恥ずかしくて死にそうです!
「ガンマ!!」
ガンマが私を庇って、背中に炎が直撃する。さっきのオーガを思い出して、熱いはずなのに、背筋が凍るように冷たい。
早く、『治癒』しなきゃ!
炎を全て吐き出したのか、収まる。ガンマが上着を破いて捨てる。私が背中に手を伸ばして、驚く。
火傷してないんですが、どゆこと??
「あ、え?背中燃えたよね?あれ?」
「燃えたのは服だ。炎ごときにやられるほど柔な鍛え方をした覚えはない」
「鍛え方の問題なの!?それって!?」
炎だよ!?燃えるんだよ!?ごときにはならんでしょ!
どうしよう!この人、物理法則さえ無視し出したぞ!でも、カッコいいから許す!好き!!!ファンサして!!
「ガンマ!ドラゴンさん、優しかったよ!それでね!靄がドラゴンの顔に纏わりついて!あの!えっと!だから、ドラゴンさんは悪くないから!」
ドラゴンさんの涙を思い出して悲しくなる。事情を知らない私はドラゴンの無実を証明できない。それがもどかしく上手く説明が出来ない自分に苛々する。
それでも、ガンマなら伝わるかもしれない。
「だから、お願い。ドラゴンさんを救ってあげて」
涙を堪えながら絞り出したため、声は掠れた上に上擦ってしまった。
辛いのはドラゴンさんなのに、私が泣いてちゃダメなのに。我慢しなきゃ。
頭を優しく撫でられる。ガンマを見ると、私の大好きな優しい笑顔をしてた。
良かった。伝わったんだ。
「当然だ。そのためにここへ来た。だから、泣かないでくれ」
ガンマがそう慰めてくれたのと、ドラゴンさんの爪が背後からガンマを襲おうとするのは同時だった。
「ガンマ!危ない!」
言ったものの、ガンマはそれより早く動いて避けた。
なんでそういうことするの?後ろに目でもついてるんですか?はー、好き!!!
まずい、やることなすこと一々カッコいいせいで、好きが語尾になってきたぞ。私、やだよ、好きが語尾のキャラなんて!!
なんて、自分のこれからのキャラクターの方向性に絶望している間に、とある家の屋上までたどり着いていた。おや、いつの間に。
屋上に着くと、優しく下ろされる。
ドラゴンさんを撒いたというわけではないらしく、こちらへ向かってきている。
ガンマが腰に差した大剣を抜く。そしてドラゴンさんを睨み付けたまま、私に告げる。
「キルから、連絡があった。ドラゴン達が暴れていた理由はロダン卿が子ども達を盾に脅していたようだ。ガストローを襲わせていた理由はドラゴンとオーガを同士討ちさせて戦力を削り、後の、人間との戦争を有利にするつもりだったみたいだな」
「はぁ!?そんなしょーもない理由!?」
「まったくだ。こちらは人間と戦争するつもりなどない。ただ対等に接していたいだけだというのに」
そんっっな下らない理由のために、オーガの人たちの暮らしを脅かして、あんなに可愛くて優しいドラゴンさんを泣かせたの!?
魔族に何の恨みがあるかは知らないよ?もしかしたら、のっぴきならない理由があるかもしれない。
だとしても許さない!!絶対土下座させる!!土下座させても許さないがな!!
