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夢幻  作者: 遊。
第三巻第二章

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関係。


 「さぁて…どこを探したもんかな…。」


〈人目を避けて女の子の生活している場所を家捜しだなんて…つくづく落ちた物だね、ロリコンさん。〉


突然雨からのテレパシーが聞こえてくる。


「あほか…ってかお前、さっきも随分好き放題言ってくれたじゃねぇか…。」


〈まぁ、実際面倒だったし…。〉


この子ら本当素直過ぎない…?


「くっ…良いのかよ?


光にあぁ言われたのにこうやって話してて。」


〈別に良いんじゃない?


これはサポートじゃなくてただからかってるだけだし。〉


かと思えばからかってただけかよ…。


〈それに、私は彼女の話を聞いて納得した訳じゃないから。〉


「…さっき言ってた私がやるって決めた事だからって言うのか?」


〈…そうだよ。


私はその為に産まれた存在だから。〉


「どう言う意味だよ…?〉


〈まぁ、言っても良いか。


どうせ、いずれ分かる事だし。


あのね、私も生前自殺したんだよ。〉


「なっ…!?でもお前は死神神社の巫女じゃないだろ…?」


〈うん、違う。


そもそも言ってみれば、茜が死神神社の巫女になったのは私のせいなの。〉


「何だって!?」


思わず大声を出してしまい、口を塞ぐ。


でも仕方無いだろ。


俺にとってはそれだけの衝撃だったんだ。


「桐人さん、どうかしたんですかー?」


「うひゃい!?」


さっきから心臓に悪過ぎだろう…。


て言うか君らわざとやってないよね…?


「い、いや何でも…。」


「雨ちゃんとお話ししてたですか?」


「あ、いや…。」


うーん…これは言って良いのか?


「もしそうじゃなかったら本当に独り言ですかー?


厨二病の人はよく独り言を言うと木葉さんが言ってたですー。」


「あの野郎…!」


ってそれどころじゃない!


雨は!?


脳内で何度か呼びかけてみるも、返事が無い。


思わず屍のようだと言いたくなるが堪える。


くそ…一体どう言う事だ…?


雨は茜を助ける為に産まれたんだと言っていた。


なのに雨は、茜が死神神社の巫女になったのは自分のせいだとも言っていた。


それで負い目を感じて助けようと?


いや…ならそもそもなんでそうしたのかって話だよな…。


「やっぱり…。


雨ちゃんと話してたみたいですねー。」


「…お前…最初から分かってて厨二病のくだり出しただろ…?」


「見てたら分かるですー。


いくら厨二病だからって独り言の後にそんなに真剣に悩んだりしないですからー。」


こいつ嫌い!


「雨ちゃんと話してたならテレパシーですから独り言になっても仕方無いですしー。」


「まぁ…な。」


「それに、さっきの雨ちゃんの様子を見てたら絶対一度はあなたに相談するだろうなと思ってましたから。」


「あいつが…?」


「だってそうじゃないですかー。


雨ちゃんは私の話に納得してなかったみたいですし、だからその為に何か手を打つ必要があるでしょうから。」


「で、その手が俺に頼る事だと?」


「はいー。」


「いやいやいや…。


お前も見たから知ってるだろ?


あいつらは俺を当てになんかしてないし、嫌ってるのに渋々助けてくれてるんだぞ?


なのに今更俺に頼るなんて…。」


「本当にそう思うですか?」


そう言う光の口調はついさっきの真面目な口調だった。


「…どう言う意味だ?」


「二人が本当にあなたを嫌いで関わりたくもないのなら、もっと他の効率の良い方法を探していたと思います。」


「っ…。」


「そしてそれは桐人さんにも同じ事が言えます。


さっきみたいに散々皮肉を言ったと思ったら、それでも茜ちゃんに助けを求めていました。


それだって別に茜ちゃんや雨ちゃんじゃなくても頼れる人は他にも一杯居るでしょう?


