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夢幻  作者: 遊。
第三巻第一章

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32/142

カイーマ、キリーエ、ヒカーリ


 とりあえずの作戦を決め、俺達は教室に戻った。


「あ…戻ってきた。」


それを見たクラスメート達が、再びひそひそ話を始める。


「ね…ねぇ…海真君。」


と、そこで一人の女子が怖ず怖ずと声をかけてきた。


「ん…?」


何を言われるか正直分かった物じゃない。


冷や汗が頬を伝う。


「その…やっぱりその子と浮気してるの…?」


「は!?」


まさかの言葉に思わず声が裏返る。


「いや…だってさ。


あたし達てっきり海真は前村さんと付き合ってるんだと思ってたからさ…。


そう言う事なのかと…。」


と、別の女子。


「いやちげぇよ!?


千里はただの幼馴染みだし、俺はロリコンでもない!」


まさかロリコン浮気疑惑なんて出るとは思わなかった。


「え…ならやっぱり…通学路を歩いていた彼女を無理矢理攫って…」


「それはもっと違う!」


全く何だってそんな突飛な話しになるのか…?


拉致監禁は俺じゃなくて木葉の専売特許だろうが…。


「そんな特許出願してないも~ん。」


「だから何でお前そんなに鋭いんだよ…。」


「キリキリが分かり易過ぎなんだってば!」


「いや…仮にそうだとしてもそんなに具体的に当てられる訳無いだろ…。」


「えへへ~。」


ねぇ、この子当然のように笑ってごまかしましたよ?


「ま…まさか隠し子…?」


「だから何でそうなんだよ!?」


誘拐犯疑惑でも充分突飛な話しなのに、ここでまさかさっき木葉が言ってたあらぬ疑いが出て来ようとは…。


木葉から聞いた時はこいつの誇張かもとも思ったが実際本当に周りからそう言う風に見られてるんだなぁ…。


「彼女、キリキリの遠い親戚ですっごくキリキリに懐いちゃってるみたいなんだよ~。」


と、ここで木葉がフォローしてくれる。


「そ…そうなんだ、全く困ったもんだよなぁ…。」


それに俺も不自然さが出ないように気を付けながら合わせる。


「改めまして、私の名前はカイーマ・キリエ・ヒカーリと申しますです。」


ものっそいい発音で名乗る光。


そう、これが木葉が言う無難な作戦。


詳しい経緯には一切触れず、実際違和感無く今の関係性を説明する方法はこれくらいだろう。


と言うかなんだその俺の名前を無理矢理外人っぽくしたようなネーミングは。


人の名前で遊ぶんじゃない。


全く…こいつの発案だから何か裏があるだろうとは思ったが…。


チラリと木葉の表情を盗み見ると、隠れてニヤついてやがった。


やっぱりこいつは…!


「え、彼女ハーフなの?」


「あ、あぁ…俺の叔母の旦那さんがフランス人でさ、俺も最初見た時は驚いたよ…。」


「えー?うーん…。」


流石にちょっと苦しいか…?


「ま、信じて良いんじゃね?


こいつは自分からわざわざ悪いと分かってる事を平気でするような奴じゃねぇよ。」


ここで俺の親友である蟹井健人がフォローを入れてくれる。


と言うか君さっきまで何処に居たの?今日初めて見たよ?


まさか面倒だから逃げてたとかじゃないよね?信じて良いよね?


「だってこいつはちょっと厨二っぽいけど正義感だけは人一倍持ってる奴だぞ。


お前らが思ってるような事なんて出来ねぇって。」


「一言も二言も余計なんだっーの…。」


「うん…まぁ…。」


それに木葉も呆れ顔で同意しやがった。


「おいこら…お前まで同意してんじゃねぇよ…。」


「あ~ははは…。


大丈夫だよ、キリキリ。


厨二病はステータスだから。


希少価値だから…。」


なんかフォローされたんだけど!?


と言うかその言い方どっかで聞いた事ある気がするんだけど!?


