なんか猛烈に見覚えのある幼女が見えた。


俺の姿を見付けるやいなや、満面の笑みで勢いよく手を振ってくる。


「なんで居るんだよ…。」


そう、こいつが光。


雨が言うところのとても頼りになるボディーガード様だ…。


「来ちゃった!えへ?」


「あのなぁ…。


あれほど学校には来るなって言ったろうが…。」


「あれれー?桐人さんはこう言われてもなんとも思わないのですかー?」


不思議そうに首を傾げる光。


「は?」


「木葉さんが待ち伏せするならそう言いなさいって言ってましたよー?


何でもこう言うのが男性が喜ぶシチューだからってー。」


「シチュエーションな…。」


あいつめ…余計な事を教えよってからに…。


「それですー!桐人さんはやっぱり頭良いのですー。」


はぁ…と言う具合に…とても頼りになるボディーガード様…だ。


「それに言われてやったんならもっとやる気出せよ…。


疑問形になってんじゃねぇか…。」


「桐人さんはその方が嬉しいのですかー?


なら次からはそうしますー。」


「せんでいいし来んでも良い…。」


「むー…桐人さんは気難しいのですー…。」


「俺が気難しいんじゃねぇよ…。


お前の脳内が色々とずれてるだけだ…。」


「むー…。」


「…で、なんで急に?」


「桐人さん、今日の終業式が終わったら夏休みだって言ってましたからー。


早速どこかに連れて行ってもらおうと思ったら寝ても座っても居られずーですー!」


「居ても立っても居られず、だろ…。


それに来てもらっておいて悪いが今日はこの後予定があるんだよ。」


「えー!?そんなー!折角お昼までとも聞いてたからお弁当を作ってきましたのにー。」


言いながら、持っていたトートバッグをフリフリする。


「え、何お前料理とか出来んの?」


「はいですー!」


「…まさかとは思うけど…それも業界の一般教養ってやつか…?」


最初の方でも少し触れたが、こいつがやっている死神の手伝いをする為には、全五十カ国語が一般教養なんだそうだ。


それもあってか、こないだもこいつフランス語を本場の人ばりに良い発音でペラペラと喋ってたんだよなぁ。


見た目がフランス人形みたいだから、その時は本当にフランス人なんじゃないかと思った程だ。


「いえいえー普段から死神様の元で家事とか身の回りのお世話をしてますからー。」


「なるほど、それなら大丈夫そうだ。」


「むー…疑ってたですかー?


味はちゃんと保証出来ますですー!」


「ってもなぁ…。


この後はファミレスだし…。


まぁ、あっちではポテトくらいで済ましとけば良いか。」


「ファミレスですかー!?


私初めてなのですー!」


「ついてくる気満々かよ…。


まぁ良いけどさ…。」


「わーいですー!」


本当、普段は普通に年相応って感じの子供なんだよなぁ…。


今となっては一緒に暮らすようになって手のかかる妹が出来たって感じだが。


「なぁ、光。


相談があるんだが。」


一応ボディーガードなんだし、さっきの事はこいつにも話しておいた方が良いだろう。


「何ですかー?


も、もしかして私達の将来のお話ですかー!?」


…と、真面目に言ったのにとんでもない事を言い出しやがるのだ。


「あほか!?わざとらしく頬を染めやがってからに!」


「私に痛い事したんですから、責任…取ってくださいね。」


と、上目遣い。


「だから言い方!どこでそんな言葉覚えてくるんだよ!?」


「木葉さんが言ってましたよー?」


「またあいつかよ!?


いや、もう予想付いてたけど!


光、お前もうあいつの言う事は聞くな…。


ロクな事にならん…。」


ちなみに誤解が無いように強く主張しておくが、こいつが言う痛い事ってのはただのデコピンだ。


それ以上でも以下でもないぞ。


勘違いしないでよね!


「えー…ぶー。」


「真面目な話しだっての…。」


「まぁ!私との事を真面目に考えてくださっているんですかー!?」


駄目だこいつ日本語通じねぇww


「一々話しを変な方向に持って行くな!


