仲間が増えました!
「で、屋敷に連れ帰ってきたと」
「うん、ガンマ強いし。護衛になってくれたら、お兄さまも安心して仕事が出来るでしょ?」
ガストローから帰還して数日後。
私の別荘の中庭でアルファとお茶しながら、ヴァルハラとガストローで起こったことを話す。
アルファは眉間に皺を寄せながら、呆れたように話を聞いている。
散々な目に遭ったけど、なんとかなって良かったよね。ガンマとさよならしなくて良くなったのも嬉しいし。
ちなみにお兄さまが居ないのは、帰ってきてすぐ、公爵にお仕事を頼まれたから。せっかくお兄さまと一緒に居られると思ったのに、公爵ってば空気読んでよね。
「結局、ガンマ王子への気持ちは整理つけられたのかよ」
「んー、どうだろ。最初は恋だと思ったんだよ?でも、ヒルダさんや他のオーガの女の人がガンマに恋してる姿を見て、敵わないなって思っちゃって、自分は身を引こうとしたんだ。もし、本当に恋してるならそんなに簡単に諦めないと思うんだよね」
「じゃあ、ガンマ王子のことは好きじゃないのか?」
「好きは好きだよ。大好き。でも、この好きが恋の好きなのか、わかんなくなっちゃった」
紅茶を啜りながら、ぼやく。
こういうとこが『来訪者』の厄介な所というか、ガンマへの憧れが強すぎて、ファンとして応援出来るなら、恋人じゃなくてもいいかな、なんて思っちゃうんだよね。
もちろん、恋人になれるならなりたいけど、そんな中途半端な気持ちを恋と呼んでいいわけないし。
「ガンマにもそう伝えたら、『今はそれでもいい。もっと良い男になって惚れ直させる』って。はー、あのときのガンマかっこよかったなぁ。写真があったら撮ってたよ」
「そこまで好きなのに恋じゃないなら、それはそれで相当問題だと思うけどな」
「うぐぐ、それを言われると辛い。喪女ってのは色々と複雑なの!」
アルファに図星を突かれ、ちょっとだけ凹む。
仕方ないじゃん!君らがとんでもなくイケメンだから悪いんだよ!前世ではイケメンどころか男性とまともに話したことないんだぜ!?そんな喪女がちやほやされてみ!?そりゃあすぐに惚れるよ!
「『モジョ』が何かは知らんが、お前が本当にガンマ王子への想いが恋じゃないなら、まだ俺にもチャンスはあるよな?」
「へ?」
「いやー、良かった。王族との見合い話を受けたものの、我が儘な性格が気に入らなくてさ。やっぱり政略結婚なら俺はお前が良いわ」
テーブルに肘をついて、にやにやと嬉しそうというか、満足そうにこちらを見てくる。
随分嬉しそうにしやがって、こちとら気分的には失恋したんやぞ。
「私も大概我が儘だと思うけどね」
「まぁな。けど、我が儘で礼儀知らずの馬鹿でも『ちーと』持ちってので全てが許される。同じ我が儘女なら『ちーと』持ちの女が良いに決まってる」
「それは確かに」
「だろ」
アルファが持ってきたマンゴープリンを口に運びながら同意すると、アルファもマンゴープリンを食べ始める。
甘酸っぱくて濃厚かつ滑らかな舌触りが堪らない。んー、おいしい!
