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夢幻  作者: 遊。
第二巻 第一章

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強くなりたい


 木葉に連れて来られたのはファーストフードチェーン店の大手、メクドナリア。


通称メック。


さっき言った通り俺はマス派だが、ここで反論しようものならさっきのコスチュームを着てそんなの関係ねぇ!


とか叫び始める姿が容易に想像出来る。


もはや何も言うまい…。


店内に入ると、学校帰りの学生達で席はそれなりに埋まっていた。


「いえ~い!


二人席確保~!」


入るやいなや手近な二人席に陣取り、俺が座るのであろう席に鞄を放り投げてからくつろぎ始める木葉。


一度こうなったら食べ終わるまでは梃子でも動かないだろう。


「キリキリ~注文よろしく!」


だからこれも想定の範囲内。


「はいよ、でも先に言っとくけど割り勘だからな?」


勿論さっきの事があったから釘を刺すのも忘れない。


「え~分かったよ~…。


それじゃ~私はこのセットと追加でこれとこれも!それからチョコパイとバニラシェーク!」


「いや…待て待て待て…。


お前…どんだけ食うんだよ…?」


しかも指さしたハンバーガー、セットのも追加のも全部ビッグサイズのじゃねぇか…。


おまけにしっかりデザートまで…。


「え~これくらい普通だよ~。


この後普通に家でも食べるし。」


何、こいつの胃袋宇宙なの?


フードでファイトとかしちゃうの?


そう言えばこないだもわざとらしい買い食いしてたっけか…。


会計を済ませてトレイを席まで運んでやると、


「うひょ~!


待ってました!」


と、早速自分のハンバーガーに手を伸ばす木葉。


と言うか改めて並べてみると量の差は歴然だ。


まずファーストフードでこんなに長いレシート見た事無いんだけど…。


奢りじゃなくて良かったと心から安堵しながら本当に食えるのかよ…?


と不安になってきた。


まぁとりあえず…。


「なぁ、前から聞いてみたかったんだけどお前って結局あいつの事どこまで知ってんだ?」


満足そうにビッグサイズのハンバーガーをハムハムしている木葉に、気になってた事を聞いてみる。


「はにゃ?あいつ?」


ゴクンと飲み込み、それに答える木葉。


ちなみにここで言うあいつと言うのは、死神神社の巫女をやっている茜の事だ。


「あ~茜っちの事?」


「あぁ…お前は俺より先に力を手に入れてたみたいだし、その分あいつにも早く会ってる筈だ。


こないだだってあいつの事を庇ってたみたいだし、ただの知り合いってだけの関係じゃないんだろ?」


「う~ん…まぁ庇ったのは確かだよ。


でも私も二人に話した事以外は何も知らないんだ。


一緒だよ、二人と。


茜っちの事、もっと知りたいって思ってる。


出来れば仲良くしたいなって思ってる。」


その言葉に嘘は無いのだろう。


そう言う表情はどこか寂しそうだった。


「茜っち 、こないだも言ってたじゃん?


あの階段を降りた事も無いって。


それってつまりあぁ言うきっかけぐらいでしか人と話した事が無いって事だよね。


だから私達みたいに馴れ馴れしくしてくる人間が珍しいんだと思う。」


「そう…だな。」


死神神社の巫女である茜は、これまで沢山の人間を死に追いやってきた。


彼女が持つ力『夢幻』は、乗り越える事が出来ればどんな力でも手に入る試練を相手に与える力だ。


ただ、一度試練を受けると、乗り越えなければ死ぬまで抜け出せないと言う大きなデメリットがある訳だが。


茜はそうして力を求める人間を何人も見て来たからか卑屈で現実的な性格になり、誰も信じようとはしないのだ。


「でも、やっぱりそんなの悲しいよ…。


茜っちにだってちゃんとした人付き合いをして欲しい。


こんな風に友達とファーストフード、みたいな日常を知って欲しい。」


茜は今の自分の日常をけして手放さない。


その場から離れようともしない。


それが存在意義であり、それ以外を知る必要が無いからと。


それは結局広い世界の一部でしかないのに。


そんな風に普段俺達人間は、いつもそうやって目の前の世界だけを見て生きている。


つまり俺が茜の日常を、茜が俺の日常を、それぞれ理解出来ないのは、それが目の前の世界じゃないからだ。


これから先、お互いにお互いの世界をゆっくりでも見つめていけば。


いつかお互いにお互いの世界を理解出来る時が来るのだろうか?


