アルファは女好きらしいです?
「うう、疲れた」
ダンスの練習のせいで、全身筋肉痛になってんじゃないかってくらい、身体が痛い。せっかくの美味しい晩御飯も痛くてそれどころじゃない。
ガンマが心配そうにこちらを見てくる。
「大丈夫か?腕が生まれたての子鹿のようだが」
「大丈夫じゃないけど、大丈夫。心配してくれてありがとう」
「エスリン、やっぱり止めないか?シスがダンスなんて柄じゃないし、そもそも俺が出なくていいって言ったんだ」
アルファがエスリンちゃんを宥めようとするが、笑顔で断った。
「ダメです。今度の婚約発表記念パーティーは、ペアでないと参加出来ないのはお兄さまも知っているでしょう?」
「だから、いつものようにすればいいじゃないか」
「良いわけないでしょう!」
エスリンちゃんがこちらを見る。エスリンちゃん、最近お姉さまに似てきて、笑顔で怒るから怖いんだよなぁ。
「お義姉さま、お兄さまが社交場でどう思われているかわかりますか?」
「社交場で?うーんと、アルファってイケメンだから、ご令嬢の憧れの的とか!」
お兄さまには負けるけど、アルファはカッコいいから黙ってれば、女性が放っておかないも思うんだよね。きゃーきゃー言われたりして。
「残念ながら逆ですわ」
「え!?嘘!?アルファだよ!?私ならきゃーきゃー言うよ!?」
「シスちゃん!お行儀が悪いよ!!食事中に立たないの!」
びっくりして、テーブルに両手をついて身を乗り出してお母さまに怒られてしまった。
お母さまに怒られたので、いそいそと席に座る。
そして、向かいに座っているアルファを見る。
うん、やっぱりイケメンだ。友だちの欲目かも知れないけど、かなりカッコいい部類に入ると思う。なのに、なんで逆?
「最初はお義姉さまの言う通り、令嬢たちの憧れの的でしたわ、だってお兄さまですもの」
「そうでしょうとも、だってアルファだからね!」
「エスリンはともかく、なんでお前が自慢気なんだよ」
「だって、アルファだし」
「意味がわからん。お前、『だって、アルファだし』しか言ってねぇぞ」
女子の憧れだと言われて何故か無性に誇らしくなって胸を張っていると、アルファに突っ込まれた。
よほど呆れたのか、肘をついて片手で顔を隠している。そこまで呆れなくてもいいじゃんか。だって、アルファなんだもんよ。
「でも、やがてお兄さまは『女好きの軟派な伯爵子息』として噂が広まり、令嬢から敬遠されるようになりました」
「え?女好きなの?うわぁ」
「引くな!俺からすれば二人の男と婚約してたお前の方が最低だぞ!」
「その説は大変申し訳ありませんでした!本当にごめんね、ガンマ」
「何度も言うが、俺がきちんと意味を伝えていなかったのが悪い。だから謝らないでくれ。俺は気にしていないから」
アルファの奴め!私の黒歴史を掘り出しやがって!
本当に二重婚約は申し訳なさすぎて謝罪しか出て来ないよね。
なのに、許してくれるとかガンマは優しすぎ!どっかの誰かさんとは大違いだ。
「俺にも謝れよ」
なんて不満そうに言ってくるが、アルファに謝罪っている?
「アルファは別に良くない?だって、私のこと好きなわけじゃないし」
「ぐっ」
「お兄さま、自分で振っておいて何をやっているんですか。話が逸れましたので戻してもよろしいですか?」
「あ、すいません、どうぞ」
エスリンちゃんが話しやすいように黙る。えっと、何の話してたっけ?
そうそう、アルファが女好きって話だったわ。
「お義姉さま、他人事のようにしていますが、お兄さまが女好きという噂が立ったのはお義姉さまにも原因があるんですよ!」
「え!?なんで!?ハッ!私が不細工だから、その反動で女好きに!?」
「違います!」
違ったみたいだ。我ながら良い推理だと思ったのに。ところでガンマさん、小さい声で、『シスは綺麗だからそれはないと思うぞ』って言うのは止めよう。あの心臓に来るので、ドッキドキしちゃうんで。
「お兄さまのダンスのお相手が次々と変わるからです!一度相手したら、すぐに別のご令嬢を連れてくるから敬遠されるようになったんです!」
「あー、なるほど……」
「お兄さまのお相手はお義姉さまなのだから、同じ相手を選ばないのは当然ですけど。でも社交場ではそんなこと誰も知りませんもの!ですから私、悔しくて」
そうだったのか。確かに自慢のお兄さまが女好きのチャラい奴って言われたら、私も確かに嫌だわ。
「ですから、せめて婚約発表記念パーティーではお兄さまと一緒に出てほしいんです。ダメですか?」
「そういうことならいいよ。それにアルファがたくさんのご令嬢と一緒にダンスしてるとかムカつくし」
「は!?なんで!?」
「お義姉さま、それって……!」
今度はアルファとエスリンちゃんが身を乗り出して聞いてくる。
え?そんな食いつくようなことか?エスリンちゃんなんて泣きそうになってるし、なんで?
「なんでって、アルファばっかり綺麗なお姉さんたちと密着するなんてズルいじゃん!私もダンスを覚えて綺麗なお姉さんたちとダンスしたい!」
「ああ、そっちね」
「お義姉さまが覚えているのは女性側のダンスの仕方ですから、男性側にはなれませんよ」
二人は何事もなかったかのように、席に座り食事を続ける。
おお、急に冷静になるやん。なんかこの感じの4コマ見たことあるぞ。手のひらくるっくるやな。
「そうなんだぁ。綺麗なお姉さんと踊りたかった。じゃあやっぱりやめ」
「では、今晩から泊まり込んで練習しましょう。パーティーまで一週間もありませんもの。ギル、お義姉さまとガンマさまのお部屋をご用意して」
「かしこまりました。食事が終わりましたら、私にお声がけください。部屋までご案内いたします」
エスリンちゃんに完璧に逃げ道を塞がれてしまった。ギルさんも、今言われたのになんですぐに部屋に案内出来るんだよ!私がしょっちゅう泊まってるからか!!いつもすいません!!
「ギルさん、シスはともかく俺の部屋など用意しなくて構いません。俺はシスの部屋の前の廊下で寝ますから」
「おや?それは私たちの警備では不安だと言うことでしょうか?」
「いえ、そういうわけでは」
「ならば、お嬢さまの厚意に甘えなさい。若いうちから遠慮が過ぎるのはよくありませんよ」
「はい、ありがとうございます」
おお、ギルさん強い。ガンマがたじたじだ。執事の鏡だよ。うんうん。
まぁ、そのおかげで逃げられないことが確定したけどね。くそぉ。
「王子の婚約発表パーティーですから、貴族として醜態は晒せません。厳しくいかせてもらいますね?」
「ハイ、ガンバリマス」
うう、帰りたい……。




