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夢幻  作者: 遊。
第三巻第三章

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事件は部室で起きている


 翌日の学校は、来週の期末テストの話題で持ちきりだった。


なにせ夏休みを潰す恐れのある補習がかかっているのだ。


だから全体的に皆ピリピリしている訳だが、こんな日でも放課後になればホラー研究会は活動をしている。


いつものように俺と蟹井が部室の扉を開けると、


「バーロー、おせぇじゃねぇか。」


気絶させられた白石が唐突にそんな事を言う。


「な…白石…?」


その横の床には、事件現場とかみたいに人の形でテープが貼られていて、頭の辺りには赤いシミ。


ツッコみたい所は色々あるが…。


「事件は部室で起きてるんじゃない!


現場で起きてるんだ!」


いや、それ作品違うだろ…。


「レインボーブリッジ!封鎖出来ません!」


それは作品どころかセリフを使うタイミングも違う!


「犯人はこの中に居る!」


え、もしかして俺らが容疑者役かよ…?


「謎は全て解けた!」


だから作品違うっての…


「おい、いい加減やめとけ…。」


奥の机の辺りにしゃがみ込んでブツブツ言っている木葉。


眼鏡をかけ、蝶ネクタイを付け。


明らかにどこかで見た事あるキャラのコスプレをしていた。


「よくぞ見破った!明智君!


犯人は!この私だ~!」


そう言って立ち上がり腕を組んで高笑いしてやがる。


「いや…見れば分かるわ…。


てかそれも作品違うからな…。」


「今回はサスペンス風にしてみたんだ~。」


とまぁ…来週期末テストだってのにこいつは基本ぶれないよなぁ…。


にしても…今回は中々に大がかりだな。


本当…いつも思うが、その努力をもっと別の事に活かすべきだと思うんだよなぁ…。


「ちなみに私の力を使って白石の声を出してみたんだ~。


どう?それっぽくない?」


「マジで怒られるからやめとけ…。」


「ぶー…あ、そう言えば二人は期末テストは大丈夫そうなの~?」


「「う…。」」


二人して口ごもる。


「ありゃ、その様子だと自信無いみたいだね~。」


にまぁと不敵な笑みを浮かべる木葉。


「そ、そう言うお前はどうなんだよ…?」


「…知りたい~?」


一層笑みが増す。


「おい海真、お前知らないのか…?」


「は?」


「こいつ、何気に成績学年一位だぞ…?


しかも常連。」


「…は!?」


嘘だろ…?こいつが…?


料理も出来て?オマケに学年一位の成績…?


どんなユーティリティープレイヤーだよ…


一方の木葉は蟹井にその事実を言って貰って偉そうにふんぞり返っていた。


「ふひひwどやw」


「ありえねぇ…。


世の中間違ってる…。」


「ちょっとw世の中のせいにしないでよww


じ~つ~りょ~く!」


「海真、認めたくないのは分かる…。


でも認めろ、事実は小説より奇なりって言葉があるだろう?」


ポンと肩を叩き、なだめてくれる蟹井。


「そうだな、本当それだ…。」


「ちょっとちょっと、二人とも失礼過ぎじゃねww!?


でもでも~二人がどうしてもって言うなら私が直々に教えてあげても良いよ?」


うお、思いっきり調子に乗ってやがる!


「「お断りします。」」


「ハモるのやめろしww」


口をとがらせブーブー言ってる。


かと思えば急に黙り、


「…折角夏休みにキリキリを誘おうと思ったのにな~。」


わざとらしく顔を赤らめ、上目遣いで俺を見てくるのだ。


「んな…お…お前何言って…。」


と言うか近い近い!


そんな色っぽい表情で接近されたら罠だと分かってても意識するから!


蟹井も固まってないで助けろよ!?


「え、何って。」


潤んだ瞳で見つめながら、


「合宿のお、さ、そ、い。」


耳元でそう囁いてから、ぱっと離れる。


「んなっ…!?」


「あはははは!キリキリ動揺し過ぎ!」


そんな俺の反応を見てゲラゲラ笑う木葉。


こいつ…!


「一体何を想像してたのかな~?」


にまにまとさっき以上の小悪魔スマイルを向けてくる。


くっ…そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ…?


「あはは!あ~おかしい!」


今なおゲラゲラと腹を抱えて笑うこいつを一度睨み、


「おい木葉、確かに想像していたぞ?」


真剣な眼差しでそう切り出す。


「へ…?急に何?まさか変な想像じゃないよね?」


それに怪訝な表情を浮かべる木葉。


「ふふふ、当たり前だろ?」


「そ…そっか…。


なら良いけど…。」


「夢の中でなぁ!


あんな事も!(結婚も)」


「ふ…ふへ…!?」


「こんな事も!(新婚生活も)」


「え、ちょ…キリキリ…?」


歩み寄ってくる俺に真っ赤な顔で両手を突き出してくる。


「そんな事だって!(自宅でお出迎え。)」


「お、落ち着いて!わ、私が悪かったから!」


おうおう、動揺しとる動揺しとる。


よし、そろそろとどめだ!


「それを毎日してやったぜ!」


「ま…毎日!?そ、そん…な…。」


パタン。


頭から煙を出し、鼻血を垂らしながら木葉は遂に倒れた。


勝った!俺は魔王を下したぞ!


「…お前すげーよ…。


尊敬はしないけど…。


いや、しても良いかもしれねぇわ…。」


隣で見ていた蟹井は呆気に取られていた。


「大丈夫だ、俺は嘘は言ってない。


そこに不健全な解釈があるとしたらそれは俺の意思じゃない。


こいつの勝手な妄想だ。」


「おぉう…言葉の意味は分からんがとにかくすごい自信じゃ…。」


いや、お前委員長じゃないだろうが…。


「…何やってるんですか…?」


「「うぉう!?」」


突然の背後からの声に二人して奇声をあげながら振り返る。


すると、俺達の背後には、もう一人の部員、金城梓の姿が。


「いや…これは…。」


と言うか改めて見るとこの惨状はあまりにも酷い。


気絶させられた白石、人型テープの上に鼻血を出して横たわる木葉。


オマケに最初から付いていた赤いシミのせいでガチな事件現場みたいになってる。


…うん、何も知らない第三者が見たら本当に何やってるんですかだわ…。


異議無し!!


「えっと…私帰ります…。」


そう言うと、金城さんはゆっくりと後ずさり、その場を去って行った。


と言うか毎回毎回来るタイミングが悪過ぎだろう…。


流石に不憫になってくるぞ…。


今度はどう誤解を解こうか考えながら、ふと足下の木葉の死体もどきに目を向ける。


その付近の床に血で何か文字が。


【はんにんはキリキリ】


「遊んでんじゃねぇ!!」


ちなみにあの赤いシミは水彩絵の具で、この後は皆で掃除する羽目になった。


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