「キルが子ども達を救出し、王宮へと避難させたから、もう暴れる必要はない、とバハムートに伝えに来たんだが。そう簡単にはいかないらしいな」
「バハムートさんの顔に黒い靄が纏わりついてたよ!今は見えないけど!多分、暴れてるのはそれが原因なんだと思う!!」
「黒い靄?」
ドラゴンさん改めバハムートさんの爪がガンマを襲う。剣でガードして振り払う。バハムートさんの身体がよろめく。
「弱いな。恐らく、バハムートは操られている。本気のこいつはこの程度でよろめいたりしない」
「では、洗脳を解除するために、気絶させてもらえるかしら?さすがにこの巨体じゃ拘束なしでは解除は出来ないもの」
「承知した」
後ろから声が聞こえてくる。優しく穏やかな声に思わず抱きつく。
「わーい、お姉さまだ!大好き!!」
「あらあら、シス。貴女、いつから変態になったのかしら?『色欲』の罪で捕まえましょうか?」
「へ?ーーーあ!!」
お姉さまが私を押し退ける。目線が上半身に向けられているので、胸の辺りを見る。なんと、服は布切れになっており、ほぼ裸も同然だった。
そうだった!オーガに斬られて、バハムートさんに燃やされたんだった!
ってことは、ガンマに裸見られた?
「大丈夫よ。ガンマ王子は見ないようにしてたから、見られてないと思うわ。まぁ、庇うためにあれだけ密着してたから、感触は堪能してたと思うけど」
「うわああああ!!!いっそ殺して!!」
むしろ、上半身裸の変態によくあんな優しい顔出来たな!!ガンマは聖人とか仙人なの!?それはそれでお母さんは心配だよ!あなた、思春期でしょ!?
「ガンマ王子も上着を脱いで裸だったから、大丈夫よ、昼間から露出してる変態にしか見えないわ」
「やめてよおおおお!!わざとじゃないの!!これは違うの!!」
地獄過ぎる!!いったい私が何をしたってんだ!バハムートさんを治しただけなのに!
「何をした?お前はまだ自分が何をしたかわかってないのか?ああ?」
「まだ言ってないってば!」
今度は後ろからお兄さまの声が聞こえたかと思うと、いつの間にか新しい服に着替えていた。おお、さすがお兄さま。
「お前の肩から腰にかけて一直線にマナが集まってるのはどうしてだ?ああ?まるで、一直線に斬られたのを『治癒』か何かで治したかのようじゃねぇか?なぁ?シス?」
「ひっ!なんでそんなのわかるの!?」
「魔法を扱えるなら誰でもわかると思うわよ?マナを感じ取れなきゃ魔法は使えないじゃない?」
お姉さまの言い分はもっとも過ぎてぐうの音も出ない。
死にかけたことお兄さまにだけは黙っておきたかったのに!一瞬でバレるとか!世の中は残酷すぎませんか!?
「ドラゴンが暴れた理由もその原因も取り除いた。これだけ貢献すればもういいだろう?これ以上ここにいて何かしたいなんて言い出したら、お前を殺して俺も死ぬ。他の奴に殺されるくらいなら俺が……」
お兄さまが後ろから私に抱きついて、とんでもないことを言い出した。今までのツケがまとめて来たわ。これはもう無理ですな。私が折れるしかない。
ガンマのことが心配だけど、病んでしまったお兄さまも心配だし。
「そうだね、じゃあ」
「待って。帰る前にもう一つお願いしたいことがあるんだけど」
帰ろうか。と言う前にお姉さまに止められた。
お兄さまが視線だけで殺せるんじゃないかという勢いで睨み付けている。その視線を見るだけで息が止まりそうなくらい怖いので、見ないようにする。
やべ、変な汗が出てきた。
「シスは死にかけたんだぞ?まだ何を頼む必要がある?お前はシスを殺したいのか?」
「仕方ないでしょう。これはシスにしか頼めないことなんだもの」
お姉さまも本当に申し訳なく思っているのか、ため息をついて困ったように目を伏せた。
「私にしか頼めないことって?」
「おい!聞くな!」
お兄さまが止めるけど、頼られると聞きたくなるんだよなぁ。
「ロダン枢機卿を見つけてきてくれないかしら?貴女の嗅覚だけが頼りなの」
そう言って、加齢臭のする赤紫色のカソックを渡してきた。
いや!だから!犬じゃねぇよ!!
燃えた服を破いて捨てるのはオーガ、いや、ガンマだから出来る方法です。実際に服が燃えたら、床や地面に寝転がって消火しましょう。