雨から言われた事があんだよ。」


俺がそう言うと、さっきまでニマニマしながら頬を染めていた光の表情が目に見えて変化する。


「…そうですか。


それで、雨ちゃんは桐人さんに何と言ってたんですか?」


それに一瞬戸惑いはしたものの、そのまま話を切り出す。


「それが…さ。」


言われた言葉を要点だけかいつまんで説明すると、


「なるほど、彼女達とそれ以上の関係にはなるな、ですか。


雨ちゃんはそう言う考えなのですね。」


「そう言う考え…とは?」


「雨ちゃんは、未来とは人と共に変わる物だと言っていましたよね?」


「あぁ、そうだな。」


それは初めて出会った時に言われた言葉だ。


これはあくまでも占いで、それ以上でも以下でもない。


未来とは人と共に変わる物だから、と。


「桐人さんも分かっている事かと思いますが、茜ちゃんと桐人さんが雨ちゃんの告げた運命を辿るのはお互いの心境に今後何らかの変化が起こるからだと思います。」


「だよな。


ならあいつがそう言うのは…?」


「はい、つまりは二人が変わらなければ運命は今のまま、と言う事になりますね。」


「だから関係を変えるなと。」


「それもあるかもですが多分それだけじゃないと思うのです。


意図せずとも人は常に変化する物ですから。


そもそも変化させない事を良しとするならば、二人を必要以上に関わらせない、もしくは出会わないようにすれば良い話しですから。」


「まぁ…確かに。


でも出会ってしまった訳だろ?」


「雨ちゃんはその未来を予知していた筈ですから、それを狙っていたのなら最初から何かしら手を打てていた筈です。


だからむしろ狙って出会わせたと言う可能性もあります。」


「狙って出会わせたって…何の為に?」


「つまりは発想の逆転ですよ。


恐らく雨さんの見立てでは、桐人さんの存在はそれだけ茜さんにとって危険だから、遠ざけるよりは目の届く所に置いておきたいのではないでしょうか。」


「な…なるほど。


でもさ、あいつは未来が分かるんだぞ?


未来が分かるんなら目下の危険にそんなに気を配る必要があるか?」


「雨ちゃんの未来予知にも弱点があります。


彼女が見る事の出来る未来は飽くまで現段階で起こる可能性が一番高い未来でしかない。


話したように未来は変わる物ですから、雨ちゃんが予知していた未来がいつどんなきっかけで大きな変化を見せるかなんて実際分からないのです。」


「…つまり、雨から言わせれば俺はその急な変化を起こさせる可能性が高い存在って事か?」


「私の仮説が正しければですが、それで間違いはないと思いますよ。


雨ちゃんは私の事を当てにしてないし、元々一人でこの事態をどうにかしようとしていた訳ですから、出来るだけ近くに関係者を纏めておきたいと考えたのでしょう。」


「なるほど、確かにそれなら筋は通ってる。


でもさ、どうにも腑に落ちないんだが…なんでその危険な存在ってのが俺なんだ?


茜と俺は実際出会わなかったら他人だった訳だろ?」


「そこは私にも分からないです。


でも雨ちゃんには茜ちゃんの未来に桐人さんが大きく関わってると自信を持って言える根拠があるのではないでしょうか?」


「根拠…ね。」


いや待てよ…?


例えばもし、死神神社であいつと会ったのが初めてじゃないとしたら?


生前の茜に、どこかで一度出会っているとしたら?


いや…でも…そんな訳無いだろう…。


俺の記憶の中で、あいつにそっくりな存在は居ないし、そもそもそんな記憶に残らない程度の人間だったならあいつにとってそれ程重要であるとは思えない。


「まぁどちらにしろ…その話を聞いて私から桐人さんに言える事は一つですよ。」


「え?」


「雨ちゃんがどう言おうと、どうするかは桐人さん自身が自分で考えて決めるべきです。」


「俺が…?」


「はい、桐人さんはどうしたいのですか?」


「俺は…。」


俺はどうしたい?


あいつとどうなりたい?


どうする事が、あいつにとって本当の幸せなんだ?


あいつがどうなりたいのかは分からない。


でも俺は、あいつにも幸せになってほしいと思っている。


多分これが俺の、嘘偽り無い素直な気持ちなのだ。


どれだけ憎たらしさから意地になっても、心のどこかで俺はあいつの事を憎みきれず、関係を変えたいと願っている。


「雨の警告には従えない。


俺はあいつとこのままの関係で居続けるなんて嫌だ。」


「…そうですか。」


そう返し、光は小さく笑んだ。


「桐人さんなら多分そう言うだろうと思っていました。」


「恐れ入るよ。


お前には本当に何でもお見通しなんだな。」


「当然じゃないですか。


あなたが茜ちゃんを守りたいように私もあなたを守りたいと思って傍に居るのですから。」


「そうだったな…。」


「はい、だから桐人さんが選んだその選択を、私も一緒に信じます。


一緒に彼女を救いましょう。」


そう言って手を差し出してくる。


「おう。」


返事を返しながらその手を掴み、俺達は握手を交わす。


「あ、そう言えば桐人さんー…。


とても申し上げ辛いのですがー…。」


おおう、口調が戻ってやがる。


「なんだよ、改まって。


まさかやっぱり今の無しとか言うんじゃないだろうな?」


「いえー…そうじゃなくてー。


待ち合わせ…があるのではー?」


「あぁぁぁぁ!?」


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