木葉さんや凪さん雫さんは…まぁ。」


「うん、あいつはそう言うの絶対しないな…。


ってかそれっぽい事言っておいてさりげなく自分を除外してんじゃねぇよ…。」


「えへ、ですー。」


全く… 木葉と言いこいつと言い…急にキャラ変わり過ぎだろう…。


でも…確かにそうだ。


お互い必ずしもお互いを頼らなければいけない訳じゃない。


ただ少なくとも俺は二人に頼るのが当然で、でも同時に出来れば自分も頼られたいと思っている。


あいつらの事をどれだけ憎たらしく思っていてもだ。


二人が同じように思ってるかどうかはまた別の話だが、二人との関係はそう言う好き嫌いを超えた所にあると思う。


「で、二人の思いを聞きたくてあんな風に煽ったと?」


「煽っただなんて人聞きが悪いのですー。


私は実際二人の力になりたいと思ってますからー。」


「ふーん。」


その言葉に嘘は無いのだろう。


口調はいつものふざけた感じだが、目は真面目だった。


「桐人さん、三人の事をよろしくお願いしますです。」


「なんだよ、改まって。」


「さっきも話した通り、彼女達は生前自殺していますです。


確かに記憶は無くなっていますがそれも恐らく一時的な物です。


いつ、何をきっかけに思い出すとも限らない訳ですから…。」


「確かに…。」


「そして、それが戻る事によってまた自殺する可能性もあります。


彼女達にとって記憶は時限爆弾のような物ですから。」


「そう…だな…。」


言われて改めて実感する。


自殺した人間が、記憶を無くして無理矢理そのまま転生すると言うのはそう言う事なのだと。


凪も言ってた事だが、人の記憶とは消せば完全に無くなる物では無いらしい。


その後もずっと無意識とかそう言う境界で鳴りを潜めていたりする物なのだ。


それが無意識であるから、いつ何処でそれが意識を支配するかも分からない。


それがひたすらに怖い。


本人じゃない俺ですらひたすらに怖いのだ。


だからあいつらはもっと怖い筈だろう。


「悪い光、俺今凪を探してたんだった。」


「それも知ってたですー。」


「…本当に恐れ入る。」


「えへへー恐縮ですー!


凪さんなら多分自分の部屋に居ると思うのですー。」


「だよなぁ…。


でもならどうするかな…。


流石に部屋に入る訳にもいかないだろうし…。」


「そうですかねー?


彼女なら案外すんなり入れてくれると思いますよー。」


「そうかな…?」


「はいー。


そんな風に自分から歩み寄って行く事が大事だと思うのです。


そうすれば彼女達もいずれはそれに応えてくれる筈ですー。」


「そう…だよな。」


そうだ、立ち止まってたらいつまでも近付けない。


自分から歩み寄らないと。


「ちなみに、凪さんの部屋はそこの突き当たりですよ。」


「なんでお前がそんな事まで…。


まぁ良いや…行ってくる。」


「はいですー。」


そして桐人が去った後、光は思っていた。


あの時。


「光、彼の事を頼んだよ。」


「ですが、死神様。


私には彼女達の様な戦う力は無いのですよ?」


「別に戦う力は必要無いよ。


彼にとって必要な物は今の地点でもう全て揃っているんだから。


ただ、彼とて人間だ。


時に心が折れそうにもなる。


自分一人で立ち上がれなくなる時だってある。


そんな時にいつも傍に居て背中を押してくれる存在が今の彼には必要なんだ。


だから光、もしそんな時が来たら彼の支えになってあげてほしい。」


「はい。」


そうして私は彼の元にやってきた。


茜ちゃん、雨ちゃん、そして彼の関係が悪いだろうと言うのは正直予想通りだった。


ただ、それでも一応はお互いを助ける為に動いてはいるようだ。


それがどんなに渋々でも。


記憶も、そして気持ちも。


お互いに見えなくても、気付けなくても、感じられなくても、だからと言って全く無い訳じゃない。


今彼らの関係に私が勝手に名前を付けるのは無粋だろう。


それは気付いた時に彼らが自分達で付ければ良い。


きっと彼らの中にはお互いにとって手放し難いと思えるだけの何かがある筈だから。


今はただそれを見付けていく彼らを見守ろう。


彼ならきっと彼女達を変えてくれる。


どれだけ時間がかかっても、それがどんなに難しい事だとしても。


そう思ったからこそ、死神様は彼を信じたのだろうから。


そして私も、そんな彼を信じたい。


「桐人さん、頑張ってください。」


一方その頃。


俺は光に見送られた後、凪の部屋の前に立っていた。


ってもなんて声をかけるか…。


そもそも本当に居るかどうかも分からないのに…。


「こほん、おーい凪!居るか?」


意を決して声をかけてみる。


「…え?桐人?」


うお、本当に居た。


「あ、その…お茶入れに行ったのに戻るの遅かったから…。


さっきも大分気にしてたみたいだし心配になって…。」


「…そっか。


ごめん、心配かけないようにしたつもりだったんだけど…。」


「良いって、俺ら仲間だろ?


心配くらいさせろよ。」


「うん、そうだね。


ありがとう。」


「おう。」


沈黙。


うん、気まずい。


「…入って、散らかってるけど…。」


「おっ…おう。」


と思ったら本当にすんなり入れてくれた。


と言うか…いざ入るとなると結構緊張する。


だって異性の部屋ですよ?


それも行き慣れた千里の部屋とは違う、まだ知り合って間も無い異性のだ。


それに緊張してすっかり固まってしまっているチキンさんはこちらです。


「…どうしたの?入らないの?」


中々入ってこない俺に凪が心配そうに声をかけてくる。


「え…あ、おう!」


ゴクリと唾を飲み込み、ドアノブを捻る。


えぇい、ままよ!


勢い良く扉を開くと、目の前に広がったのは飾り気の無いシンプルな内装だった。


部屋の横にある本棚にはいくつかの本があり、後はベッドや机に椅子とかぐらい。


中に踏み込むと、途端に良い匂いが鼻をくすぐる。


ほのかに甘いような…まるで森林に居るような…何と言うかどこか落ち着く匂いだ。


「そこ、座って良いよ。」


言いながら凪が木造の小さな椅子を指さす。


「おう…サンキュー。


この匂い、何なんだ?」


促されるままに座りながら聞いてみる。


「良い匂いでしょ?


