表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
四章 大戦勃発!?編
67/87

想いの強さ









『争奪戦』当日。

一応、お兄さまに頼んで練習はしたけど、まったく自信はない。気持ちの勝負なら自信あるんだけど、それじゃあダメですかね。



『争奪戦』を行う場所はドラゴン達が食料を運んでいたあの円形の建物。やはり闘技場であっているようだ。王族の大事な決定は全てこの闘技場で行われるらしい。

また『争奪戦』ではオーガだけでなく、ドラゴン達も人型になって見に来るらしく、私が闘技場に来たときにはもう闘技場の観戦場所は人で埋め尽くされていた。



「うう、緊張するなぁ」



闘技場内にある控え室のような場所で、呼び出しがあるのを待つ。たくさんのオーガの女性に囲まれて、完全に萎縮してしまう。

みんな一様にこちらを睨んでいて怖い。放っておいてくれないかなぁ。



「こんな細くて小さい身体の女がガンマ王子の婚約者?あり得ないんだけど」


「噂じゃガンマ王子と本気の組み手をしても遅れをとらないし、王女をたった一撃で倒した実力者だって聞いたからさぞかし体格の良い女が来ると思ったのに」


「ガンマ王子、騙されてない?」



あのー、聞こえてますよー。正々堂々の精神は素晴らしいと思うけど、その会話はせめて私がいない時にしてください。いたたまれないんですが。

ふと、私の目の前に1人の女性が現れた。周りのオーガの女性たちより小さくて細く若い。私と同じくらいの年頃だろうか。



「モニカ王女から話を聞いてるわ。あなた、そうやってモニカ王女も油断させて倒したのよね?私は絶対に油断したりしない。人間の女なんかにガンマ王子は渡さないんだから!!」


「そう言われても、私だってガンマが好きだから譲りたくない」


「人間ごときが!ガンマ王子を呼び捨てにするな!!」



自分の素直な感想を口にしたつもりだが、それが気に入らなかったらしく、拳を振り上げた。

一回くらいなら受け止められるかなぁ、なんて考えてると、今度は逆に女性たちの中で一番大きくてがっしりとした体格の女性が手首を掴んだため、拳が振り下ろされることはなかった。



「止めなさい、ヒルダ。まだ『争奪戦』は始まってないよ」


「ラミルダ姐さん!」



どうやら小さい女性はヒルダさんで、大きい女性はラミルダさんと言うようだ。



「あんたがこの『争奪戦』に並々ならぬ思いを抱いているのは知ってる。だからこそここで殴って失格になったら意味がないだろ。闘技場に立てなきゃ王妃になるっていう夢も見れないよ」


「……わかりました」



ヒルダさんが拳を下ろしてくれた。でも、相変わらず親の仇かというくらい睨み付けて、



「あなたを倒すのはこの私なんだから!闘技場に立ったらおぼえていなさい!」



と捨て台詞を吐いて何処かへ行ってしまった。もうすぐ始まると思うんだけど。いいのかな?何処か行ってて。



「あの子、ガンマ王子の熱烈な信者で有名な子だからね。王子が人間の女に夢中って噂が立っても信じずにずっと己を鍛えてこの『争奪戦』を楽しみにしてたから」


「ガンマ、王子、カッコいいもんね。憧れるのわかるなぁ」



呼び捨てにしようとしたら、ラミルダ姐さんに睨まれてしまったので慌てて王子をつけると許してもらえた。



「当たり前よ。若い女はみんな王子を狙ってるわ。人間に友好的すぎるっていう欠点に目を瞑ればこれほど最高の男はこの世に居ないわよ。赤子の頃に襲ってきた狼を返り討ちにし、9歳という史上最年少でガストローへ帰還する偉業を成し遂げたんだもの」


「偉業はそれだけじゃないわ!帰って来てすぐ、人間との恒久的な和平に向けて進言したことで、他の王族と対立。2年後には王さま以外の全ての王族との決闘に勝利したの!史上最年少の王太子の誕生よ!ガストローの歴史を次々と塗り替えていってるの!まさにオーガという種族を体現しているわ!」


「あら、王子の凄さは武力だけじゃないわ。人間の文化を取り入れてそれをオーガの文化に適応させる柔軟な思考だって素敵よ。人間の採掘技術をオーガに広めたおかげで、砂地と荒れ地ばかりだと思っていたこの国にも鉱山があるとわかったんだから!」


「おかげでドラゴンや人間からの略奪に頼りがちだった私たちも安定して収入を得ることが出来るようになるばかりか、人間と貿易が出来るようになって見たこともない食べ物や品物が届くようになったのよね。まぁ、貿易に関してはまだ足元見られてるのがむかつくけど」


「でも、食べ物がなければ知恵もないと馬鹿にされるよりは遥かにマシ!ガンマ王子はこれからのガストローを担う世界一素晴らしい方よ!この『争奪戦』に勝って王子の支えとなれたら女としてこれ以上の幸せはないわ」