「だから俺を死神神社に?」


「ありゃ、バレてたか。


うん、そうだよ。


だから部活でその話をしたり化け物を操って誘導したりしたんだよ。」


「なるほど…。


…って!操って!?」


言われてみれば確かにあれだけ人が居たのに化け物が俺達以外には見向きもしなかった事は気になっていた。


こいつの仕業だったのか…。


「そ、超音波を使った洗脳で他の人の姿が見えないようにしたんだよ。」


え、何この子怖い。


洗脳って言葉がもう怖いもん。


「ってかお前…そんな事出来るんなら最初から戦わずに済んでたんじゃねぇのか…?」


「…そんなに万能な力じゃないよ?


私の力が効果を発揮するのは音が届く範囲まで。


他の人にとって安全な場所に誘導したって、洗脳が解けたら同じ事だよ。


オマケに操るって言ってもそんなに細かく相手の行動を支配出来る訳でも無い。


まぁこの辺りは力に慣れてないからってのもあると思うけど。」


「な、なるほど。


お前…意外とちゃんと考えてたんだな。」


「キリキリは私の事を何だと思ってんのさ…?」


「え、誘拐は」


「うん、キリキリ。


ちょっと黙ろうか。」


何この子超怖い。


とは言えこいつがいつもただふざけてるだけの奴じゃないと言うのは、最近分かってきた事だ。


普段こそ、空気?食う気じゃなくて?


何それ美味しいの?でお馴染みの木葉さんだが、これで真面目な時には本当に真面目なのだ。


「ま、お前の言いたい事は大体分かったよ。


でもお前はなんだって試練を受けたんだ?


それに死神神社の事だってどうやって知ったんだよ?」


「…ごめんけど…どうして試練を受けようと思ったかって質問には答えたくない。」


やっぱりそれなりの事情があるのだろう。


そう言う表情にいつものふざけた感じは一切無かった。


「で、神社の事は私も噂で聞いたんだよ。」


「そ、そうか。」


これ以上聞くなオーラを感じたから、話しをここで一区切りして一息吐く。


うお、いつの間にかさっきまであった筈の食べ物の山が無くなってる…!?


「それで?キリキリはこれからどうするの?」


と、そこで今度はバニラシェークをズゾーっとしながら木葉が話題を振ってくる。


「どうする…とは?」


「戦うんでしょ?平和の為に。」


「あ、あぁ。」


この町にさっき話した化け物が現れるようになった原因。


それは日向誠の仕業らしい。


彼は、茜の力で全てを壊す力を手に入れた天才高校生。


化け物を作る研究もしていて、世界征服を企んでいるらしい。


その話を聞いた俺は、その事実を知って何もせずにはいられず。


だからそれを止める為に戦う、と宣言した訳だ。


「戦うよ。


…と言ってもまだ刀の扱いに慣れてないし、そもそも戦い自体慣れてない。


だからもっと強くなりたい。」


「ふ~ん…ま、キリキリならそう言うと思ってたよ。」


あの時、茜と木葉は現れた化け物とその頭領を殆ど二人の力だけで倒してしまった。


それに比べて俺はどうだ?


