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夢幻  作者: 遊。
第二巻第三章

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親友


 翌日。


久々に晴れた休校明けの学校は、例の化け物の話題で持ちきりだった。


でもまぁ実際当然の反応ではある。


中には休校が明けても理由を付けて休ませている親も居るらしく、クラスで来ている人もまばらだ。


「なんかお前ら大変だったみたいだな。」


朝のホームルーム前、蟹井が言う。


「あぁ、まぁな。」


「外見たけどまだ結構痕跡みたいなの残ってるよなぁ。


壁とかも壊れてるとこあったし。」


「まぁ確かに。」


「うーん…でも聞いた話の割にそんなに被害大きくないよな、何でだろう?」


ちょっとw何でこいつこんなにするどいの?ww


「いや、まぁ…実は大した事無かったんじゃんね?」


「ふーん、まぁ良いけどさ。」


どこか煮え切らない返事。


いつかはこいつにもちゃんと話した方が良いだろうか?


いや、こいつだけに限らず近しい人間一人一人に。


信じてもらえるだろうかと言う不安もある。


でも仮に教えたとしたらどんな反応をくれるのだろう?


と言う興味のような物もある。


「なぁ、もし…もしもだぞ?」


「おう、何だよ?


もったいぶりやがって。」


「もし、もしも化け物を倒したのは俺だって言ったら信じるか…?」


「は…?」


蟹井が固まっている間に、こいつからは死角になる位置を木葉に小突かれる。


「キリキリ、急に何言ってんの…?」


と小声で言われた。


「いや、こいつには話してみても良いかなってさ…。」


同じく小声で返す。


「なんだよ?


二人してこそこそと。」


「なぁ蟹井、信じられない話しだと思うけど本当の事なんだ。」


「え…?」


「落ち着いて、聞いてほしい。


実はさ、」


これまでの経緯を、かいつまんで説明する。


「マジかよ…。」


「分かってもらえたか?


信じられない話しだと思うけどさ、本当の事なんだよ。


だから信じてほしいんだ。」


「まぁ…確かに信じられないよ。」


「だよな…。」


分かっていた事だ。


俺が茜を理解出来てないように、蟹井も今は普通じゃない俺を理解出来てないのだ。


同じ人間であっても、少し違えばこんなにも遠い物なのだと思い知らされる。


「お前が厨二病だったなんて…。」


「は!?」


などと真面目に考えていたのに、あまりにも予想外な返事が来る。


「おい…別にそう言う訳じゃ…。」


「前々からそうかもしれないとは思ってたんだが…まさか本当にそうとは…。」


「あ~うん…そうだね~…。」


ちょっと木葉さん、あなたも能力者ですよね?


何共感してんの?


それにあなた一緒に現場に居たよね?


戦ってる所ずっと見てたよね?


と言うかただでさえ最近不名誉な肩書きが定着してきてるのに更に余計なのを増やさないでもらいたいんだが…。


「はぁ…でもさ、キリキリが言ってる事は一応本当。」


ちょっと?今何でため息吐いたの?


「え、は?ガチなの?」


「それが残念な事に大ガチなのよ、北極の寒さぐらいガッチガチ。」


ガチガチって寒さの単位じゃないからな…?


てか残念ってなんだよ…。


「マジか…。」


ねぇちょっと?なんで俺が言ったら厨二病なのに木葉が言ったらすぐ納得してんの?


何なの?この扱いの差…。


「まぁでも急にこんな事言っても普通は信じられないよね~。


それなら…これでどう?」


木葉が指を鳴らすと、その手に突然ヴァイオリンが現れる。


「うぉ!?え、何!?どうやったんだ!?」


驚きのままに大声を出す蟹井。


「馬鹿、声がデカい!」


慌てて黙らせようとするも、クラスの連中の視線が集まる。


「え、何々何があったの?」


「おい染咲!今どこからヴァイオリン出した!?」


辺りがざわめく。


「おい…どうすんだよ…?」


小声で言うと、木葉は小さくウインクしてみせる。


「ここに取り出しましたるは~ヴァイオリンと風呂敷!」


クラスのざわめきを吹っ飛ばすくらいの大声を張り上げながら、風呂敷とヴァイオリンを高く掲げる木葉。


「今からこれを消して見せます!」


「何だ何だ?」


「え、手品?」


「面白そう、やってやってー。」


好き勝手言ってるクラスの奴らに、


「お~け~お~け~!


これで成功したら皆おやつ頂戴!」


場所的に考えても、恐らくこうなる事はわかっていたのだろう。


ちゃっかりしてるのは相変わらずだが、流石の機転だ。


「一、二のポカン。」


いや…それ確か技を忘れる時のやつじゃなかったか…?