もはやなんでもアリだな、ムスペル領は。
「シス、話の最中に申し訳ない。少し良いだろうか」
「ん?どうしたの?ガンマ?」
「これがガンマ王子……?でかいな……」
ガンマが申し訳なさそうに中庭へ現れた。アルファは初めて見るガンマに驚いている。
確かにガンマってめちゃくちゃ大きいもんな。初対面だとびっくりするかも。
「不審者を捕まえたんだが、どうする?」
「不審者の処遇はお兄さまに任せてるからなぁ。お兄さまからどうするか聞いてないの?」
「一応、シアルフィ領の留置場まで送っておけ、とは言われているが、専用の馬車の呼び方がわからない」
「ああ、なるほど。待ってね。確か留置場用の伝書鳩がいたと思うから取ってくる」
確か裏庭に伝書鳩を管理してるおじさんがいたはず。留置場用の伝書鳩を一羽取ってきてあげよう。
中庭から裏庭まではすぐ近くなので、ガンマを置いて取りに行った。
アルファとガンマ、二人だけになった中庭でこんな会話してたらしい。
「わざとらしいですね。俺だけと話したいならそう言えばいいでしょうに」
「俺はシスの中では紳士らしいのでな。嫉妬する俺など見せたくはない」
「シスから聞いていましたが、本当に健気ですね。俺には理解出来ません」
「そうか?シスと話をしている君を見ていたが、君も大概だと思うが?だからこそ相手にとって不足はない」
ガンマはアルファに近づき、手を差し出した。
「お初にお目にかかる。ガストロー国、ブレイブ王の末子ガンマという。俺は今、王子としてではなくただの一人のオーガとしてシスの側にいる。だから俺に対してへりくだる必要はない。普通に接してくれ」
アルファはその手を見て驚いたが、やがて手をとって握手をする。
「わかった。俺はムスペル領アルヴィー伯爵子息、アルファだ。お前がフラれてくれて助かった、これで堂々とシスに求婚出来るわけだからな」
「さて、そう上手くいくといいが」
「余裕なのは勝手だが、侮っていると後悔するぞ」
「オーガは正々堂々を信条とする。侮りなどしない。全力でいかせてもらう」
そんな会話をしている中で、シスが帰ってくる。二人が握手しているのを見て、目を輝かせて近づいてくる。
「ガンマー、取ってきたよ!あのね、この鳩さんの足に手紙を……って!あ!二人とも仲良くなったんだ!やったー!」
「は?」
「ああ、恋敵宣言をしていた。何事も正々堂々が一番だ」
「ガンマらしいね!カッコいい!」
恋敵宣言はともかく、アルファとガンマが仲良くなってくれたのは嬉しいな。
友だちと友だちが仲良くしてくれるのってなんかこう、感動するよね?嬉しくなるよね?
「お前な、どこをどう見たらそう見えるんだよ。馬鹿なのもほどほどにしとけよ」
「え?でも、握手してたし、笑ってたから。友だちになったんじゃないの?」
だから握手してたんじゃないの?どゆこと?
私が戸惑っていると、アルファが説明してくれる。
「あのな、俺とガンマは名目上は恋敵なの?わかるか?友だちになんてなれるわけ」
「なってはくれないのか?それは残念だ」
「はい!?」
「俺たちは恋敵ではあるが、シスという同じ人を好きになった同士だろう?仲良くなれると思ったのだが」
「あーあ、ガンマしょげちゃったじゃん。可哀想だと思わないの?」
ガンマを悲しませるなんて酷いやつめ、と批難めいた視線を送ると、アルファが混乱してガンマの上着を掴む。
「いやいやいや!さっきまでの空気はどこ行った!?今、完全に仲良くなるような感じじゃなかったよな!?」
「?空気はどこにだってあるだろう?」
「その空気じゃねぇよ!!嘘だろ!?お前も天然なの!?嘘だよな!?猫を被ってるだけだよな!?」
「ライオンの毛皮なら被ったことはあるが、猫は流石に小さいからないぞ?」
「そうじゃねぇんだよ!!!」
ガンマが混乱するアルファを見てから、不思議そうにこちらを見てくる。
「すまない、シス。彼がなんで怒っているのかわからないんだが、何故怒らせてしまったかわかるか?」
「その態度だと思うよ」
「そうか。人間の文化にはまだ疎くてな。気分を悪くさせて済まなかった」
ガンマが謝るも、アルファの混乱状態は解けるはずはない。
「素直!!これは人間の文化は関係ないだろ!!お願いだから人の気持ちを考えられるようになろう!?」
「わかった。教えてくれてありがとう」
「だから素直!!!いい子か!!」
おお、久しぶりだというのにアルファのツッコミが今日も冴えてますな。
なんだ、やっぱり友だちなんじゃん。良かったー。