「まぁ…でもサンキュー。」


「おう。」


「あぁ…まぁ確かにね。」


そして君らもそれで納得すんのかよ…。


とは言え一応それ以上何かを言ってくる奴は居らず、ひそひそ話も収まって一応の解決となった。


「ちょっと良いか?」


「おう。」


蟹井に促され、二人で廊下に出る。


「で?こないだ話してた事とあの子はなんか関係あんのか?」


「まぁな。」


先日、蟹井にはこれまでの経緯を全部説明した。


俺達と違って能力を持っていない第三者に話してどう思われるか試したかったと言うのもあるが、何よりこいつの事を親友だと思っているからこそ話しておきたいと思った。


話を聞いて最初こそ冗談だと思っていたみたいだが、今は一応信じてくれているみたいだ。


「ははは…だからあんな無茶苦茶な設定を用意したって訳か。」


「うるせぇよ…。


仕方ないだろ…。


それにあの無茶苦茶な名前は俺が付けたんじゃねぇよ…。」


「え~…面白いと思ったんだけどな~。」


突然の背後からの声に二人して振り向くと、木葉が後ろでニヤニヤしていた。


「作戦に一々面白さなんて求めてねぇ…。


それにちっとも面白くもない!」


「ぶ~。」


まぁ…こいつらしいと言えばこいつらしいか…。


むしろこいつはこれぐらいがちょうど良いのかもしれない。


真面目過ぎても違和感あるし。


最近はちょこちょこ真面目な一面も見せるようになって来たが、最初に真面目な木葉を見た時は本当に別人なんじゃないかと思った程だ。


「それより!


前にも言ったと思うけどこんな近くでその話をするのは駄目!」


「「ごめんなさい。」」


「ん、分かればよろしい。」


三人で教室に戻ると、


「本当に可愛い!」


「髪とかすっごいさらさらじゃん!」


光はすっかりクラスの女子に気に入られ、まるで小動物を愛でるかのように撫でられ触られ、もみくちゃにされている。


「えへへー照れるのですー。」


一方の光はそれに全く嫌がる顔一つ見せずに身を委ねている。


「ねぇ、光ちゃん!」


「違いますよー。


ヒカーリですよー?」


こいつもノリノリだよなぁ…。


「あ、じゃぁ…。」


「いやこいつは光で良い…。


せっかく日本で暮らしてるんだから日本っぽい呼び方の方が良いだろう。」


「ぶー。」


「そ、そうなんだ…。


ねぇ、光ちゃんってハーフなんだよね?」


「はいー。


遠くから来ていますー。


フランスから来ていますー。」


お前それフランスじゃなくてネバダだろ…。


「え!?


じゃあフランス語とかも普通に喋れるの!?」


は!?


マズい…こいつ設定ではフランス人と日本人のハーフでフランスから来たって事になってるんだ…。


でもそれはあくまで言い訳の為に考えた設定であって、見た目はまんまだから誤魔化せてもこいつがフランス語を喋れるかどうかなんて分からないぞ…。


チラリと木葉の方に目を向けると、木葉も冷汗をかいていた。


だよなぁ…どうしたもんか…。


くそ…やっぱり本当の事を話すしか…。


そう意を決したところで、


「C,est exact.(そのとおりよ)」


「…は?」


唐突に光がそう呟いた。


「Bonjourです!(ごきげんようです)」


いや、ですの訳はいらんだろ…。


「す…すごい!かっこいい!」


「発音とかもまんま本物じゃん!」


沸き立つクラスの女子達。


これには流石の木葉も拍子抜けして言葉を失っている。


「お、おい…お前…。」


小声で言うと、


「Vous nous avez beaucoup aīdè.」


「…は?」


突然の意味不明な言葉に顔を顰めると、光は一度クスリと笑って小声で、


「お役に立てましたか?」


と返した。


なんだよ…一々伸ばさなくても普通に話せるんじゃねぇか…。


「ま…まぁ及第点てとこかな…。」


「ふふふ、良かったですー。」


と思ったらソッコーで戻してやがる…。


「ふぅ~…素直にありがとうって言わない辺りがキリキリらしいよね~。」


「確かになぁ。」


横から呆れ顔で茶化してくる木葉と蟹井。


「お前らなぁ…。」


「ま、でもこれで今度こそ大丈夫そうだね、後は噂が浸透するのを気長に待とう。」


「だな…。」


まだ一日は始まったばかりだと言うのに、もう一日分疲れたような気分になる。


とは言えまぁ…結局最後には何だかんだ合わせて解決してくれたんだ、こいつの事はもうこれ以上憎むまい。


「てかお前いつ来たんだよ…?」


横に居た蟹井に気になっていた事を聞いてみる。


「悪い、今日は早朝から妹の為に朝食後のデザートを買いに隣町のコンビニまで行かされてたんだ…。」


「うん、もう分かった…。


もう何も言うな…。」


「おう…。」


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