初めて持った刀に動揺して死にかけ、(ちなみにこの死にかけたと言うのは一切誇張無しのガチなやつだ)


そのせいで幼馴染の前村千里にまで試練を受けさせる羽目になった。


「なぁ、どうしたら強くなれると思う?」


「う~ん…まぁそれを言うなら私だってまだ戦闘に慣れてるって訳でも無いよ。


実際ちょっとキリキリ達より早いってだけだしさ。」


「そうか~…。」


「ま、でもでも~。


そう言う事なら私に任せてよ~。」


「お、おう頼む。」


どうしよう、勢いで頼んだけど不安しかないんだが。


「それじゃぁさ、週末どっちか空けといてね~♪」


「は…?」


で、今に至る。


な、解せないだろ?


待ち合わせの時間に十分程遅刻してやってきた木葉は、黒がメインのコーデで悪びれも無くのろのろと待ち合わせ場所にやってきた。


ドクロの模様が入ったキャップに、蜘蛛の巣模様の黒Tシャツ。


それに紺のショートパンツを合わせたボーイッシュなスタイルだ。


何だかんだこいつの私服を見るのは初めてなのだが、それなりに似合っていた。


ちなみに合流してから木葉が言ってた遅刻の言い訳は、


「ごめんごめん、朝ご飯のお魚を咥えて走ってたら変な髪型のおばさんに裸足で追いかけられちゃってさ~。」


「嘘吐け!お前はどこのどら猫だ!?」


「え~…?どら猫はどこの猫でもないと思うけど…?」


「そう言う事を言ってんじゃねぇんだよ…。」


と言うかおばさんとか変な髪型とか言ってやるな…。


本気で怒られるぞ。


そんなこんなで、このゲーセンに連れて来られた訳だが。


「キリキリはさ、そもそも実力云々よりもまず戦闘経験が少ないんだよ~。


だから~まずは習うより慣れろ!だよ~。」


うん、この際戦闘経験が少ないって言うのに関しては潔く認めようじゃないか。


と言うかこないだもそこは認めたじゃないか…。


でも…だからって俺は別に空手家を目指してる訳でも無ければ、相撲取りやレスラーやらを目指してる訳でも無いぞ…。


まして手から変なカッター出したり、口から火を吹いたり出来るようになりたい訳でも無いからな…?


「あのな…俺が求めてるのは武術じゃなくて剣術だからな?」


「え~?似たようなもんじゃん!


使ってるキャラにしろ技名にしろ。」


どっちも『けん』違いなんだよなぁ…。


それこそ見当違い。


更に言えば俺の武器は剣じゃなくて刀だからな…?


あ…だから剣刀違い…ってやかましいわ。


「と言うかお前…。


任せといて!


なんて大見得切ってやがった癖に、まさかこれだけしか考えてないなんて言わないよな?」


「え、えっと…そんな訳無いじゃん。


ちゃんと考えてるよ?


本当だよ?」


冷や汗をだらだら流しながら、吹けもしない口笛をヒューヒュー吹く木葉。


「やっぱりじゃねぇか…。」


「ま、まぁちょっと待ってよ!」


そう言って鞄から慌ててスマホを取り出し、どこかに電話をかけ始める木葉。


「あ、もしもし。


すいません、実はちょっとお願いがあって。


これからちょっと時間作れませんか?


あ、ありがとうございます。


それじゃ、後で駅前のテリーズで。」


そう言って電話を切る。


「なんだ?誰を呼んだんだよ?」


「ふふ~ん内緒♪」


うん、もう帰って良いかな?


仕方なく駅前のテリーズに向かうと、


「あ、お待たせです~!」


入って早々木葉が一人で粗茶を飲んでいる女性のもとへ行き、声をかける。


「うむ、気にするな。


ワシも今来た所じゃからな。」


え、カフェに粗茶とかあんのか…?


しかもそのしゃべり方、婆さんか…。


「牧乃先輩、この人私のクラスメートのキリキリですよ~。」


「ふむ…変わった名前じゃのぉ。」


説明を聞くと、言いながらまじまじとこちらを見てくる。


「んな訳あるか!?