シダーウッドのアロマオイルだよ。」


「シダー…ウッド…?


アロマ…?」


え、それ何語?


「え、シダーウッドはともかくアロマも知らないんだ…。」


「うっ…。」


「ほら、そこにある器具がアロマディフューザー。


ここからその匂いが出てるんだよ。」


「へ…へぇ…なんかすごいな…。」


うぉ…マジで知らなかった…。


「あはは、桐人って年下なのになんかおじさんみたいだね。」


「ほっとけ…。」


「この匂いを嗅いでるとさ、なんか落ち着くんだよね。


元々そう言う効能があるからって言うのもあるんだけど、何だか自然を感じられるって言うか。


だから疲れた時とか落ち着きたい時とかはこのアロマにしてるんだよね。」


「…じゃぁ今使ってるのは?」


「…うん。


ちょっと色々考えちゃってたから


落ち着きたくて。」


「その…それってやっぱりさっきの話だよな?」


「うん、すごく怖かった。」


「まぁ…確かに普通は信じられない話しだよなぁ…。」


「ううん、そうじゃないの。


確かにあの話は怖かった。


でも何より怖いのは自分なの。」


「え?」


「自分が自殺してたって言うのはさ、生まれ変わったその日に光から聞いて知ってたんだ。


けどその時は全然信じてなかった。


だって今こうして普通に生きてる訳じゃん?


急にそんな事言われても、とか何言ってるんだろうぐらいに思ってた。」


「まぁ…確かに。」


「でもさ、そう思ってても…。


思い込もうとしてても。


度々前世の記憶が頭を過るの。


だから日に日にそれが本当の事なのかもと思えて。


ただひたすらに怖くなった。


自分を殺した自分が、なのに平然と今生きてる自分が心底怖い。


いつかまたそうしちゃうかもなんて思うともう怖くて仕方無い。


自殺しておいてこんなのおかしいかもしれないけど…死ぬのがすごく怖いの…。」


「そうか…。」


再び肩を震わせる凪。


そんな弱々しさを見て、自分が傷を抉ってしまったのかもと心が痛む。


茜と違って、凪は自殺した自分をちゃんと自分の一部として受け止めているらしい。


実際そのどちらが正しいのかなんて俺には分からない訳だが。


茜のは悪く言えば現実逃避だし、かと言って凪のように受け入れてしまうにはこの事実はあまりに心苦しく重い物だろう。


いや、そもそも善悪ではないのだ。


前提がそもそも間違っているのだから。


自殺した人間が後になって自分が自殺した事を悔やむだなんて本来あり得ない話だ。


死んだらそれまでだし、その後の意識は無いのだろうから。


前提が違う、と言うのは俺と茜の関係にも言える事だ。


俺とあいつはそれが違ってなければそもそも会う事すらなかった。


そしてあいつに会わなければ凪や雫、雨や光にも多分会う事はなかったし、力だって持ってなかった。


だから俺はあいつとこんな不確かな関係を結んでるのか?


そのきっかけを与えてくれた茜に感謝しているから?


いや、違う。


そこに答えなんて必要無いんだ。


それが間違っていても良い。


正しくなくても良い。


どうせ最初から間違っていたのなら、ただ信じれた道を真っ直ぐ突き進めば良い。


だからこそ、これから俺が言う言葉は絵に描いたような綺麗事なんかじゃない。


純粋な俺自身の思いだ。


「あの…さ。


こうしてまた生まれてきたんだ。


だからもう同じ事を繰り返すなよ。


大丈夫、もしまた自殺しようとしたら俺が全力で止めてやるから。


だから生きろよ。


そんな生まれてきた事が間違ってたみたいな事言うなよ。


お前は充分役に立ってるし必要とされてるじゃないか!」


言い終えて凪の方を見ると、言われた凪は一瞬ぽかんとした後に笑い始める。


「あはは!年下の癖に生意気。」


「んな!?」


「ぷぷぷ…それに台詞がクサい。」


「う、うるせぇ!


折角人が…」


「ははは…でもありがとう。


ちょっとは頼りにしてる。」


「ちょっとかよ…。


まぁ良いけど。」


「ふふふ…さぁて、そろそろ晩ご飯の支度しなくちゃ。」


立ち上がって伸びをしながら背を向ける凪は、もうすっかり普段の明るい凪だった。


「良かったら桐人達も食べて帰りなよ。


今日は腕によりをかけて作るよ。」


「お、おう。」


マズい、夢と重なって不覚にもドキッとしてしまった。


落ち着け、達もって言っただろ…。


俺だけじゃないんだから…。


「…?どうかした?」


「いや!何でも無い!」


「…?なら良いけど。


じゃ、行こ。


皆を待たせちゃってるよね?」


「そうだな。」


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