勘違いしすぎです!
「ベータ王子」
エリオットが慌てて、私から手を離した。それは嬉しいけど、この人は何を言ってるんだろう。
「なぜ、あなたがここに?妹は、アリーシャはどうしたのですか?」
「シス、最初は俺と踊ろう。お前の一番は俺がいい」
「王子!?何を考えているんですか!?この方は私がお誘いしてるんですよ!?」
この人、すごくうるさい。お話してるのに邪魔しないでよ、もう。
「お前の理屈なら、王族であるお前より俺の方がシスに相応しい。俺に譲るのは当然だとは思わないか?」
「そ、それは……っ!」
「私は、アルファのパートナーとして来たから、アルファが良いならいいよ」
そう伝えると、アルファの方へ向き直る。にやりと意地悪な笑みを携えて問いかけた。
「だそうだが?先に踊っても構わないだろう?」
前言撤回、聞いてなかったわ。確認だったわ。他人相手だとどうしてこんなに偉そうなんだろ。
「……今日は王子が主催ですから、王子がおっしゃるならどうぞ」
アルファが苦々しげに答えた。いや、だからアルファまで何を言ってるの。
どう見てもベータ王子じゃないよね?
そう言うより先に手を引かれ、大広間の中央に出た。こんな目立つ所で仮面もつけずに大丈夫なのかな?仕事に影響が出たりしないのかな?
「ねぇ、すごく注目されてるよ。大丈夫?」
「それはシスがあまりにも美しいからだろう?俺は何も問題ない」
「その理論で言うならお兄さまがカッコいいからで、私じゃないよ」
何故か王子と勘違いされているお兄さまと話をしながら踊っていると、何度も躓きそうになる。
その度にお兄さまが抱えてくれるが、やっぱりダンスは難しい。
お兄さまは何をやらせても、完璧でカッコいいとかずるい。ガンマもだけどさ、私の周りの人って完璧超人過ぎない?少しくらい弱点あってもええんやで。
音楽の終盤から踊り始めたので、あっという間にダンスが終わった。そして、次の音楽が流れ始める。
「アルファとのダンスが終わったら、迎えに来る。お前に見せたい風景があるんだ」
「うん、わかった」
お兄さまがそう耳打ちして、私から離れた。もうお兄さまの姿はなかった。アルファが不機嫌そうに私に近寄ってくる。
「お前は王子なら誰にでも尻尾を振るんだな」
「はい?お兄さまが張り合おうとするのはいつものことじゃん。今さら何を言ってるの?」
「いくらお兄さまだからってな、少しは拒んでくれても、ん?お兄さま?」
アルファはやっぱりお兄さまだと気づいてなかったようだ。
確かにアルファは、仮面を外したお兄さまの顔を見たことなかったから仕方ないのかもしれないけど、声で気づこう?明らかにお兄さまの声だったでしょうが。
「あれはお兄さまだよ。私が困ってたから助けに来てくれただけ」
「いや、でも、魔法を使った形跡はなかったが」
「お兄さまは専門だから、魔法を使わずに変化出来るんじゃない?」
「なるほど」
変装じゃなくてあれが素顔なんだから、魔法を使った形跡がなくて当然なんだけどそれを言ったらまずいよね。アルファも納得してくれたみたいで良かった。
でも、機嫌までは治らなかったようで、
「いくらキルでも、俺を優先してくれよ。一応、パートナーだろうが」
恨みがましく愚痴を言ってくる。ごめんて。
「お兄さまにはまだガストローの約束を果たしてなかったから、断りづらくて、アルファならビシッと断ってくれるかなぁって」
「無茶言うな。あいつ、よりによってベータ王子に変装してたんだぞ?断れるかよ」
「ベータ王子の変装ねぇ……」
「おかげでエリオット殿がどこかに行ってくれたから、正直助かったんだがな」
長いため息を吐くと収まって来たのか、私に手を差し出す。
アルファはにやりと笑って、
「俺はキルほど甘やかさねぇからな?躓いても助けねぇぞ?」
なんて意地悪なことを言ってくる。アルファの手を取って、
「さっきのはお兄さまがいきなりダンスに誘ったから動揺してただけだし。次は問題なく踊れるよ」
「はっ、どうだか」
全然信じてないアルファに苛立ち、足を踏んでやろうかと思ったが、実際踊り始めるとそれどころではなかった。
最初こそ意地悪を言ってきたアルファも、不慣れな私のために上手くフォローしてくれたので、上手とまではいかなくても見れるレベルのダンスは行えたと思う。
「お疲れ様、かなりぎこちなかったけど、顔で誤魔化せてたんじゃない?」
「顔で誤魔化すってどういうこと?」
お姉さま、今日の毒舌はいつにもまして鋭すぎない?泣きそうなんですが。
「アルファ、俺もシスと踊りたいんだが構わないか?」
「ガンマ、今日のパーティーは決められたペアでのみ、だからな?キルに許可を出した俺も悪いが順番とかじゃないから」
ダンスが終わってお姉さまとガンマが話しかけてきた。二人はダンス踊らないのかな?二人のダンスも見たいけどなぁ。
「そうなのか、残念だ」
「せっかくだから、お姉さまと踊ってきてよ。ガンマとお姉さまが踊ってるところ見てみたい」
「そうね。ガンマさえ良ければお願いしてもいいかしら?」
「俺で良ければ是非」
私がお願いすると、二人も中央に移動して踊り始めた。
お姉さまはともかくガンマは絶対ダンスは下手だと思ってたのに、むしろお姉さまをリードする勢いで上手なのはどういうこと?
「もしかして、この中で一番下手なのって私?」
「今さら気づいたか」
「ううう、ガンマの裏切り者。ガンマは仲間だと思ってたのに」
お姉さまにリードされて、ぎこちなく踊るガンマを目に焼き付けたかったのに、こんなのってないぜ。
二人が踊る姿を見ていると、宣言通りお兄さまが迎えに来た。てっきり変化してくるかと思ったが、相変わらず仮面を外した姿のままだ。
一瞬身構えたアルファだったが、すぐにお兄さまだと気づいて警戒を解く。
「アルファ、シスを返してもらうぞ。ガンマには先に別荘に戻っていろ、と伝えてくれ」
「おい、ガンマはここの土地勘には疎いだろ。一人で別荘に帰れるわけあるか」
「帰りの馬車なら手配している。後は知るか。そのままくたばってくれても俺は一向に構わん」
「あ、おい!」
アルファはまだ不満そうではあったが、お兄さまは話は終わったとばかりに私の手を引いて歩き出してしまった。
「お兄さま、私も流石にあれだけは良くないと思うよ?」
「知るか。あいつらはここ数日ずっとお前の側にいたんだ。次は俺の番だろう?」
それはお兄さまが仕事で居なかったからで、アルファたちはとばっちりもいいところなんだけど。
でも言えねぇ!こんなにウキウキしたお兄さま見るの初めてなんだもの!なんでこんなに楽しそうなんだろ?
「ねぇ、お兄さま。そろそろ見せたい風景ってなんのことか教えてよ」
「もうすぐ着くから、そう焦るな」
本当に楽しそう。よほど良いことがあったんだろうなぁ。
お仕事のこととか、なんでそんなに楽しそうなのかとか、色々聞きたいことはあるけど、久しぶりにお兄さまとお出かけしてるんだから、楽しまなきゃね。