ラミルダ姐さんがガンマの自慢すると、みんな目を輝かせて寄ってきて、次々とガンマがいかに凄いか自慢してくる。みんなガンマを語る顔はうっとりして幸せそうだ。恋する乙女って良いなぁ。



「おーい!そろそろ時間だ!闘技場に集まれ!」


「時間ね。わかった?私たちはこの国の未来を担ってるの。あんたがどれだけ強くても私たちはあんたに負けないんだから!」



男の人の呼ぶ声が聞こえると、さっきまでの幸せそうな表情から一変、再び、睨まれたあと闘技場に集まるためか何処かに向かっている。

私も、置いていかれないよう必死でついていく。



私、ガンマのこと何にも知らなかったなぁ。聞いてたこともあったけど、ほとんど知らないことばかりだった。そんな私がここにいて、いいのかな?










闘技場に集まると、司会らしい男の人が大声でルールを説明している。

相撲のような四角く盛り上がった土の上に石灰か何かで白く囲われた円の中で戦いが行われる。

武器は切っ先が丸い模造剣。

勝敗は相手をこの白い円の外側に落として最後の1人になれば勝ち。

昔は殺したら勝ちだったらしいが、ただでさえ少ないオーガの人数がさらに減少するのを恐れてガンマのお父さんの代からこの白い円が追加されたらしい。

そこだけは国王さまグッジョブです!

尊敬の意味を込めて国王を見ようとすると、隣にいたガンマと目が合う。

目があったのが嬉しくて手を振ると、ガンマも手を振り返してくれた。

心臓の辺りがギュッとなってドキドキする。それから猛烈に好きって気持ちが襲ってきてそわそわする。

そうだ。私だって彼が好きなんだ。負けるかもしれなくたって、他の人達に気後れする必要なんかない。

彼への気持ちを再確認して自信を取り戻す。


やるだけやってやるって決めたじゃん!行くぞ!


私の決意と開始の銅鑼が鳴るのはほぼ同時だった。女性たちの雄叫びと共に乱闘が始まる。

あんなに嫌われてたのに、始まったら私に見向きもしない。相手にされてないんだなぁ。

せっかくなのでオーガさん同士の戦いを眺めていると、手が右に動く。

模造剣とはいえ、金属で出来ているので金属同士がぶつかりあう高い音が耳に響いて痛い。

私を攻撃しようとした相手はどうやら最初に絡んできたヒルダさんのようだ。



「あんただけは私が倒す。王子をあんたみたいな人間に渡さない!!」


「うわっ!」



血走った目でがむしゃらに打ち込んでくる。もちろん打ち込んでくるだけなので、全て受け止めることが出来るが、ただそれだけだ。



「なによ!さっさと打ち込んで来なさいよ!受け身ばっかり取って馬鹿にしてるの!?」


「そんなこと言われても、私、守り専門で、攻撃はそんな得意じゃないと言いますか」


「ふざけないで!王子に見初められたからって私を馬鹿にしてるの!?」



攻撃の勢いがさらに増して、徐々に円の縁へと追い込まれる。

攻撃を模造剣で受け止められても衝撃まで受け止めるには力が足りない。怪力を失い、標準の人間女性の体力の私とオーガとして日々鍛えていたヒルダさんでは腕力だけでも圧倒的な差がある。

それでも最小限の衝撃に抑えてるのは、負けたくないって思う気持ちのおかげだ。



「なんであんたなんかのために王子が!私の方が王子のこと支えてあげられる!この5年間ずっと!王子のことを見続けて来たんだから!!」



勢いは止まることを知らない。まるでこの瞬間に命を賭けているかのように。



「王子は人間に正体がバレて殺されそうだった私を助けてくれた!それどころか、こんなに弱い私を馬鹿にせずに細くて小さいからこそ強くなれるんだっていって戦い方を教えてくれたわ!私がこうして『争奪戦』の資格を得られるほど強くなったのは王子のおかげなの!!」



ガンマに救いだされて、ねぐらに居たときを思い出す。

せっかく手合わせしてくれたのに、まったく攻撃を当てることが出来なかった。なのに、それでも彼は呆れたりせずに、むしろ私の反射能力を誉めてくれた。


なんだか、私を見てるみたいだ。



「それからずっと!朝も昼も夜も!!王子の役に立つことだけを考えて生きてきた!死に物狂いで鍛練を積んできたの!あんたにその覚悟がある!?私はあんたからその覚悟は感じない!あんたじゃ王子は幸せになんてなれない!!攻撃も出来ないあんたなんか!!」



彼女の想いが痛いほど伝わってくる。きっと物凄く努力したんだろうな。本当に文字通り死に物狂いで頑張ってきたんだろう。

私は、どうかな?確かに反射能力に魔法を組み込んだり、誰かの役に立つために神聖魔法を覚えたり、やってきたけど、彼女に向かって堂々と私も頑張ったんだ、って言える?