風呂敷をヴァイオリンに被せると、中のヴァイオリンが消えて風呂敷だけが残る。


「すげー!!」


教室中大歓声、拍手の嵐。


当の木葉は超が付くほどのどや顔でそれに応えている。


全くこいつは…。


瞬く間にクラスメートに囲まれ、おひねり(お菓子)を貰ってる木葉。


「おいおい良いのかよ…?」


小声で文句を言うと、


「どう使おうがあなたの自由だって言ったのはお前だぜ、だっけ?」


同じく小声で返す木葉。


「あぁそうかよ…。」


そうしてまたウインク、後は任せたよと言う意味の。


「やれやれ…本当に恐れ入る…。」


「なぁ…何がどうなってんだよ…?」


「蟹井、ちょっと場所変えね?」


「あ、おう…。」


流石の蟹井も俺達が冗談で言ってる訳じゃないのは察したらしい。


そのままお互い無言で中庭に向かい、並んでベンチに腰掛ける。


「驚いたか?」


「そりゃな…。」


返される言葉は何と無く分かっていた。


逆の立場なら俺も同じ反応をしていただろうから。


そして何と無く気まずくなるのも分かる。


だから話を切り出すクッションが欲しかった。


「その、さっきの手品がアイツの…力…なんだよな?」


「あぁ…まぁそれだけじゃないけど…まぁ…そうだな。」


「そうか…。」


沈黙。


むーん…言うべき事は言ったが…この沈黙、どうしてくれよう。


「っ…はは…。」


などと考えていると、急に蟹井が笑い出す。


「か…蟹井?」


「それにしてもお前、大切な物を守る力って…。」


「わっ…笑うな!!


結構大変だったんだからな!?


あの時はマジで緊急事態で本当にどうして良いか分からなかったんだぞ!?」


「いや、すまんすまん。


あまりにも厨二っぽくてww」


「お前なぁ…。」


「まぁでもよ、」


「あん?」


「お前らしいっちゃお前らしいのかもな。」


「…は?」


「何だかんだ友達思いだもんな、お前。


例えば染咲とか?


お前普段あいつに対する扱い酷いだろ?


幼馴染とは大違い。」


「いや…まぁ…と言うかなんでそこでその二人の話が…。」


「でもよ、お前は何だかんだアイツも助けると思うんだよ。


大事な友達だからってな。」


「……。」


「いや、正直実感湧かない話しだけどよ。


でもお前が真顔で嘘吐いてるとか思えないし…。


もしその話が本当なんならよ、お前がそうするのも頷けるっつうか…。


確かにお前ならそんだけ危険を冒してでも大切な物を守る力を望むんだろうなって思う。」


「っはは…!」


「なっ…お前も笑ってんじゃねぇか!」


「お前が似合わねぇ事言うからだよ。」


「何おぅ!?」


本当は分かっていた。


蟹井はこう言う奴で、何だかんだ俺の事をちゃんと見てくれている。


そして俺自身も、こう言う奴だって分かってたからこそ、話してみようと思えた。


こう言うのが親友って言うんだよなぁ…。


「それにしてもお前やっぱ厨二っぽいわww」


前言撤回、こいつはこうゆう奴でもあったわ…。


その後、予鈴が鳴って二人して教室に戻ると、木葉は早速もらったお菓子をハムハムしていた。


木葉の机の前まで行くと、


「何?あげないよ?」


言いながらガッチリ両腕でお菓子の山をホールド。


その様はまんま番犬だ。


「いや、いらねぇよ…。


その、サンキュウな。


おかげでちゃんと話せた。」


「ふーん、なら良かったじゃん。」


こいつ大食いキャラなのにちゃんとゴックンして喋る辺りはお行儀良いなぁ。


あ、いや、別に大食いキャラが皆行儀悪いとか言ってる訳じゃないよ?


こいつってそう言うの気にしなさそうなイメージなのになって思っただけだよ?


「…な~んか失礼な視線を感じるな~…。」


「え、いや?何でもないよ?本当だよ?」


「ま~…良いけどさ。


これからはもっとこの話しをする時は慎重になった方が良いよ?」


「え?」


「だってそうじゃん。


もし死神神社の話しを知ったら、力が欲しくなって実際に手に入れに行こうとする人も現れると思う。


今してる話だってどこで聞き耳立てられてるかも分からないし。


そりゃ皆無事に力を手に入られるって保証があるなら良いよ?


そんで仲間になってくれるなら尚良い。


でもそうじゃないじゃん?」


「た、確かに…。」


「それにさ、私はもう茜っちにこんな事出来るだけさせたくないよ。」


「そうだな…。」


確かにそうだ。


もしこいつの機転が無かったらと思うとゾッとする。


「悪い、軽率だった。」


「ん、分かればよろしい。


じゃ、キリキリもお菓子ちょ~だい!」


「へいへい、後でな…。」


「いえ~い!忘れないでよ~。」


ちなみに、この後のホームルームで抜き打ちの荷物検査があって、おひねりのお菓子は全部没収された。


お約束と言うか力を悪用したバチが当たったと言うか…。


そのせいで帰り道ハー○ダッツを奢らされる羽目になったのだった。

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