ここから夏が始まる
3
「心底馬鹿らしいわ…。」
帰り道、木葉と千里と三人で死神神社に行くと、茜からの第一声はこれだった…。
いや、分かってましたよ?
でも、ここで出さないと君メインヒロインなのに未登場になっちゃうんだよ?分かってる?
だから最後の手段とまでに藁にも縋る勢いで頼ったってのに…。
「それも心底どうでも良いわ。」
あなたの心底にはどんだけ不満が詰まっているんですか…。
「実際そうだもの…。
私はあなたの夏休みが消えて無くなろうが出番が減ろうがどうでも良い。
ただ静かに粗茶が飲めれば良いわ。」
これ絶対メインヒロインの台詞じゃないだろう…!
「そもそも、ここに来るぐらいならその時間を使って勉強すればいい話じゃない。」
おうふ…そこにとどめとばかりに打ち込まれる正論…。
もはや言葉も無いっす…。
「それにしても…光や彼女に頼るのはプライドが許さない癖に、私に頼って姑息な真似をするのは良いなんて…随分と適当なプライドね。」
「うんうん、茜っちの言う通り。」
木葉が呆れ顔で同意する。
「と言うかキリキリだったら千里っちに教えてもらえば良いじゃん。」
「…あ。」
それが最善策だと今になって気付く。
「えっ…と桐人君…。
私の事さっきまで忘れてなかった…?」
「そ…そんな訳無いだろ!?」
「うわ~…これ絶対忘れてたな~…。」
「クスン…私幼馴染なのに…幼馴染なのに…。」
「すいませんでしたぁぁぁぁ。」
高速の全力土下座。
そしてそこにタイミング悪く凪と雫が帰ってくる。
「何やってんの…?」
言い方は違うけど本日二度目の何やってんの頂きました!
どうしよう、目から変な汁出てきた。
いや最初のは俺のせいじゃない!仮に俺のせいでもあるにしたって八割は木葉のせいだww
と、脳内で弁明しつつ、これまでの経緯を凪に説明する。
「ふーん、なるほどね。
そりゃ桐人が悪いわ…」
ですよねー。
分かってましたよ、はい。
「まぁ良いや。
折角来たんだし晩御飯食べていく?
その間勉強してくれてて良いし。」
「おう、助かる!」
「あ、じゃあ私手伝うよ~。」
と、ここで木葉が口を挟む。
「お、ありがとう!
前の時も褒めてくれてたんだよね?
桐人から聞いたよー。」
「そうそう!すっごく美味しかったからレシピ教えてもらいたいって!」
「あはは、照れるなー。
私も人に教える程じゃないけどじゃあ一緒に作ろっか。」
「おっけ~!」
その後、神社に入れてもらって木葉と凪は晩飯を作り始め、俺は千里に勉強を教えてもらった。
「わ、上手い!上手い!」
木葉の包丁裁きに凪が思わず拍手なんかしてる。
こいつ…本当に上手かったのか。
いや、やめとこう。
今そんな事考えたら包丁が飛んできそうだ。
で、飛ばした本人はいっけね☆うっかりうっかりとか言ってすっとぼけてんだろうなぁ…。
「ちっ…。」
などと思ってたら露骨に舌打ちされた。
本気でやろうと思ってたのかよ…。
何この子超怖いww
ちなみに本日のメニューはカレー。
と言っても料理慣れした二人だけにルーから作るやつで、雫の為に辛さは控えめだ。
「あ、キリキリは激辛で良かったよね?」
こいつ絶対さっきの事根に持ってるだろww
「桐人君、ちゃんと聞いてる?」
などと意識を他に木葉の方に向けてると千里に怒られた。
「はい、ごめんなさい。」
でもこのままでは俺の口が火を吹く事になる!(繰り返すが厨二病的な意味じゃない!)
「お気に入りの雑貨屋で買ったチリソース、試してみたかったんだよね~!」
ほら!そうこうしてる間にあんな事言ってんじゃん!
知らない人の為に言っておくが木葉さん御用達の雑貨屋って闇が深いやつだからね!?
と言うか何でそんな店にチリソースとかあんの!?
それ絶対ヤバイやつだよね!?
普通に怖いんだけどww!
と言うかなんでそんなチリソースを常備してんだよww
準備良過ぎるどころかもうホラーだよww
「へぇ、木葉は辛いのが好きなの?」
「いや?私はあんまり~。
何かで使えるかなって。」
何かって絶対悪巧みですよねww
それを常に持ち歩いてるって悪意しか無いだろww
「桐人君ってば!」
「あ、はい。」
ほら怒られたジャマイカww
けして勉強したくないから現実逃避してた訳じゃない。
これはちゃんとした防衛本能だ。
異論は認めない。
その後、運ばれてきた明らかに他とは違う真っ赤なカレーを食べて俺の口が火を吹いたのは言うまでもない。
なんてこった…千里より料理上手いのに火を吹く事になろうとは…。
とまぁ…今日も今日とて色々あった。
ここで、日記を閉じる。
こうして書いてる今でも口がヒリヒリしてんだから辛さがいかほどだったかは想像してもらえるだろう…。
一応入れた張本人からお菓子をぶんどってすぐに口直ししたから良かったが…。
もう二度とごめんだ…。
「ふぅ、こんなもんか。」
「桐人さん、今日もお疲れ様でしたー。
お口は大丈夫ですかー?」
それを見届け、光が声をかけてくれる。
「まぁ…なんとかな…。」
「なら良かったですー。
桐人さん。」
「んー?」
「夏休み、沢山思い出作りましょうね。」
「…そうだな。」
まぁでもその前にテスト…か。
「なぁ、光。」
「はい?」
「その…英語…教えてくれるか…?」
茜の言う通りだ。
俺が変なプライドを持つから、出来る事が出来なくなってしまっていたんだ。
一人じゃ駄目なら頼れば良い。
頼って欲しいと願うのなら尚更だ。
「はい!勿論ですー!」
光は頼みを快く笑顔で引き受けてくれた。
それから…残りの時間で俺は千里と光と一緒に猛勉強した。
たまに木葉にも助けて貰いながら、俺と蟹井は無事赤点を免れ(ってもギリギリだったが…)後は夏休みを待つばかり。
今改めて、俺達の夏は始まったのだ。




