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ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
四章 大戦勃発!?編
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5年ぶりの再会です!!










馬車の中の沈黙が凄い。沈黙が凄いってなかなかパワーワードだと思うけど、そうとしか言えない。

沈黙って静かじゃん。でも、周りの雑音は聞こえてくるもんでしょ?静寂じゃなくて沈黙なんだから。

でも、雑音も聞こえてこないくらい空気が重くて、馬車の外と完全に隔離されてるようだ。

この沈黙の理由はわかってる、お兄さまの機嫌がものすごく悪いから。

お兄さま、ガンマくんのこと嫌いだから仕方ないんだけど、こんなお兄さま見たことないくらい機嫌が悪い。



「シス、やっぱり進路変更して別荘に帰らないか?美味しい焼き菓子とお前の好きな桃の葉の紅茶淹れてやるから」


「ダメだよ。アルファと約束したでしょ?帰るのはガンマくんと話し合って決着つけてからだよ」


「チッ」



アルファとの約束がなくても、ガンマくんが私を婚約者を思ってるならその話し合いはしておかなきゃ。

どう転んでもガンマくんに会いに行かないって選択肢はないんだよ。

お兄さまは舌打ちして再び沈黙が馬車の中を包む。気まずい。早く目的地に着かないかなぁ。




突如、馬車が止まる。 窓を見ても、ヴァルハラの住宅地で大聖堂からは遠い。

窓を開けて身を乗り出し、御者さんに尋ねる。



「何かあったんですか?」


「何か大聖堂で事件があったようで、ここ数日大聖堂へは行けないようになってるそうなんです。どうしましょうか?」


「事件?魔族の王子が訪問してるこんなときに?」


「え!?魔族の王子がこのヴァルハラに!?ひえええ、なんて恐ろしい」




ガンマくんが訪問してるこんなときに、事件があって入れない?


そんなの絶対関係ないはずがない。お姉さまとガンマくんは無事なの!?何があったんだろう。



「お兄さま、お願い」


「いやだ」



調べてもらうようお願いしようとしたが言う前に断られてしまった。ケチ!



「ちょっと調べてきてくれるだけでいいの!お姉さまとガンマくんが無事かどうかだけ調べてきてよ!」


「オーガの件で随分調べただろう。アルファもいない今、お前を守れるのは俺だけだ」


「私は大丈夫だよ!もう14だよ!?一人でいられるし!」


「そんなわけあるか。お前は自分のことを軽く考え過ぎだ」



なんとか説得しようと頑張るものの、シスコンを極めているお兄さまは首を縦には振ってくれない。

もう!こんなことしてる場合じゃないのに!



「もういい!お兄さまが調べてくれないなら私が行く!」


「待て!何の事件かもわからないのに向かうのは危険だ!今日のところは戻るぞ!」


「いや!絶対行く!!お姉さまとガンマくんに会いに行くの!!」



馬車を降りて大聖堂へ走り出そうとしたが、意図も簡単にお兄さまに捕まってしまった。

じたばたと暴れるものの、体格差があるのでお兄さまはものともしない。



「シス、聞き分けてくれ。ガンマは知らんが、あの女が事件が起きたくらいでどうにかなると思うか?」


「そりゃそうだけど!確認するまではわかんないじゃん!だって大聖堂へ行けないなんて相当だよ!?聞いたことないことが起きてるんだよ!?」


「それはそうだが」


「だからお兄さまが調べないなら私が行くの!邪魔しないで!」



お兄さまは私を捕まえたまま黙ったかと思うと、私の手を離してくれた。



「わかった。そこまで言うなら何が起きたか調べてきてやる。すぐ済むからここを動くなよ」


「ありがとう!お兄さま!」



お兄さまが振り返って御者さんに、



「おい、俺が戻るまで妹を見ていてくれ。妹に何かしたら、わかってるだろうな?」


「わ、わかってますよ。いやだなぁ」


「じゃあ、シス。いい子にしてろ」



私の頭をぽんぽんと軽く叩くと、消えた。御者さんが信じられないものを見る目でお兄さまが消えた所と私を見る。

あー、転移魔法は珍しいもんね。私は慣れてきたけど、御者さんは違うもんね。

何度か私と消えた所を交互で見たあとに、おずおずと、馬車の中へ入るよう勧めてくれた。



「お兄さんはすぐ帰ると言っていましたし、中で待っていてはいかがですか?」


「はーい」



確かにずっと立っているのは疲れるからね。御者さんのお言葉に従おう。

馬車の中に入ると、何やら甘い香りで充満していた。



あれ?こんな匂いしてたっけ?しかも、この匂い、どこかで嗅いだような?


