効率のこと考えてなかったです!
ヒルダさんと別れた後、ドラゴンと建物を見つける度に、『障壁』でドラゴンの拘束と建物の補強を行っているが、
「これ、きっっつ!!」
ドラゴンは元々マナを大量に纏っているような状態なので問題ないのだが、建物はそうはいかない。大量のマナを纏わせるのは想像以上に大変だった。
「よく考えたら、大勢のドラゴンと国相手に『障壁』唱えてるみたいなもんだからな。そんなのマナがいくつあっても足りないわ。馬鹿なのかな?私!」
そう気づいても、今さら止めることなんて出来ない。お兄さまが原因を突き止めるまで、意地でも続けてやる。
「よしっ!次!!」
何回続けた頃だろうか。動いているドラゴンもだいぶ少なくなってきて、ドラゴンとの距離が開いて走り回るせいで、体力、精神力共にだいぶ削られてきている。
次に目に入ったのは他のドラゴンと比べ物にならないくらい大きい、黒いドラゴンだ。
オーガがつけたのだろうか、身体中傷だらけで、それでも歩みを止めない。ところどころから血が出ている。
目は王宮だけを真っ直ぐ見据えている。ドラゴンの言葉なんてわからないはずなのに、何故だろう。
『助けて』
と言われている気がした。ドラゴンへ向けて『治癒』を唱える。
あまりに大きすぎるので全ての傷を治すには至らなかったが、止血は出来たように思う。
「大丈夫だよ。みんな、貴方を助けようとしてる。大丈夫だからね」
歩みを続ける足の傷があった場所をそっと撫でる。少しは想いが伝わればいいけれど。
「おい!人間!今、何をした!?」
オーガに呼ばれ振り返ると、大剣を構え、怒りの表情でこちらを見ていた。
「怪我してて痛そうだったから、治したよ」
「はあ!?」
やったことを素直に告げると、さらにオーガの機嫌は悪くなったようでさらに睨み付けてくる。
「お前もドラゴンの仲間か!お前がドラゴンをそそのかしたんだな!?」
「はい!?」
「『争奪戦』で彼女たちに手も足も出なかったからと言って、こんなことをするなんて!これだから人間は下等な種族なんだ!!」
「え、ちょ、妄想が過ぎる!傷治しただけだよ!?」
傷を治しただけですっかり黒幕扱いなんですが!?
このオーガ、妄想大好きだな!?身体鍛えるついでに執筆活動してほしい!絶対面白い作品書けるよ!ーーーなんて言ってる場合じゃない!
オーガが怒りに任せて大剣で斬りかかろうとする。もちろん『障壁』で身を守るものの、魔法を連発した疲れからか集中出来ない。いつもよりさらに弱い障壁しか作り出せず、簡単に破られて胴体を縦に真っ二つに斬られてしまった。
さすがに身体が真っ二つに千切れたわけではないが、傷口は深く血が大量に流れている。うわー、これは、助からないわ。
ドラゴンの足にもたれるように崩れ落ちる。
オーガがトドメと言わんばかりに首を狙って横に剣を振る。首が吹っ飛ぶのは初めてだなぁ。
ギュオオオオオ!!!
強風とガラスを引っ掻くような音がくっついたかのような辺りを切り裂く轟音が響いたかと思えば、オーガが燃えていた。
悲鳴をあげて火を消そうともがいているオーガを尻尾で遠くへと弾き飛ばした。
あらー、あれは流石に死んだんでない?
まぁ、言ってる自分もそろそろぼんやりしてきたから、終わりかも。お兄さまとの約束守れなかったな。あんなによくしてくれたのにごめんなさい。
ガンマの大好きなものも守ってあげたかったな。せめてそれくらいはしたかった。
胸の辺りに何かが落ちてきた気がする。感覚的にとても大きな葉っぱが落ちてきたみたいに軽い。
急に辺りが明るくなってきて、ぼんやりとした感覚や鋭い痛みが消えていく。
傷口を見ると、服は裂けていたが傷なんて最初からなかったかのように塞がり元通りになっている。
『大丈夫?治った?』
理解出来ない状況に驚いていると、頭の中から声が響く。同じ年頃くらいの少年の声だ。
え?頭の中?誰?不思議に思い辺りを見回す。
『上だよ、こっち』
上を見上げると、ドラゴンがこちらを見ていた。
目が合ったと思ったら、キュイッ、と先ほどの鳴き声がなんだったのかと思うほど、可愛い鳴き声をあげた。
か、可愛いぃ!!
「もしかしてあなたが傷を治してくれたの?」
『そうだよ、元気になって良かった』
「助けてくれてありがとう。ドラゴンさん」
『お礼は僕の台詞だよ。仲間を止めてくれてその上、僕の怪我も治してくれてありがとう』
ドラゴンさんがまたキュイッと嬉しそうに鳴く。
あー、可愛い。撫で回したい。よく見たら目もつぶらだし、じっとこっちを見られたら心臓がっ!
「お礼を言うってことはやっぱり何か理由があるんだよね?ガンマたちに話してみようよ」
話が通じたことで、なんとか説得しようとするも、ドラゴンさんは悲しげに目を伏せて静かに首を振る。
罪悪感でまた心臓がっ!動悸が収まらない。ドキドキしすぎて死んじゃう!
『それは出来ない。助けてくれて嬉しかったけど、もう僕らのことは構わなくていいよ。さっきのでわかったでしょ?』
「わかったけど、じゃあ、はい、そうですか、なんて出来るわけないじゃん!大好きな人の国が傷つけられて!可愛くて優しいドラゴンさんが助けを求めてるんだよ!意地でも止めるから!」
『……僕のせいで傷つけられたのに、なんでそんなこと言うの?』
励ましたつもりだったのだが、伏せられた目から涙が零れる。うわわ、泣かないで!え!?ダメだった!?
『悔しい。僕が気づいてれば、ちゃんとしてれば、もっと別の形で君と出会えたのに。そしたら、友だちになれたかもしれないのに』
今からでも遅くないよ!と、口に出す前にドラゴンさんの顔を突如黒い靄が包んだ。
靄を払うように首を振りながら、苦しそうに唸りだしたかと思うと、一瞬の静寂の後、こちらを見た。
顔はこちらを見ているのに、目はこちらを見ていない。視線が定まらず、舌がだらりと口から飛び出している。
え?なに?どういうこと?
「ドラゴンさん?」
ドラゴンさんに声をかけるが、反応はない。その代わりに
ギュオオオオオ!!!
息を吸い込んでいる。その時の音がなんだか物凄く聞いたことがあって、物凄く嫌な予感がする。
わぁ、なんか口から炎が見えるー。ワー、キレイダナー。
いやいやいや!!嘘でしょ!?死ぬ!さっき生き返らせてもらったばかりなのに!!
『障壁』は炎でも雷でも防げるけど、今の私の強度では一瞬で粉々だ。
逃げるか!?どこに!?ドラゴンさんはとても大きいから範囲も広そうだ。走って逃げても恐らく間に合わない。
転移魔法が使えたらなぁ!
なんて考えてる間に、ゆっくりと口が開き、炎がこちらに襲ってくる。無駄と知りつつ、『障壁』を唱えようとした。
けれど、それより早く身体が宙に浮き、目の前が真っ暗になった。誰かに抱き締められている感覚。
ーーー違う。これは誰かじゃない。私は知っている。この腕、この匂いは!
「ガンマ!!」