ガンマとアルファの漫才を見ながら鳩さんと戯れていると、エスリンちゃんがギルさんを連れてやってきた。
「お兄さま、お義姉さまをダンスパーティーに誘うだけにいつまでかかっているのですか?」
「あ、エスリンちゃんだ!見て見て!この人がガンマだよ!カッコいいでしょー!」
ガンマをエスリンちゃんに自慢したくて、腕を引っ張ってエスリンちゃんの前に持ってきた。
「ご機嫌麗しゅう。ムスペル領アルヴィー伯爵の娘、エスリンですわ。王子に会えて光栄です」
「丁寧な挨拶、痛み入る。ガストロー国、ブレイブ王の末子ガンマだ。君に会えたことを嬉しく思う。どうか気さくにガンマと呼んでほしい」
ガンマが優しく微笑むと、エスリンちゃんの顔がポッと赤くなる。
わかる、わかるよ。ガンマはお兄さまに並ぶくらいのイケメンだからね。優しく微笑まれたら、惚れるよね。うんうん。
「はっ!私は騙されませんわ!お義姉さまはお兄さまと結婚するんです!貴方がいくら素敵でも負けませんから!」
「そうだな、アルファなら相手にとって不足はない。どちらがシスにお眼鏡にかなうかはわからないが、正々堂々、悔いのないようにお互い頑張ろう」
「カッコいい……」
一度は正気に戻ったエスリンちゃんが啖呵を切ったが、ガンマの言葉に再び顔を赤らめて呆然となる。
うんうん。わかるよ。言うことなすこと、全部カッコいいよね。もはや存在がチートだよ。
「ガンマ!おま、お前っ!!シスだけじゃ飽きたらず!俺の妹まで誑かす気か!?それだけはさせねぇからな!!」
エスリンちゃんの様子を見て慌てたアルファが、エスリンちゃんの前に立って威嚇するが、ガンマは何もわかってない。
これだから、無自覚イケメンは困る。
「誑かす?何の話だ?挨拶の仕方を間違っていただろうか」
「だから!そうじゃねぇんだよ!!お前はこれまで、いったい何を学んで来たの!?」
「人間の歴史と礼節とミッドガルドの特産物だな」
「真面目か!!」
漫才は面白すぎるが、アルファが可哀想になってきたので、助け船を出してあげる。
「アルファ、いい加減ツッコミ入れるの諦めなって。ガンマは天使だから、終わんないよ?」
「シス、お前が甘やかすから、こんな天然が出来たんじゃねぇのか?こんな天然連れてきてどうすんだよ!」
「ちょ!それは言いがかりも甚だしい!!ガンマは出会った頃から最高にカッコよかったし!」
まったく、アルファってばそういうとこだぞ。ほら、エスリンちゃんも頭を抱えてるじゃん。反省しろ?
「まずいですわ。お義姉さまがいくら気に入ってはいても魔族なんだから、たいしたことないって思っていましたのに!全てにおいてお兄さまを上回っているなんて!ピンチですわ!」
「お嬢さま、こうなったらダンスパーティーで差をつけるべきかと」
「それですわ!」
ギルさんとエスリンちゃんが何かこそこそと話し合ってる。楽しそうだなぁ。私も仲間に入れてくれないかなぁ。
「お義姉さま!今度、王宮でベータ王子の婚約発表記念のダンスパーティーが行われるんです!お兄さまと一緒に参加なさいますよね!?」
「やだ」
話し終わってたかと思えば、とんでもないことを言い出した。私が?王宮のダンスパーティーに参加?
あはは、もうエスリンちゃんってば、何を言ってるの?ぜっっったいに嫌だね!!
「お義姉さまなら参加してくださると思ってましたわ!ドレスなら私にお任せください!お義姉さまに相応しいドレスを選んでみせますわ!」
「わーお、聞いてないぞ。今日び、ゲームでももうちょいプレイヤーの話を聞いてくれるってのに、酷すぎない?」
「では、お義姉さま!私たちの屋敷に参りましょう!」
「うう、こうなったらーーーあ、UFO!!」
エスリンちゃんの後ろを指差すと、企みどおり指差した方向を向いてくれた。よしっ!今のうちだ!こういう時は逃げるしかない!!
しかし、数メートルもしないうちにギルさんに捕まってしまった。
なんとか逃げようと暴れるものの、びくともしない。
「やだやだ!!行かない!!アルファはダンスパーティーに行かなくてもいいよって言ってくれたし!!行きたくない!!」
「さぁ!ギル!戻りますわよ!!」
「御意に」
「エスリンちゃんの鬼!!意地悪ううう!!!」
嵐のように私を拐っていった二人に今度はアルファが頭を抱え、深いため息を吐く。
「結局拐うなら俺、いらなかったんじゃないか?」
「シスは人気者だな。さすが俺が惚れるだけはある」
「一連のやり取りを人気者で済ませるとか正気か!?護衛辞めろ!!」
あー、今日も平和だなぁ。誰か助けて!!