そうだ!前に拐われる時に嗅いだ匂いだ!ってことはまた眠っちゃう!


急いで馬車から出ようして立ち上がるも、強烈な眠気に崩れ落ちるように気を失ってしまった。











目を覚ますと、檻の中でした。



「いや!!デジャブ!!」



なんでこうなるの!?不運ってばお兄さまが居なくなったらすぐ来るやん!!自重して!?



「目が覚めたかね?」



赤紫色のカソックを着た初老の太った男の人とさっきの御者さんが檻の外、すぐ横で私をにやにやと見ている。え、きもっ。

カソック男さんが私に声をかける。



「私、檻の中に入るようなことは何もしてないと思うんですけど。出してもらえませんかね?」


「はぁ!?忘れたとは言わせないぞ!私の商売を台無しにした挙げ句、めちゃくちゃにしやがって!私は職も金も人生さえ失ったんだ!」


「はぁ……?」



御者さんがにやにやした顔から一転して、激しく怒り出した。喜怒哀楽の切り替え早すぎん?これが情緒不安定か。近寄らんとこ。



「本当に覚えてないのか!?貴様っ!!」


「やめろ、触ると雷が来るぞ。それにお前が手を下さずとも、こいつらには神罰がもうすぐ下る」


「そうでした」



カソック男さんが御者さんを嗜める。神罰?だから私、我が儘だけど犯罪はしてませんって!犯罪を容認してるけど。


はっ!まさかそれがいかんのか!いや!待って待って!だってそれは生きるためじゃん!?必要以上のことはしてないよ!?正当防衛!正当防衛を主張します!!


二人以外に目を向けると、ここはどうやらヴァルハラ大聖堂の礼拝堂のようだ。なぜ私は礼拝堂で手錠をかけられた状態で檻に入れられなければならないのか。

見世物じゃねぇんだぞ。こっちはよぉ。



「ここって、ヴァルハラの礼拝堂だよね?お姉さま、じゃなかったユリシア様はどこにいるの?」


「ユリシア様はガンマ王子率いるオーガ部隊の暗殺未遂事件により心を痛めている。だから、お前たちの断罪にはお越しにならない」


「は?オーガ、特にガンマくんは正々堂々が好きなんだよ。暗殺なんてするわけないじゃん」


「だが、実際に暗殺未遂事件は行われている!ガンマ王子を断罪するためお前には人質となってもらう。魔族と婚約する人間の裏切り者め」


「言っておくが、以前のようにその檻を壊せると思うなよ。檻には雷魔法が施され、手錠は以前の20倍硬くしてある。誰であろうと檻も手錠も壊すことは出来んぞ!」



言っていることの理解が出来なくて眠くなってきちゃった。無視して寝ちゃおうかな。

飽きてきたのでお兄さまの迎えが来るまで寝ようかな。


すると礼拝堂の入り口から何やら大きいものが運ばれて来るのが見える。滑車を数人の男たちが押して礼拝堂の中まで入ってくる。



「連れてきました!」


「ご苦労。下がっていいぞ」


「はいっ!」



男たちはすぐに礼拝堂を後にした。我先にと言わんばかりの早さで走って出ていってるので、よほど怖いものが入ってるんだろう。

ええ、なに、怖い。恐る恐る檻の中を見ると、巨人がいた。


え?いや、嘘じゃないって。2メートル越えているであろう巨大な男の人がいた。オーガだろうか。

顔はここからではよく見えない。でも彼の姿、どこか見覚えがあるような。



「ガンマ王子!部下を使い、聖女ユリシア様を暗殺しようとするとはヴァルハラへの宣戦布告とみなす!貴方の首をガストローに届け、開戦の合図としよう!」



カソック男さんの言葉に、あの巨人さんがガンマくんだと知る。

待って!?デカい!ガンマくん、まだ伸びるの!?すごい!