っと…二年の海真桐人、っす。」


「うむ、ワシは三年の清田牧乃じゃ。」


「どうも。」


言いながら木葉と並んで対面の席に腰掛ける。


最初の印象こそ婆くさ、ゲフン。


大人びた人だと思ったが、改めて間近で見るととかなりの美人だった。


長い黒髪のポニーテール、整った顔やバランスのとれたスタイルは一切の弱点を見せない完璧な物だった。


「キリキリ…!見過ぎだから…。


そろそろ本当に千里っちが不憫になってくるから…。」


小声で言いながら横腹を小突いてくる木葉。


「う…いや、だから何でそこで千里が…。」


「あ~…うん…。


もう良いや…うん。」


何かを察したかのように冷めた視線を遠くにやる木葉。


なんだよ…?


「それで?今日は何の用じゃ?」


そんな俺達のやりとりなど涼しい顔で聞き流し、本題を急かす牧乃先輩。


まぁ、確かにこんな雨の中わざわざ来て貰ったのだ。


早く要件を伝えた方が良いだろう。


とは言え俺はその要件を知らないから、横に座っている木葉に目を向ける。


「キリキリ知らないの?


先輩は剣道部の部長で、都大会優勝経験もあるんだよ?」


と、小声で教えてくれる。


「うお、マジか…。」


完璧超人って本当に居るんだな…。


マッチョの人達の世界の中だけだと思ってた。


「こう言うのはさ、やっぱり専門家に聞くのが一番だよ!」


やばい、ここに来て木葉がものっそ良い仕事をしてる。


うんうん、なんだかんだ本当はやれば出来る子なんだよ、この子は。


だから、けしてただ他人に面倒事を丸投げしただけだろ、なんて言っちゃいけない。


「さっきから二人して何をこそこそしておるのじゃ…?」


怪訝な顔で俺達の顔を交互に見比べる牧乃先輩。


「あ、いえ!牧乃先輩!


俺に剣道を教えてください!」


そう言って頭を下げる。


「ふむ、なるほど。


それで私はこの場に呼び出されたと言う訳か。」


「あ、はい。」


「お主の意思はよく分かった。」


「じゃ、じゃぁ…!?」


「じゃが断る。」


ちょwwせりふを微妙に変えて来やがって…。


今更ながらちょっとだけ白石の気持ちが分かったぞ…。


「な、なんで…?」


「ワシは弟子を取らない主義じゃからな。」


「でも…だからって…。」


「ふむ…ならこうしよう。


これからワシと試合をして一度、いや一瞬でも竹刀を当てる事が出来れば弟子入りを認めよう。


ただし、出来なければこの話は無しじゃ。」


「んなっ…。」


急な提案に、一瞬言葉を失う。


「キリキリ、受けてみれば?


実戦の練習にもなるだろうし、やってみて損は無いっしょ?」


「ってもお前…相手は都大会の覇者だぞ?」


「え~でもさ、今キリキリがしようとしてる事ってそう言う事だよ?」


「っ…。」


確かにそうだ。


俺が戦おうとしている相手は、牧乃先輩よりも強いのだ。


いくら天才と言えど、普通の人間の彼女が全てを壊す力を持つ相手に勝てる訳が無い。


今の俺だって相手にならないだろう。


だからこそ、その為に出来る限りの事をしなくちゃいけない。


勿論、だからと言って剣道の腕だけでどうこう出来る訳じゃないのは分かっている。


でもそれが無ければそもそもまともに戦う事すら出来無い訳で。


大きすぎる敵に挑む事が無茶だなんて最初から分かっていた事じゃないか。


なのにこんな事でびびっててどうする?


それぐらいしないで強くなんてなれる訳が無いじゃないか。


まして日向誠に追い付ける訳が無い。


「やるよ…。


いや、やらせてください。」


「うんうん、それでこそキリキリだ♪」


「うむ、良いじゃろう。」


「ちなみにどこで試合するんですか?」


「これも一応は部活の一環じゃからな。


無論学校でやる。」


「なるほど。」


「さて、そうと決まれば早く店を出るぞ。」


「あ、はい。」


「え~!?まだ私ケーキ食べてない!」


うん、こいつは置いて行くか…。


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