圧倒的な差を埋めていたのはガンマを好きだという気持ち。でもそれすら負けてる私はどうしたらいい?





気づけば円の外に出ていた。ヒルダさんが私が円の外に出ているのを見て泣いて喜んでいる。そして他の参加者のところへと向かっていった。

……負けちゃった。実力だけじゃない。気持ちもヒルダさんに全然敵わなかった。

あれがきっと『恋』なんだろうな。大好きな人のために命を賭けて尽くそうと覚悟を決めた姿。私を愛してくれたガンマと同じ。

私はきっとあんな覚悟は持てない。だって最初から勝てないと諦めてたから。もうその時点でガンマへの気持ちでも彼女たちに負けてたんだ。

私は小さいし、派手な闘いをしていた訳じゃないから、観戦者は私の脱落に気づいていないようだ。ーーーガンマ以外は。


闘技場を出て控え室に向かう廊下でガンマに会う。観戦席からこの廊下は反対方向だ。なのに、ここに居るということは想像も出来ない速さで来てくれたんだろうな。

苦しかった胸が少し和らぐ。



「どういうことだ?ヒルダは確かに強いが、姉さんよりは遥かに弱い。シスが本気を出せば負けるはずは」


「言ってなくてごめん。私、今のチートを得る時にあの時の怪力はなくなったんだ。だから、私はここにいる誰よりも弱いの。力も気持ちも。それでも私のこと、好き?」



混乱するガンマには申し訳ないけど、追い討ちをかけるように告げる。そして、その上で問いかける。

まぁ、好きだろうと好きじゃなかろうと私の答えは決まってるけど。



「おれ、は……」



いつも私を見てくれていた目を伏せて、言葉を詰まらせる。そっか、それが答えなんだね。良かった。

懐から角のペンダントを取り出す。そしてガンマの手に握らせた。それがどういう意味なのかはオーガであるガンマにはわかってもらえたと思う。



「シス、待ってくれ俺は」


「よく考えたら私みたいなどうしようもない人間がガンマみたいな完璧で素晴らしい人のお嫁さんになろうなんて無理だったんだよ。そんなことちょっと考えればわかったのに、なんで気づかなかったんだろう」



ガンマの言葉は聞かない。聞くと決心が揺らいじゃうから。最後まで我が儘でごめんなさい。

あなたが望む『強くて優しくて美しい』私にはなれなかった。



「ヒルダさんもラミルダさんも他の人もみんなガンマのこと大好きだったから。ちゃんと見てあげて。好きな人に応援されると女の子って強くなるんだよ」


「俺は!!シスしか見たくない。他の誰が強くなってもそれはシスじゃない」


「私は負けたからもう見なくていいよ。さようならしなきゃ」


「『争奪戦』は次の王妃を決める戦いだ。俺が王子でなければ、王子をやめれば、そんなことは関係ない。そうだ、君と一緒になれないならいっそ」



ペチッ



とんでもないことを言い出したガンマの頬を叩こうとしたが、背が足りなかったので肩を叩いた。


くぅ!この身長差が憎い!!


急に肩を叩かれたので呆然とするガンマの肩をもう一回叩く。またペチッと可愛い音がする。せめて!音!!もっと痛そうな音してよ!!



「私が好きなガンマはそんなこと言わない。自分の責任を放り投げて女に現を抜かすような人じゃない。優しくて真面目で、守るために逃げることはあっても、大切な人を捨てて逃げる人じゃない。だから私は大好きだった。私だけじゃない。今、『争奪戦』で戦ってる人はみんなそんなガンマが大好きなんだよ」



そんなガンマに好かれてる自分が誇らしかった。そんなガンマを支えられるのは自分じゃないと悟ったから悲しかった。

だから、



「私は!嫌いな人と結婚するなんて絶対いや!ガンマが弱い私を受け入れられなかったように大切な人を捨てようとするガンマを私は受け入れない!大嫌い!!」


「シス……」


「さようなら。約束叶えてくれてありがとう」


「シス!!」



目が震えてきて視界が滲む。もう限界だ。振り返らずに真っ直ぐ進む。後ろからは歓声と悲鳴が聞こえる。それが終わった頃にはきっとガンマも元の彼に戻ってくれると思う。



初恋が叶わないなんて少女漫画でも今時やらないよ。



「ベタ過ぎて泣けてくる。こんなの知りたくなかった」



いつの間にかお兄さまに抱き締められて号泣していた。お兄さまは何も言わず聞かず、ただ私を抱き締めてくれた。

そう言えば後ろから抱き締められることはよくあるけど、前から抱き締めてもらうのは久しぶりだな。

なんだかすごく安心するかも。


なんて思ってると、どんどん眠くなってくる。起きたら、一緒にこの苦しい気持ちもすっきり出来ると良いなぁ。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