前世にはあんなにデカい人は近くにいなかったからなぁ。2メートル越えの景色を後で教えてもらおっと。



「……聖職者の言葉とは思えませんね。私が学んだフレイヤ教の教えでは自衛以外の殺しは『憤怒』の大罪のはずですが」


「なにを白々しい!そもそも貴様が暗殺を企てておいて!失敗すれば自衛のための戦争を大罪だとぬかしおって!!」


「ガンマくん!おーい!!」



大事なお話してるみたいだけど、ガンマくんが私に気づいてないのが面白くないから呼んでみよう。

両手を挙げて左右に振って見ると、ガンマくんが訝しげに声のする方に視線を移し、私と目があった瞬間に信じられないものを見たかとのように口をぽかんと開けて呟く。



「シス……?」


「やっほー!お久しぶり。確かにまた会いたいとは思ってたけどさ、お互い捕まってる状態で再会するなんて面白いね!」


「ああ、シスだ。間違いなく本物だ。まさかここで会えるなんて」



感極まって泣きそうなガンマくんにつられて泣きそうになる。

会うまでは婚約していたらしいのに二重で婚約しようとしてたことの申し訳なさとかちゃんと話し合ってガンマくんの想いに真摯に向き合えるのかとかごちゃごちゃ考えてた。

いざ、会ってみるとそんなことより何よりもっと彼に近づきたい。前みたいに彼と色んな話がしたい。



「少し予定が違ったが、まぁいい!お前の惚れた女を解放してほしいなら!自分で首を斬って死ね!!」


「シス、ここだと成長したシスの姿がよく見えない。近づいても構わないか?」


「うん、私もガンマくんの姿がちゃんと見たいから、もっと近づいて話そ?」


「おい!聞いているのか!?」




パキンッ




「ん?何のーーー」




バチバチッ……ギギギギィィィィィン




「はぁぁぁ!!?」



ガンマくんが手錠を引きちぎって、鉄格子を折り曲げた。鉄格子を折り曲げるとき、なんか火花みたいなものが見えたけど熱くないのかな?



「おま、お前!!いったい何をしたんだ!?」



御者さんが檻から出てこちらへやってくるガンマくんを指差して叫ぶ。

何言ってんだこいつ。私とガンマくんは見合わせてから、答える。



「なにって、手錠をちぎって、鉄格子を折り曲げただけだが?」


「そうだよね?見たらわかるじゃん。おじさん、何言ってるの?」


「そういうことを言ってるんじゃない!!」


「シスはやらないのか?」


「うん、私は出来ないの。ガンマくん、やってー」


「わかった」


「無視するな!!」



外野がうるさいなぁ。私とガンマくんの5年ぶりの再会やで?黙っててほしいんだけど。

カソック男さんがガンマくんに向けて魔法を放つ。

ガンマくんは一瞥すると、白いレーザーのような魔法を見ずに片手で受け止め、握り潰した。

は?握り潰した!?なんで!?どうやって!?



「な!?馬鹿な!?魔法を握り潰す!?そんなこと出来るはずがない!!」


「すごい!ガンマくんさっきのどうやったの!?カッコいい!私もやりたい!」


「ああ、あれか?シスでも出来る。あれはおそらく『神罰(ジャッジメント)』だろう。『神罰(ジャッジメント)』は不信心者に対して効果を持つ魔族対策の魔法だ。だが、俺はフレイヤ教に理解を示しているから、ただ光を当てられただけなんだ」


「やったー!お姉さまに協力してやらせてもらう!」


「女神より賜りし『神罰(ジャッジメント)』が通じない……?聞いてないぞ!こんなこと!あの方(・・・)はそんなこと仰っていなかった!!」



カソック男さんはぶつぶつと何かを呟いて、消えた。転移魔法が使えるなんて、さっきの魔法と言い、あのカソック男さんは実は凄い人だったのか?

残された御者さんは身体を丸くして伏せ、両手で頭を覆い、こちらも何かぶつぶつ呟いている。


邪魔が入らなくなったので、ガンマくんが私の分の手錠を手刀で壊してくれて、鉄格子を折り曲げてくれた。

なんか立場が逆転しちゃったな。まぁ、ここまで体格差があれば当然だけど。

檻から出ると、ガンマくんに抱き締められる。



「会いたかった。ずっとずっと、ずっと!会いたかった!5年も待たせてしまってすまない」



溢れる想いの丈を絞り出した声で、ガンマくんの想いを全力でぶつけてくる。

そういえば、別れる前のガンマくんもこんなだったなぁ。思い起こしてみればガンマくんはこんなに私へ気持ちをぶつけてくれていた。

なのに、自分の気持ちに蓋をしていたせいで、ちゃんとガンマくんと向き合えていなかった。

彼はいつだって私の言葉に真摯に向き合ってくれてたのに。



だから、私も彼に今の正直な想いをぶつけよう。



「私も、会いたかった。だから、ガンマくんとの約束を守ってずっと角を持ってたし、迎えに来てくれるのを待ってたよ。また会えて嬉しい」


「相変わらずシスは俺を喜ばせるのが上手だな。そう言ってもらえるだけでこの5年の苦労が全て報われた気がする」



そう言って抱き締める力を少し強める。しかし、痛みはまったくない。私のことを考えて手加減してくれてるんだろう。そんななんでもないことがなんだか堪らなく嬉しくてくすぐったい。



ああ、そうか。これが『恋』なんだ。私、ガンマくんに恋してたんだな。











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